ミレニアル世代と呼ばれる若者たちとムラカミカイエ氏との対談録。第14回目は前回に引き続き、2020年の春にアウトドアブランド「Snow Peak」の社長に就任した山井梨沙氏を迎えた。後編で語られるのは、これからの展望やアウトドアの価値について。衣食住から遊働まで。人の暮らしのあらゆるところで、自然との関係性が見直されていく。そんな未来を想像したい。

ミレニアル世代と呼ばれる若者たちとムラカミカイエ氏との対談録。第14回目は前回に引き続き、2020年の春にアウトドアブランド「Snow Peak」の社長に就任した山井梨沙氏を迎えた。後編で語られるのは、これからの展望やアウトドアの価値について。衣食住から遊働まで。人の暮らしのあらゆるところで、自然との関係性が見直されていく。そんな未来を想像したい。

私たちだからこそ、できることをしよう

前編の対談では、山井梨沙さんのパーソナリティを形作るものや、「Snow Peak」の経営者になるまでを聞いた。今、社会ではアウトドアの需要が伸び、その価値が見直されている。さらに世界中のあらゆる都市や産業で、環境への配慮が欠かせない視点となっている。間違いなく、人と自然との関係性が変わりつつある。そのような時代に、キャンプや自然の中で過ごす時間と、ノイズミュージックや都市生活を等しく愛する彼女が、アウトドアのど真ん中にいるブランドを率いていくことになった。新しい何かが生まれそうな予感。彼女が思い描く展望が、ますます気になる。

人間にはキャンプへの潜在的な欲求がある

ムラカミカイエ(以下ムラカミ) そもそもなんだけど、なぜ僕らはキャンプをしたくなるんだろう?

山井梨沙(以下 山井) それはきっと人間だから、というと話が大きくなりすぎますけど(笑)。私たちの生活は本来、自然の上に成り立ってきたはずですよね。でも文明が成熟していく中で、自然から遠ざけられてしまった。今ではITやデバイスやインフラが進化して便利になったけど、逆に生活が目的を最短で満たす手段でしかなくなってしまっている気もします。一方でキャンプは、自然の中での生活そのものを楽しむこと。それこそが人間の潜在的な欲求なんじゃないかって思います。自然と関わりながら生きる。たき火をして食事をする。かつて人が過ごしていたそういう時間と環境を、潜在的に求めているんじゃないかって。音楽やアートもそうですよね。美しい旋律を聴き、絵画を見たいと思うのは、目的じゃなくて、人が潜在的に求めていること。なくても生きてはいけますが、それを満たすことが本来的な豊かさなんだと思います。


ムラカミ そうだとするとSnow Peakの存在意義というか、アウトドアのカルチャーを広めていくことは、ますます重要になる。

山井 そうですね。責任は重大だと思います。キャンプを楽しむという価値観は、文明の上にしか成り立たないことです。世界では文明都市はこのままどんどん増え続けていくだろうし、都市生活者も増えていく。そうである以上、その裏側を自然との豊かな関係性で支えるような自分たちの仕事は、社会的な意味が大きくなるよね、とは社内でもよく話していますね。

ムラカミ 僕もそうなんだけど、梨沙ちゃんはたき火の時間が、キャンプで一番好きなんだよね。

山井 そうです。なんて素晴らしいんだろうって思いますよ。毎回(笑)。2年前くらいに友だちの紹介で、人類学者の石倉敏明さんにお会いしたことがあります。そこで教えていただいたのは、火は人間の進化にとって欠かせないもので、進化の最大の要因でもあるといわれているということ。火によって食物を温かく軟らかくし摂取することができる。その結果、消化器官への負担が軽くなった分、脳が発達し、知性を発達させることができたと聞きました。人間には火を囲みながら、食べたり、会話をしたり、物語を伝えたり、想像したりしてきたという長い歴史があるんですよね。その記憶がDNAにも組み込まれているかもしれない。だけど今の都市生活では、日常的に炎すらほとんど見ません。だからキャンプに行って、たき火を囲むと、よりすてきな気持ちになれるのかもしれない。人間らしさを呼び起こす象徴になっているというか。

ムラカミ なるほどね。そういえばSnow Peakの焚火台もけっこう古い商品だよね。

山井 地面から浮いたあの形っていうのは、Snow Peakが1996年に世界で初めて発売したものですね。土壌を傷めないように、考えて作ったものでしたが、最初は「こんなもの、なんで必要なんだ?」っていう反応が多かったみたいで、数年間はまったく売れなかったみたいです。でも、そういうものづくりこそが、企業理念にも通じていて。すでに世の中にあるものをわざわざ作らない。大切にすべきは、私たちにしかできないオリジナルのアウトプットであること。それまで当たり前だとされていたことに対して、「こっちのほうがよくないですか?」という提案をし続けること。それは創業から60年間ずっと守っていますね。

新しい価値を提案するために、前進し続ける

ムラカミ ユーザーとしてSnow Peakのプロダクトやブランドを見ていると、すごく一貫した精神性を感じるんだけど、そういう理念が裏側にあるんだね。

山井 入社して5年間くらいアパレルを担当して、それからギアやカタログも含めたクリエイティブを統括するポジションになりました。その時、会社としての存在意義を考えるきっかけがあったんです。そこで、ギアや服やカタログなどを含めた全てのアウトプットは、キャンプを楽しむという体験価値を提供するということが目的だと、改めて定義することができました。そしてその価値は、キャンプ場だけではなく、日常生活にも反映できるはずだ、と拡張して考えられるようにもなったんです。それからは、私たちが創出できる体験を前例にとらわれずに、思考できるようになりました。

ムラカミ 僕はアウトドアのカルチャーが培ってきた、機能性や丈夫さ、道具やウエアとしてのシンプルで本質的な凄みみたいなものを感じていて。日常はもちろん、環境の問題や防災という点でも、アウトドアにあるものをベースにして、全てを再構築するくらいのことがあってもいいんじゃないかなと思っている。

山井 そうかもしれません。アウトドアを通して日常にもっと新しい提案をしていける気がしています。それからもっと広い視点でも、Snow Peakとして活動していきたいとも考えていて。一つは「LOCAL TOURISM」。例えば佐渡島の暮らし方を体験してもらうツアーをやりました。ただ現地でキャンプを楽しむだけではなく、農家さんと畑仕事をしたり、地元の食を味わい、夜には能舞台で伝統芸能を鑑賞する。アウトドアを広がりがあるものとして、捉え直してみたいんです。私たちの軸にはキャンプがありますが、そこに工芸品や農業や漁業など、人と自然の関係性から生まれてくるものも視野に入れていけたら、と。

ムラカミ 本を読んでも思ったけど、梨沙ちゃんはすごくオープンな考え方をしてるよね。 

山井 入社した頃もそうでしたが、ファッション産業とアウトドア産業は世界的に分断されてたんです。私は子どもの頃から意識もせずに自然と関わってきて、ファッションにも興味があったし。音楽や美術やいろんなものに自由に触れられる環境で育ってきました。本来は、アウトドアもファッションも、アート、スポーツ、音楽も、カテゴライズせずに自由に楽しめたらいいだけですよね。それぞれなくても生きていけるけど、それがあれば、きっと生活は豊かになる。その確信があるから、隔たりなく楽しめる人が増えてほしいと思っています。それが都市生活と自然をつなぐというアパレル事業のコンセプトになったし、今のSnow Peakの事業展開にも生きています。

ムラカミ そういうマインドをSnow Peakが広げていくことに期待しています。梨沙ちゃんのヴィジョンが明確だからこそ、アイデアや仲間がどんどん集まるし、進化していけるのかもしれない。変わっていくのにも勇気が必要なのかもしれないけど。

山井 そうかもしれません。でも祖父の時代のロッククライミングの価値観を守るだけだったら、今、会社はこんなふうにはなっていなかったかもしれない。父がオートキャンプの事業を始めて、プロダクトを作り続けたように、新しい何かを生み出せるのは、時代の変化に合わせて会社も変化できてきたからかなとは思っています。私が入社して、一番最初に父に言われたのは、「今はキャンプのブランドだけど、30年後にキャンプ用品を作っていなくてもいいと思ってる。だから好きにやれ」ということ。その言葉は今の自分の支えになっています。今はアウトドアブランドとして知っていただいていますが、将来的にもっと広がっていく可能性があるし、それを広げていってほしいという意味だったと思います。やっぱり、社会の流れを見極めながら、進化したり変化したりしていくことが重要なんですよね。今、こういう時代だからこそ、私たちはアウトドアや自然とともに生きる価値を、伝えていきたいんです。

〈対談を終えて〉
良い意味で、ただのアウトドアメーカーではなくなっていく。山井梨沙さんが経営者になったというニュースを聞いた時、ふと思ったのを憶えている。若い女性だったからではなく、対立しかねないものですら、クリエイティブにつなげようとしてきた人だったからだ。アウトドアとファッション、都市と地方、文明と自然。もちろん簡単ではないが、挑戦するだけの価値はある。昨今の世界の情勢は、それを明らかにしていると思う。



今回、彼女の著作を読み、会話をして分かったのは、Snow Peakという会社、あるいは山井家には、そもそも変化を厭わない気風が流れているということ。そういう点でいえば、彼女はまさしく、その価値を体現している人ではないか。多少、破天荒なところもあるみたいだけど、そこにむしろ期待する。定石ではないところから、イノベーションや新しいムーブメントが生まれるのだから。

今から数年後のことを想像する。僕らはどんなキャンプをしているだろう。どのように自然と親しみ、都市生活とのバランスを保っているのだろうか。よりよい姿になっているとしたら、そこにはきっと彼女たちの仕事が息づいているはずだ。

Text by Satoshi TaguchiPhotographs by Daisuke Matsumoto