道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。

今回は、ドライヤーはじめ家電のニュースタンダードを提示する株式会社cadre(カドレ)の藤巻滉平(ふじまき こうへい)さんをインタビュー。YouTubeの起業リアリティショー『Nontitle〜この1000万あなたならどう使う?』で投資を勝ち取り、販売初日で1億円を売り上げたというビジネスセンスはどのように培ったのか、お話を伺いました。

家電に「主体的な意思決定」を取り戻す

──まずは、cadreが誕生した経緯をお聞かせください。

YouTuberのヒカルさんと格闘家の朝倉未来さんが配信している『Nontitle』という番組の存在を知り、参加したことがきっかけです。

『Nontitle』は事業立ち上げを目指すビジネスリアリティショー。そこで企画に勝利し、お二人から投資を受けて法人化したのが、株式会社cadreです。

なぜ家電ビジネスを選んだのかというと、元々家電に対するフラストレーションがあったから。

家電に対して個人的に「選択肢が多すぎて選べない」「機能を増やしすぎている」「売り場を確保するためにマイナーアップデートを繰り返した新製品があふれている」「好みのデザインが少ない」といったフラストレーションを感じていました。なにより、これでは「日本からいい家電が生まれなくなるのでは?」と危機感も感じていたのです。

とはいえ、家電ビジネスは実際に金型をつくってモノを製造するので、スタートしたらあと戻りできません。宣伝効果と売上の見込みが立つ『Nontitle』のスキームがなければ挑戦できなかったかもしれません。

──ドライヤーに着目したわけは?

「1家に1台あり、乗り換えハードルも高くない」と考えていたという前提はありますが、なによりも消費者が主体的に意思決定したくなる商品をつくりたかったからです

似たようなモノがあふれると、「安いから買う」とか「流行っているから買う」という消極的選択になっていきます。そうではなく「自分はこのデザインが好きだから買う」のように、主体的に選択してもらえる商品をつくりたい。そのわかりやすい入り口として、ドライヤーに挑戦しました。

ドライヤーはどの家庭にもありますが、デザイン市場にはほとんどない。そこで「デザインがよくて空間に溶け込み、機能面も使いやすさも申し分ないプロダクトができたら、人は選んでくれるはずだ」という仮説をまず立てました。つまりドライヤーの決定版をつくろうということです。

実際、2023年のグッドデザインアワードをいただいて、外資系ホテルやゴルフ場などで採用され「社会はこういうモノを求めていたんだ」と実感しています。

事業は1つの仮説検証。7社の起業を経て見えたもの

──では、そもそも起業家になろうと思った経緯をお聞かせください。

父がビジネスをやっている光景を見ていたという背景もありますが、小学校の時に通っていた塾の「起業家育成合宿」はきっかけの1つかもしれません。そこでビジネスコンテストのようなものがあり、プレゼンをしたのが、起業家としての原体験です。

その後、大学時代に家庭教師と生徒のマッチング・派遣サービスを提供する会社を設立。同時にウェブの受託開発会社もつくり、その売り上げ資金でもう1つの事業のほうも回していました。

──ふたつの事業を始めたのはどのような理由から?

自分が「面白いな」と思った仮説が正しいかどうか、社会実装して実験していくという過程が好きなんです。

「ITでうまくいくなら、同じスキームで派遣事業もできるのではないか」と、実験をビジネスの場でやっている感覚でした。そこから事業の幅が広がり、今でも店舗ビジネスを通して仮説を検証している感じです。

──cadre以外にはどのような事業を?

これまで、売却と新事業立ち上げを繰り返してきて、cadreで通算7社目になります。

今は家電ビジネスのcadre以外にシーシャラウンジや会員制のBar、味噌汁専門店「みそめぼれ」も経営しています。みそめぼれは47都道府県の味噌を揃えたお店で、テレビでも何度か取り上げていただきました。

──たくさんの事業を並行して見るのは難しくないでしょうか?

自分のリソースを確保することが難しいですね。

事業の根幹は、業種が違ってもそんなに変わらないと考えているので、問題は各社に必要なタイミングで適切なアクションをできるかどうか、自分が事業の状態を見て動けるようにするためのリソースの確保です。

「ビジネスは仕組み」だと思っていて、いかに仕組みをうまくつくるか、自分が作業しなくてもよい仕組みをつくれるかが肝だと考えています。

目標達成には、タスクを「できる単位」まで因数分解していく

──ビジネスで難しい部分はどんなところですか?

家電ビジネスでいうと「知らないことが多い」というのが1つの難題でした。

工場の選定や流通の仕組みをどうするかなど、本質的な課題を洗い出して、そこに必要な手を打っていく、ということをひたすら続けたのですが、「知らない」状態だと次のステップを目指すのが難しい。

なので、まず知らない・わからない要素をテーブルに並べて、言語化することからはじめました。そして「知らない」→「知っているけどわからない」→「わからないところが何かわかる」→「わかる」→「できる」という状態にしていきます。タスクが「達成できる単位」になるまで因数分解する作業です。

今の時代、検索すればある程度の情報はでてきます。先人たちが遺した本もたくさんあり、周りに相談すれば詳しい人もいるはず。「それならば、できないはずはない」と思っています。

──いくつもの会社を経営されているわけですが、チームビルディングで難しいところは?

自分がいなくても回る状態をつくることでしょうか。いわゆる仕組みづくりですね。

人には得手不得手があって、不得意なことをしてもらうのが一番コストがかかる。なので、最適配置を重視しています。

それと、店舗を経営してることもあり、現場のマネージャーが優秀であるかどうかも非常に重要です。自分に近い人たちをいかにマネージメントして育てられるかで、部下や現場への伝達率が変わってくると思うので、マネージメントクラスのメンバーとのコミュニケーションはかなり大事にしています。

──事業で目指すゴールや、ご自身のゴールを教えてください。

40代になったら教育系の事業をしたいと考えています

「自分が長くコミットでき、社会にとっても価値あるものは何だろうか?」と考えたとき、それは教育なのではないかと思うのです。

私が考える教育とは、学びたい人や子どもが「何かに興味を持ち、それに主体的に挑戦できる状態」をつくること。対象はなんであれ興味を持ち、それを「やりたい」と思えることはやはり大事だと、自分の経験からも実感しています。

いつか、幼少教育や中学生くらいまでの教育、あとはギフテッド教育などを支援できるような事業を立ち上げたいですね。教育は時間もお金もかかるので、自分も長いスパンで取り組む必要がある。だからこそ、やりがいも意義もある。そう考えています。

教育を通じて、子どもたちが自分の好奇心や可能性に触れ、「うっかり上を目指しちゃう」みたいな、そんなことがやってみたいです。

目標を細分化して、達成までの自分のリソースを取る

──ここからは一問一答形式でお聞きします。何時に仕事をはじめて、何時に終えますか?

10時くらいからはじめて、終わりはバラバラですね。そのまま経営しているバーに行くこともあれば、朝5時まで仕事をしていることも。

自分の中で、キリがよいタイミングが終業時間です。

──情報収集はどのように行っていますか?

人と話すこととSNS、主にX(旧:Twitter)です。気になったことはすぐに検索するようにしています。「わからない」という状態が嫌で、自分でも再現可能な「わかる」状態にしたいんです。

知ろうとすること繰り返していると知識の引き出しが増えますよね。仕事でも、わからないことはすぐに調べるというのを習慣にしています。

──能力を伸ばすには? ビジネス力を伸ばすには?

まず何を伸ばしたいのか定義する。そして必要なことを洗い出して、時間を設定して行動する

目標を細分化して、達成するまでの自分のリソースを取るということです。

──尊敬する人は?

吉田松陰です。彼は子どもにも囚人にも平等に教育を与えた人物。

その人の才能を見出して開花させる天才だと思います。そして人を感化する。早くも江戸時代にして、アクティブラーニング(能動的な学習)を先取っていたと思います。

──余暇の過ごし方は?

ひとりになる時間を意図的につくります

疲れているときは自然の中に行きたくなりますね。海釣りに行くことが多いかな。

シーシャやサウナ、釣りなども好きです。

──食生活で気をつけていること。好物は?

栄養不足になりがちなので、ビタミンは毎日摂取しています。

好物は寿司、魚、和食。釣った魚をお店に持って行って料理してもらうことも。

──運動の習慣は?

パーソナルジムとキックボクシング。最低限、週に1回は運動をするようにしています。

──ビジネスパーソンにおすすめの一冊は?

稲盛和夫の『生き方』(サンマーク出版)は好きです。あとは最近読んだものだと、安岡正篤の『運命を創る』(プレジデント社)は面白かったですね。

漫画もかなり読みます。王道ですが、『キングダム』(原泰久、集英社)。あとは『サンクチュアリ』(原作:史村翔・作画:池上遼一、小学館)もオススメです

藤巻滉平(ふじまき こうへい)

株式会社cadre 代表取締役社長。1993年神奈川県生まれ。大学在学中に起業し、経営と並行して、受託開発と投資事業を行う会社に入社。投資先を含む、ベンチャーから大企業まで様々な新規事業開発に従事。複数の事業売却経験を経て、Youtuberのヒカルと格闘家の朝倉未来が主催する、YouTubeで延べ1000万回再生された起業家育成リアリティショー『Nontitle〜この1000万あなたならどう使う?』から生まれた企画として株式会社cadreを創業。家電D2C事業を展開。第一弾のプロダクトとしてドライヤーをリリースし、初日で売上1億円を突破。

Photo: キムアルム/Source: cadre