ノンフィクション作家であり、美術評論家でもある野地秩嘉氏が、クルマで訪れたい美術館を全国から厳選して紹介する「車でしか行けない美術館」。今回は、箱根の美術館のなかでも随一といわれる広大な展示スペースに、日本とアジアの陶磁器、絵画、工芸、彫刻などを多数収蔵している岡田美術館を、LEXUS LSで訪ねた。

ノンフィクション作家であり、美術評論家でもある野地秩嘉氏が、クルマで訪れたい美術館を全国から厳選して紹介する「車でしか行けない美術館」。今回は、箱根の美術館のなかでも随一といわれる広大な展示スペースに、日本とアジアの陶磁器、絵画、工芸、彫刻などを多数収蔵している岡田美術館を、LEXUS LSで訪ねた。

静かな空間が作品へのアプローチ

美術館へ行くにはクルマがいい。それも雨の日がいい。今はコロナ禍にあるからかつてほどの混雑はなくなったが、それでも人気のある美術館へ行くと行列ができているし、館内にも人が大勢いる。

美術を見るとは作品と対話することだ。落ち着いた気持ちで対話しなくてはならない。だから、人が少ない雨の日の朝いちばんにクルマで行く。開館したばかりなら館内に人はいない。目当ての作品と心置きなく対話できる。

美術館までは箱根のワインディングロードでの走りと、静寂な室内でマークレビンソンのオーディオシステムが奏でる音楽を楽しんだ

そして、美術館まで乗っていくクルマもまた重要だ。エンジン音やロードノイズが聞こえにくい静かなクルマがいい。LEXUS LSのような余裕のある空間のクルマであればなおいい。加えていえばLSのオーディオはマークレビンソンだ。微細な音まで表現できる高級オーディオだから、ストレスがなくなり、感受性が高まる。感受性を高めてから美術作品に向かい合うと、作品との対話がなめらかになる。

箱根の岡田美術館に向かうとき、わたしが選んだのは静かなピアノの独奏曲だ。LEXUS LSとマークレビンソンは走行中にもかかわらず、指が鍵盤にタッチする音まで再現してくれた。それは驚異だと思う。

岡田美術館で色を見る

岡田美術館へ行った日、雨ではなく、快晴だった。しかし、天気をコントロールすることはできない。晴れなら晴れで良しとして、車窓から外を眺める。箱根の山は新緑が深まり、明るく白い光に包まれていた。緑と白の季節だったのである。

門をくぐると、ファサードのガラス越しに現代の日本画家、福井江太郎氏が手がけた、縦12m×横30mの大壁画「風・刻(かぜ・とき)」が出迎えてくれる
敷地内から湧き出る温泉を活用した、100%源泉かけ流しの足湯カフェも来場者に人気

さて、小涌谷にある岡田美術館は日本とアジアの陶磁器、絵画、工芸、彫刻などを収蔵している。なかでも日本画は充実している。俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一など琳派の作品がある。浮世絵では喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重がある。円山応挙、伊藤若冲などの作品もある。近現代のそれでは菱田春草、横山大観、速水御舟、上村松園、小林古径、東山魁夷……。

大家の作品が多く、コレクションをくまなく見ていこうとすると、半日では済まない。自分なりにテーマを持って、好みの作品を発見することが必要になってくる。

館内に入ってすぐの回廊に歩を進めると、大壁画を間近から鑑賞できる

新緑の自然が美しい季節、わたしは美術品の色を見ることにした。

絵画でも彫刻でも、わたしたちは作品の色と形を見る。両方を見て、気に入るか気に入らないかを判断している。だが、初夏の岡田美術館では好みに合った色彩の作品を主に楽しむことに決めた。

陶磁器では唐三彩の「三彩駱駝(さんさいらくだ)」が発見だった。焼き物には詳しくないけれど、三彩駱駝の白、緑、褐色の組み合わせに引きつけられたからだ。

「三彩駱駝」 唐時代 8世紀 岡田美術館蔵

三彩駱駝は口を開け、いななく姿をした駱駝の俑(よう)だ。俑とは兵馬俑で知られるが、死者の墓に副葬されるものをいう。そして、唐三彩とは唐時代(618〜907年) に焼かれた白地に緑,褐,藍色などの釉 (うわぐすり) を載せた陶器のこと。

駱駝の背には獣面がほどこされた袋が見える。獣面は魔除けのためであり、袋のなかには食料や携行品が入っているのだろう。

本物の駱駝はさまざまな色で彩られている。だが、唐代の職人は白、緑、褐色の濃淡で、すべての色を表現した。彼らは3つの色で世界を描き出そうとした。その志が胸に迫る。

職人の一途な思いがあらわれた茄皮紫(かぴし)と桃花紅(とうかこう)

「藍釉暗花龍文盤」「桃花紅暗花団龍文太白尊」はいずれも清の時代の作品で、景徳鎮窯(けいとくちんよう)で焼かれたものだ。

「藍釉暗花龍文盤」 景徳鎮窯 清時代 岡田美術館蔵

前者は藍色の焼き物だが中国ではその色を茄皮紫(かぴし)と呼んだ。確かに茄子の肌のようにつややかさのある藍色だ。同じ色を日本では瑠璃釉(るりゆう)と呼んで、これまた珍重した。深みがあって、つやがある。望んだ色を出すために職人はさんざん試したのだろう。

後者は薄紅色の尊(そん)だ。尊とは酒器のこと。半球型の瓶で、上にある小さな口から酒を注ぐ。桃の花のような色なので、中国では桃花紅と呼び、西洋ではピーチ・ブルームという名称にした。明るい薄紅色で濃淡がある。

左)「桃花紅暗花団龍文太白尊」 右)「桜花紅瓶」 景徳鎮窯 清時代 岡田美術館蔵

茄皮紫といい、桃花紅といい、清の時代になると、さまざまな色の釉薬が開発されたためか焼き物の色彩は豊かになった。特に康煕帝が治めた清の盛期には桃花紅のような紅釉の磁器が多く作られたという。

茄子の紫、桃の花の薄紅色、ともに「もっと多くの色を使って焼き物を作りたい」という職人の一途な思いがあらわれている。

喜多川歌麿の3つの掛け軸―「品川の月」「吉原の花」「深川の雪」

3枚ともにおよそ縦2m、横3mの大きなもので、喜多川歌麿の肉筆画だ。そのうちの一つ「深川の雪」は同美術館のコレクションとなっている。

左)喜多川歌麿「品川の月」(高精細複製画) 原本 江戸時代 天明8年(1788年)頃 フリーア美術館蔵(アメリカ ワシントンD.C.) 中央)喜多川歌麿「吉原の花」(高精細複製画) 原本 江戸時代 寛政3〜4年(1791〜92年)頃 ワズワース・アセーニアム美術館蔵(アメリカ コネチカット州ハートフォード)
喜多川歌麿「深川の雪」(写真は高精細複製画 ※2022年7/16〜10/3は実物を展示) 原本 江戸時代 享和2〜文化3年(1802〜06年)頃 岡田美術館蔵

どの絵にも多彩な色があふれている。いずれも主役は女性たちで、着物の柄まで細かく描いてある。しかも、どの絵も同じ柄を着た女性は見当たらない。

「深川の雪」は、深川の料理茶屋の2階座敷を舞台に、芸者、女中が26名、描かれている。多くの色を使って大勢の女性を描いた歌麿の力作だ。

「品川の月」「吉原の花」はそれぞれアメリカの美術館が所蔵しているもので、岡田美術館にあるものは複製だ。

同美術館では収蔵する1枚だけでなく、高精細複製画を作って、3枚並べて展示している。とても親切なキュレーションだと思う。

モノトーンの木蓮

速水御舟の「木蓮(春園麗華)」は紫色の木蓮を描いた作品だ。ただし、紫の絵の具で描いたのではない。御舟は墨一色で色彩を表現している。淡い色にしたり、濃く描いたりと、墨の濃淡で、見る者に色を想像させている。

速水御舟「木蓮(春園麗華)」 大正15年(1926年) 岡田美術館蔵

色を想像するには時間をかけて注視することが必要だ。短時間、眺めた程度では絵のなかの黒い木蓮が紫色に見えることはないからだ。だが、じっと見つめているうちに頭が働いてくれる。頭が墨の色を好みの色に変えるよう信号を出すのだろう。

わたしの場合は紫ではなく、白の木蓮に見えた。目の前の木蓮は黒く塗られていたけれど、想像上では白い花だったのである。淡い墨で描かれた葉脈、花びらは本物の花のように生き生きしている。黒と白の世界のなかにはさまざまな色が隠れている。

伊藤若冲の孔雀鳳凰図

同美術館には伊藤若冲の作品が7点ある。若冲の作品は絢爛な色彩で知られるが、「孔雀鳳凰図」はその典型とも言えるだろう。左幅の羽を広げた鳳凰の図は赤、青、緑と原色に彩られている。一方、右幅の羽を畳んだ孔雀の図は白と褐色が際立つ。

伊藤若冲「孔雀鳳凰図」 江戸時代 宝暦5年(1755年)頃 岡田美術館蔵

若冲はどちらの図にも絢爛な色彩を使うのではなく、動的な左幅と静的な右幅を対比させている。多くの色を使ったからといって華やかな画面になるのではない。落ち着いた色の画面との対比があってこそ、強烈な色を使う意味合いが生まれてくる。

色を配置して効果を出すには対比、構成を考える精緻な計算がいる。絵は情熱だけでは描けない。過去の絵画を研究したり、技法を身に付ける時間がいる。

自然豊かな庭園で画家たちに思いを馳せる

「色を見ること」をテーマにして作品鑑賞をするとしたら、順番も考えた方がいいかもしれない。最初は単色で描かれた3階展示室の「木蓮」を見る。次に1階へ降りて景徳鎮窯の茄皮紫、桃花紅を鑑賞してから唐三彩の駱駝へ行く。単色の焼き物から唐三彩へ行くわけだ。

それから3階にある大作、喜多川歌麿の「雪月花」の3作品を眺めて、最後に4階へ。伊藤若冲の作品を見る。

美術館の敷地にはゆたかな自然林と、滝や池などの水景が一体となった美しい庭園が広がる

終わったら、5階の出口から庭園へ出る。晴れていたら、目の前に明るい光と自然の多彩な色が目に入る。絵とは違い、自然の色彩は光と混じっている。きらきらと光る緑、透明な空の青……。

画家、彫刻家、陶芸家、いずれも自然の色を自分のものにしようと苦闘したのだろう。自然を自らの画布や紙に映し出そうとするなんて、画家という人たちはとてつもないことを思いつくものだ。まさに驚嘆を禁じ得ない。

※訪れる時期によっては本記事で紹介した作品が展示されていない可能性があります。詳しくは美術館にお問い合わせください

■岡田美術館
神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1
Tel.0460-87-3931
開催中の展覧会:花鳥風月 名画で見る日本の四季
前期:春夏編 ―若冲・御舟・一村など―
    〜2022年7月10日(日)
後期:秋冬編 ―光琳・歌麿・春草など―
   2022年7月16日(土)〜12月18日(日)
※リピーター割引あり

https://www.okada-museum.com/

Text by Tsuneyoshi NojiPhotographs by Shuichi Okawara