駐車場で、周りが空いているのにわざわざ隣に停める「トナラー」を見かけたことがあるかもしれません。一体どのような心理なのでしょうか。臨床心理士に聞いてみました。

なぜ「トナラー」される? 臨床心理士の分析は

 大型ショッピングモールや公共施設などの広い駐車場で、周りに誰もいないところに停めたにもかかわらず、戻ってきたら隣になぜか車が―――。
 
 駐車場が空いているのに、わざわざ隣に停める人を「トナラー」と呼びます。こうしたトナラーは、一体どのような心理で“トナラー行為”をするのでしょうか。

 クルマを大事にしている人は、駐車場であえて周りに誰も停めないところにポツンと1台駐車することがあります。

 周りから離れたところに停めると、隣のクルマにドアをぶつけられる「ドアパンチ」を予防できるからです。

 また、離れたところに停めると、ほかのクルマに隠れたりしないため、用事を済ませたときに探しやすいということもあります。

 しかし、そんな停め方をしたのに、戻ってきたらなぜか仲良く隣に他車が停まっていることがあります。しかも、隣だけでなく両サイドでサンドイッチされていることも。

 わざわざ離れたところに停めたのに、なぜ隣に停めるのか不思議に思う人もいるかもしれませんが、この行動にはいくつかの心理的要因が影響していると考えられています。

 臨床心理士の話によると、「同調性」と「群れ行動」も影響していると言います。

 人間には同調性という性質があり、他者の行動に無意識のうちに影響を受けてしまう傾向があるそうです。

 駐車場で、もし離れたところに停めたいと考えたときに、誰かが同様に遠くに停めているのを見たことで、自分も無意識のうちにそこに停めてしまうのかもしれません。

 また、人は群れの中にいることを好む、群れ行動の習性を持っています。個々の性格により大きな集団に属することが苦手な人も、隣りに他者がいれば、安心感や連帯感を覚え、心理的に落ち着くことができるからです。

 この同調性や群れ行動は、人間が持つ深層心理の1つです。集団に所属し、仲間と協調することで、安全を確保しやすくなるためです。

 ただ、人によってその好む集団が異なり、現代社会の駐車場においても「離れたところでも誰かの隣」を無意識のうちに発現しているのかもしれません。

 同様のシーンはPAやSAのトイレでも見かけます。たくさんあるトイレの個室もなぜか誰かが入った隣を利用するケースが多く、順に隣にずれて使用中になるのを見たことがある人もいるでしょう。

 また、空いているトイレで、ポツンと離れた個室トイレを利用しているにもかかわらず、隣に誰かが入る音が聞こえることも、トナラーと同じ心理といえます。

完全に防ぐのには無理がある?

 公共交通機関でも、車内が空いているのに、あえてとなりに座ってくる人がいます。

 先程の心理士に聞いてみると次のように話します。

「人には自分を中心として両手を広げたぐらいの空間である『パーソナルスペース』をキープしたい気持ちがあります。

 このパーソナルスペースを他人から侵入されるとストレスを感じます。

 しかし、満員電車やエレベーターの中など、どうしてもパーソナルスペースを確保できない時は、周りの人をモノとしてとらえる『没人格化』のメカニズムが働いて、不快感をやり過ごすことができます。

 ただし、このメカニズムが維持できる時間は人によって大きく違います。

 飛行機や新幹線の隣座席のように長時間でも全然気にならない人もいれば、ひどくストレスを感じる人もいます」

 つまり、がらがらの電車や映画館、レストランで、あえて隣に近づいてくる人はこのメカニズムの没人格化が長い人ともいえます。

 人へのトナラー対策としては、あえて後から来る人と目が合う位置に自分がいることで近づかれることを予防できるようです。

 人は目が合うと威嚇された気持ちになり、自然に避ける傾向があるため、近づきにくくなるからです。逆に背を向けていたり、横向きだったりするとパーソナルスペースに侵入される可能性は高まります。

 では、自分でできる車のトナラー対策はあるのでしょうか。

 まず1つ目が「片側を壁際に寄せて停める」です。停める際に、片側を壁や縁石など、隣に停められない箇所に寄せて停めれば、その側からはトナラーされる心配がありません。片側はトナラーの侵入を防げます。

 2つ目が「停めにくい場所を選ぶ」こと。わざと駐車が難しい場所やスペースを選び、後から来る人には停めにくい位置に停めておくことで、トナラーを防げる可能性があります。ただし、自分の運転スキルが必要です。

 そして3つ目が「1台しか停められない場所に停める」。1台分のみの駐車スペースを見つけて停めれば、そこにはトナラーされません。

 しかし、こういった対策を施しても、隣に駐車スペースがあれば、トナラーが完全に防げるわけではありません。結局のところ、後から来る人次第なので、対策には限界があります。

※ ※ ※

 完全には防げないトナラーですが、心理士の話では「トナラーされた時は、あまり気にしないことが大切です」と話します。

 防ぎようのない事象であるため、「なんでわざわざ隣に停めやがったんだ!」とイライラするのではなく、「ああ、きっと隣に停めたい気分だったのだろう」と受け入れる心構えも大切だそうです。

 クルマを大事にしている身としては、少しでも傷付きなどのリスクを減らしてきれいに維持したいのでやはり遠くに停めておきたいですが、寛大に捉える気持ちも必要なのかもしれません。