幼い頃からミュージカルを夢見て、それを体現するかのごとく数々の大舞台で存在感を放つ女優の生田絵梨花。近年のミュージカル界を話すうえでは欠かせない女優のひとりだ。
今回、日本初演のブロードウェイミュージカル『MEAN GIRLS』での単独主演が決まっている彼女。意地悪(=ミーン)でスクールカーストが根付く同作は、これまでの正統派なイメージとはかけ離れているが、意外にも彼女にとっては「ドンピシャだった」んだとか。常に変わり続け、高みを目指す等身大の生田が、今見ているものとは?
取材・文/Lmaga.jp 写真/Ayami
■ 「印象に残っている言葉は『お客さんも、笑いたいんだと思う』」──主演舞台『MEAN GIRLS』は、実際にブロードウェイにも観に行かれ、衝撃を受けたと仰っていましたね。行かれたのは、主演が決まる前だったのでしょうか?
はい、お話しをいただく前でした。その前に『トニー賞』授賞式の中継スタジオに行かせていただいて、ノミネート作品のショーを観ました。日本では女性が中心となるポップなミュージカルって少ないですし、こんなガールズパワーが炸裂している作品ってすごく楽しそうだなと思って。そのあとにブロードウェイを観に行きました。
──そうだったんですね。コテコテの学園ドラマだし、登場人物みんなスクールカーストに染まる女子たちで、色濃くて。正直日本では上演されない類いのミュージカルなのかな、と思っていました。
確かに、日本で上演するには文化の違いもありますしね。
──同作がブロードウェイで上演されていたとき、お客さんも派手な服で観劇するなど、演者・観客ともにお祭りのようなムードになっていたとか。それはこのエネルギッシュな作品ならではとも思いますが、日本だとどうなると思いますか?
そこも難しさがありますよね。お客さんたちが置いてきぼりにならないよう、私たちが引っ張っていかないといけないなと、思いますね。
──それはいつも生田さんが出演されているグランドミュージカルやストレートプレイの演劇とは、またひと味違った感覚、アプローチなのでは?
そうですね。演出家の香さん(小林)に言われて印象に残っているのは、「観に来てくれるお客さんも、笑いたいんだと思う」という言葉です。それは「この作品を見て笑いたい」という単純な笑いじゃなくて。いろいろ抑圧されたり制限されたこのご時世で、キュッとなにか見えないものに閉じ込められちゃうような感覚って少なからずあると思っていて、いろいろな方に楽しんでもらえたらうれしいです。
──一緒に発散するといった感じですかね。改めて原作を見かえすと、登場人物みんな(個性を)叫び続けているではないか!と感じました。この作品だと一緒に叫んでもいい、なんだかそんな気分になれる不思議な作品だと思いました。
声は出せないけど、お客さんのなかからもフツフツとなにかが湧き上がってきたり、そういう作品になればいいなと思いますね。
──今回演じるのは主人公ケイディですが、劇中は4人の女子を中心に物語が進んでいきます。無垢で無邪気なケイディ、スクールカースト上位のレジーナ、誰かのあとについていたいグレッチェン、おとぼけな天然カレンと・・・癖の強いキャラクターたちがいますが、内面的に近いのは誰ですが? 唐突にすみません(笑)
難しいですね。でもこのなかで言ったら1番ケイディが近いのかなと思います。私も案外周りの環境や人によって影響を受けて変わりやすいタイプでもあるので。ケイディも自発的に変わったというよりは環境がそうさせたという役柄なんです。
■ 「久々に舞台を観たとき、涙が出てきちゃって」──以前、私がニューヨークいたときに、同作は「観たい、観よう、でもまだ上演するだろうし、後でいいや」と、思っているうちに幕を閉じてしまった作品だったんです。きっと本国での閉幕に心を痛める人はたくさんいることだと思います。でも今回はそれが日本に来るわけだから、きっと日本のエンタメ界にとっては大きな意味となるはず。
私も久々に舞台を観たとき、舞台の世界が回り出したと思うとむちゃくちゃ涙が出てきちゃって。舞台は五感すべてを使うじゃないですか、そのときに錆びてた感覚が色々出てきましたね。
本当に必要な心の栄養素だなと思ったし、それを自分も作品の一部となって届けられるように、ずっと続けていきたいということを再認識しました。
──素敵なエピソードをシェアしてくださいました。生田さんは特に近年、舞台にたくさん出られていて、自身が感じる「舞台への魅力」はさまざまなところで語られているかと思いますが、改めて聞いてみたいです。
やっぱり五感をこんなにフルに稼働することは、なかなかないと思うんです。ステージ上の人も生身の人間だし、お客さんもリアルタイムに起こっている事件を目撃したり、その世界に入り込むという体験ができる。これは劇場という空間ならではだなって。その「生」が醍醐味というか、魅力のひとつかなと思いますね。
──今回の作品にはガールズパワーにシスターフッドをはじめ、さまざまなメッセージが散りばめられていますが、1番伝えたいメッセージは?
決して1人じゃない、ということですかね。この作品の重要なところは、それぞれ違う環境いる他人同士が認めあって、どう共存していくかというのが要。今回ケイディをやるにあたって、1人で挑もうとはしていません。みんなから貰ったり、受け取るほうが大きなエネルギーなので、それが作品のメッセージになると感じています。
──なるほど。それこそ2021年の末にアイドルを終えられてちょうど1年、これからどんどん歩んでいかれる生田さんとも重なる部分があるのではないでしょうか?
そうですね、私結構自分を閉じちゃう人間なんですよね。怖くて。自分の居心地の良い人間とだけ一緒にいちゃうタイプなので、この作品をきっかけにケイディとしても自分自身としても開きながら、交流しながら成長していけたらなと思っていますね。
グループで10年間活動してきたので、なんとなくそのグループのカラーだったり、私自身のカラーだったりイメージしていただくものがあると思うんですけど、それをいい意味で、はみ出していけたらいいなと。
──「こうなりたい」とかはあるんですか?
全然ないんですよ、理想像とかがなくて。なんならいつも違う印象でいられたほうがおもしろいし、いいなって思っているので、しばらくはあんまり枠とかを決めずにいけたらと思っています。
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ブロードウェイミュージカル『MEAN GIRLS』は東京を皮切りに、福岡、大阪を巡回。大阪公演は2月23〜27日に「森ノ宮ピロティホール』(大阪市中央区)にて上演され、チケットは1万3500円。現在販売中。