信州大病院(長野県松本市)の村上寛(むらかみ・ひろし)医師(39)が2024年1月、育児を始めたばかりの父親の心の不調などを専門とする「周産期の父親の外来」を新設した。早くも県内全域から20〜40代が通い始め、ニーズの高さを実感。「『父親は強くあらなければ』と声を出せない人もいる。しんどくなったら頼ってほしい」と呼びかけている。(共同通信=富田真子)

 「調子はどうですか」。3月上旬、村上さんは、診察室に入った30代男性に語りかけた。昨年7月に娘が生まれ、育児をする中で体調不良に。妻の助産師の紹介でこの外来を受診した。村上さんは初診でうつ病と診断し、抗うつ薬を処方。2度目の受診となるこの日は、薬の効き具合や症状を聞き取り、今後の治療方針について「服薬は続けて、1カ月後に再診してください」と話した。

 男性が体調の異変に気付いたのは1月初めごろ。「朝起きるのがつらく、午前中は特に気分が落ち込んだ」と振り返る。周囲にも元気に振る舞えず「(子育てを)頑張りたくても頑張れない」と焦りもあった。「苦しい時に治療の道筋を具体的に立ててもらえて助かる。気分の落ち込みもなくなった」と話す。

 村上さんは2021年春、母親の「産後うつ」などを診察する外来を始めた。多くの妊産婦と話した経験から「父母どちらかが産後うつになれば、もう一人の心も不調になりやすい」と考え、父親がSOSを出しやすいよう専門外来を新設した。

 村上さんによると、母親の産後うつの特徴的な症状は「不安焦燥感」。父親に関する研究は遅れており、症状も個人差があるという。症例を分析することで「父親の苦しみの理由を解明することにもつながるのではないか」と期待する。

 政府は男性の育児休業取得を促しているが、厚生労働省の2022年度調査によると民間の取得率は約17%と低迷。対応が遅れている企業も多く、父親が職場との板挟みになり悩むケースもある。

 村上さんは「心の不調を訴える人は今後増えるのではないか」と予測。出産前から夫婦で育児への向き合い方や働き方を話し合うなど、産後の生活についてイメージをすり合わせることを勧めている。