Lmaga.jpの恒例企画となった、評論家3人による映画鼎談。数々のメディアで活躍し、本サイトの映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、華崎陽子の3人が、「ホントに面白かった映画はどれ?」をテーマに好き勝手に放言。2022年公開の日本映画ベスト3を厳選、GWの映画鑑賞に向けてチェックして!

「花梨ちゃん、出てきましたね」(華崎)

春岡:俺はまず、吉岡里帆主演の『ハケンアニメ!』が良かった。

斉藤:最高ですよね。僕、あの監督と会ってるんよ、「njcd」(若手映画作家育成プロジェクト)のときに。

春岡:吉野耕平監督ね。

華崎:次、アマゾンのプライムビデオ初の劇場映画『沈黙の艦隊』(東宝系で公開)撮るんでしょ?

春岡:たしか、阪大の理系(大阪大学大学院理学研究科)出身だよな。

華崎:そうです。

斉藤:「njcd」で撮った『エンドローラーズ』(2015年)がめっちゃ良くて、歴代ベスト3に入る面白さ。

華崎:それを見て、『ハケンアニメ!』のプロデューサーが依頼したらしいですよ。

斉藤:そうそう。彼は確か『君の名は。』にもCGアーティストとして参加していて。自分でも特撮やったりアニメーションやったり。その前に短編映画も観せてもらったけど、すごい面白いのよ。

春岡:大阪芸大で上映されたとき、大森一樹さんと榊原廣さんと観たんだけど、すごく良かった。※大森一樹(平成ゴジラシリーズを手がけた映画監督、大阪芸術大学芸術学部映像学科・学科長/2022年逝去)、榊原廣(元博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所所長、大阪芸術大学芸術学部放送学科・教授)

斉藤:でも、興行収入的にはちょっと伸び悩んでるみたい。

華崎:そうなんですよぉ、残念。

斉藤:いわゆるお仕事映画であり、しかもクリエイトの違いの映画であり。2つの作品の方向性の違いを実際にアニメーションにしてやっちゃうという。

春岡:「劇中劇」的なアニメのクオリティの高さよ。

斉藤:あれ、別のプロダクション、別のクリエーターで競ってるんですよ。

春岡:中村倫也と尾野真千子の絡みもちゃんと映画的だし、あと、アニメ雑誌の表紙も任される腕のいいアニメーターを演じている小野花梨。あの子はホントに上手いなぁ。

華崎:花梨ちゃん、出てきましたね。

斉藤:結構昔から映画にも出てるんだけど、インディペンデントの作品が多くて。良い女優ですよ。それに、今作は柄本佑が良いしね。

春岡:抜群においしい役じゃん。

斉藤:絶対に助演男優賞やと思うんやけどな。

華崎:私も思いました。そもそも主演の吉岡里帆も良かったんですよ。彼女は『見えない目撃者』(2019年)もめっちゃ上手かった。※吉岡里帆インタビューは「こちら」

斉藤:吉岡里帆主演の『見えない目撃者』もどこか過小評価されてるよね。韓国の原作より、実は全然面白いのにね。吉岡里帆が朝ドラ『あさが来た』(2016年)に出たときに、「あ、天才出た」って思ったもん。

春岡:人気が先行しがちだけど、この『ハケンアニメ!』で演技賞が獲れなかったらどうするんだっていう。

斉藤:僕の弟子みたいなのがいるんだけど、イラン人と結婚してオーストラリアに住んでるんやけど、こないだ帰国して。で、最初に観に行ったのが『ハケンアニメ!』と『犬王』という(笑)。

春岡:わかる。湯浅政明監督の『犬王』は、もっともっと評価されていい。※湯浅政明監督のインタビューは「こちら」

「この鼎談では、小林啓一の評価はすこぶる高い」(春岡)

斉藤:なんでアカデミー賞(長編アニメ映画賞)に入らなかったんやろ?

華崎:そうなんですよ、入って欲しかった。ゴールデングローブ賞はエントリーされたけど。

春岡:ありゃ良く出来てたよ、あきらかに。

斉藤:僕は『犬王』、どのメディアのベスト10にも入れてる。まさに『マインドゲーム』(2004年)以来の大実験作。僕は湯浅さん大ファンなんで、否定するところが何もない(笑)。メチャクチャ動きの面白さも堪能できるしね。大友良英さんの音楽とも相まって。

華崎:物語もどう転がっていくかワクワクするし、なによりグルーヴ感がすごかった。

斉藤:まぁ、物語は『どろろ』なんだけどね。それは監督も百も承知だから。僕、今年のナンバー1は、世界的ダンサー・田中泯に密着した『名付けようのない踊り』なんですよ。

春岡:あれもちょっと桁外れなところがある。

斉藤:桁外れやろぉ? しかも、そこに山村浩二さんのアニメーションを織り交ぜて。

春岡:泯さんに「あれ、良かったですねぇ」って言ったら、「いや、あんなに可愛い坊主じゃなかったけどね(笑)」って。そう言う泯さんもカッコいいなと。

斉藤:山村さんのアニメも良かったけど、ちょっとドキュメンタリーの域を超えたところがあるねん。あと、小林啓一監督の『恋は光』も良くてね。

春岡:あれももっともっと評価されないといけないよ。

華崎:あれも全然、賞レースに絡んでなくないですか?

春岡:この鼎談では、小林啓一の評価はすこぶる高い。世間とのギャップがすごい(苦笑)。

華崎:たしかに(笑)。でも、ホントに面白かったですもん。

斉藤:いや、全部面白い。

春岡:『ぼんとリンちゃん』(2014年)は大傑作だったろ? 東京の評論家が全然認めないって怒ってたけど。

斉藤:いやいや。『ぼんとリンちゃん』なんて、僕はあの年のナンバー1やから。

春岡:『恋は光』もメチャクチャ面白いんだけどなぁ。なんでかなぁ?

華崎:よくあるキュンキュン映画みたいな売り方してるから。全然そんなんじゃないのに。

斉藤:西野七瀬も平祐奈も馬場ふみかも、みんな可愛すぎるよな。

華崎:すごく可愛く撮ってましたよね、監督が。

春岡:それは大事よ、女優をキレイに撮るのは大前提だから。それが出来ない監督が多すぎる。

華崎:だから、宣伝ビジュアルとかも考えて欲しいと思うんですよ。あれじゃ、アイドル映画にしか見えない。

春岡:自己パロディというかさ。『恋は光』ってタイトルをつけた時点で、パロディですって感じだから。

斉藤:まあ、「光」そのものが小林映画のひとつの特徴ではあるからね。光をどう捉えるかって。

華崎:高杉真宙と葵わかなの『逆光の頃』(2017年)もそうでしたね。

春岡:映画のテーマが「光」だから。そういうのあるじゃん、作家でこれがテーマですよってみんな言わないけど、それは観る側が気がつくべきことであって。しかも、それを『恋は光』でやっちゃうところが面白いやないか。分かる人には分かるよ。

「河合優実が今年のナンバーワン女優」(斉藤)

斉藤:ですね。あと頑張ってるのが、城定秀夫監督。

華崎:城定さん、最近メッチャ撮ってません?

斉藤:めちゃくちゃ撮ってる。まあ、それが彼のリズムなんだけど。今泉力哉監督とのコラボ企画のひとつで、互いに脚本を提供したんだけど、『愛なのに』は今泉脚本で城定監督が撮ったもの。

華崎:逆に、城定脚本で今泉監督が撮ったのが『猫が逃げた』。でも、『愛なのに』の方が面白かった。

斉藤:『愛なのに』は今泉さんと城定さんの相乗効果が一番良く出てたのよね。

春岡:ちょっと真逆の演出だよな。また、主演の瀬戸康史が中途半端な男やらせると上手いんだ。そこに憧れの女性(さとうほなみ)と真っ直ぐな女子高生(河合優実)が絡んだら、そりゃこうなるよねっていう。

斉藤:どっちの個性も出てるやんか、あの映画は。

華崎:台詞回しとか完璧に今泉さんですけど、演出はホントに城定監督らしいというか。

斉藤:あの2本、どっちも素晴らしいんだけど、僕は『愛なのに』を選んじゃう。

春岡:それにしても河合優実、いいよなぁ。

斉藤:僕は河合優実が今年のナンバーワン女優だと思うんですよ。

春岡:可愛かったなぁ〜。あの子はちょっとすごいよな。

斉藤:小泉徳宏監督の『線は、僕を描く』にも出てたし。

春岡:ああいうつまんない役でも良い。

華崎:確かに地味な役でしたね(笑)。

斉藤:それでも、やっぱり目立つやん。

春岡:だって、河合優美だもの。石川慶監督の『ある男』でも目立ちまくってた。

斉藤:当たり前よ。実力がものすごいから。

華崎:私、さとうほなみ(バンド・ゲスの極み乙女のドラムス担当)も好きなんです。

斉藤:僕も大好きですよ。

華崎:行定勲監督の『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020年)あたりから、メチャクチャ良いなぁと思ってて。

斉藤:以前から女優活動もしてたんやけど、『窮鼠は〜』で良い役をもらって、その次のNetflix映画『彼女』(廣木隆一監督)では、水原希子とダブル主演だし。

華崎:あと、中島歩が出てたじゃないですか。安川有果監督の『よだかの片想い』の舞台挨拶で大阪に来てたんですけど、そのとき「これの前に撮ってた映画で、セックスが下手な男の役をやってて・・・」と自虐的に言ってて(笑)

春岡:なんか似合うよな。あれだけ男前なのにセックス下手って。

斉藤:メチャクチャ面白かった。しかも、中島歩っぽいねん(笑)。

春岡:みんなそう思ったはずだよ、あぁ、中島歩っぽいなって。

斉藤:あれはベストキャストだよな。

「芝居ができるスターってのは不幸」(春岡)

春岡:演技はまだまだだけど、中島歩はちょっと面白い。美輪明宏さんが連れて来たんだろ? 『黒蜥蜴』の舞台で。

斉藤:そうそう。

春岡:美輪さんらしいよな。そういや、濱口竜介監督のオムニバス映画『偶然と想像』にも出てたじゃん。あれも下手で良かった。俺はわりと好きな俳優だな。

華崎:化けると思います。なんか目が離せない。舞台挨拶もすごく面白かった。

春岡:横浜聡子監督の『いとみち』(2021年)にも出てたけど、なんにもできないマスター役が良かったのよ。ああいうの大好きだよ。さすが、良い役者連れてきたなぁって思ったもん。

斉藤:ここで持ってくるかって思ったよね。

春岡:下手だけど、それは決して悪い意味じゃないんだよ。あの役はあの下手さだから、存在感があっていいんだよ。

斉藤:ほんま、映画なんてそうなんだよ。存在感がどれだけあるっていうね。いわゆる、世間の言う上手い役者ってのはクサいんだよ。

春岡:中島歩や東出昌大はもっともっと評価されていい。

斉藤:毎回、東出くんの話題が出るこの鼎談(笑)。

華崎:「下手」って貶してる言葉じゃないんですけど、文字で読んだらそう聞こえますよね。

春岡:そこが難しいところなんだよな。下手っていうのは、むしろ良いと思ってるんだけどなぁ。

華崎:別の表現だと、「味がある」とか?

春岡:俺はよく言うんだけど、芝居ができるスターってのは不幸なんだよ。芝居を追求し続けると、スター性が崩れてくる。だから、素材として一級品で居続けるってのは、とんでもなくすごいことなんだよ。

華崎:稲垣吾郎×中村ゆりの『窓辺にて』はどうでしたか? 私、結構好きで。

春岡:ああいうの大好き。玉城ティナも面白いよなぁ、下手だけど面白い。あの設定も抜群だった。稲垣と玉城と中村ゆりと。あと、中村ゆりと浮気する作家の彼も良かった。

華崎:佐々木詩音です! 彼、京都造形芸術大学(現・京都芸術大)の映画学科俳優コース出身で。『ぴあフィルムフェスティバル』でスカラシップを獲った、工藤梨穂監督の『裸足で鳴らしてみせろ』にも出てますよ。

斉藤:観た、観た。あれ、良かったよなぁ。

華崎:佐々木詩音! 私、勝手に来ると思ってます。

「松居くんほど駄作撮ってない監督も珍しい」(斉藤)

斉藤:工藤監督も天才肌だよ。彼女も京都造形芸術大学だよね。若手で言ったら、『愛ちゃん物語♡』の大野キャンディス真奈監督もメチャクチャ面白い。この3月に東京藝術大学を卒業したらしいんだけど、なんちゅうかなぁ、昔の大林宣彦さんみたいなノリ? スベり気味かと思いきや、全然スベらへんみたいな(笑)。

春岡:彼女のことはよく知らないけど、昔の大林さんと言えばイメージはつく。

斉藤:『愛ちゃん物語♡』は、女の子とトランスジェンダーの友情モノなのよ。これがまたテンポが素晴らしくて。

春岡:まだ学生なのに、監督・プロデューサー・脚本・編集までやってるなんて偉いじゃん。

斉藤:主演の坂ノ上茜がいいのよ。僕、すぐ調べて。テレ東系の玉袋筋太郎と居酒屋を巡るバラエティ番組『町中華で飲ろうぜ』を一緒にやってて。で、メッチャ飲むねん(笑)。

春岡:あれか。ときどき観てた。

斉藤:面白いよね。あの女の子。いつもレギュラーで出てる女の子。

春岡:そうなの?じゃあ見てるな。ちょっと意識してなかったけど。

斉藤:彼女はちょっと注目ですよ。この大野キャンディス真奈監督も含めて。あと、やっぱり松居大悟監督やね。

華崎:池松壮亮&伊藤沙莉W主演の『ちょっと思い出しただけ』は最高傑作でしょう。

春岡:あれはもう、「ザ・松居映画」じゃん。

華崎:もうちょっと評価しても良い。みんなもっとベスト10とかに入れて欲しい。

斉藤:タイトルが絶妙だよね。『ちょっと思い出しただけ』っていうのがさ。

春岡:伊藤沙莉が池松壮亮と別れて、今はタクシー運転手している。時間を遡りながら、付き合っていた頃を思い出すという。あの商店街でじゃれ合ってるところは抜群だった。

斉藤:松居大悟の進撃っぷりたるや。日活ロマンポルノの50周年プロジェクトで作った『手』もあるし。松居くんほど駄作撮ってない監督も珍しいかもしれない。全部おもしろい。

華崎:伊藤沙莉のミューズ感もすごいなと思って。忘れられない恋の相手として、ね。2021年に森山未來と出たNetflix映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』(森義仁監督)もそうでしたけど、上手くいかなかった恋のミューズ感みたいな(笑)

春岡:似合いすぎだよ、そんなの(笑)。

華崎:池松さんも森山さんもインタビューしたことあるんですけど、2人ともあんまり恋愛映画をやってないんですよ。10年に1回くらい。でも、恋愛映画の力は信じたいし、好きだし。その一方で、なかなか出たい恋愛映画に出会わないみたいなことを言ってて。

斉藤:2022年の松居監督は頑張ったよなぁ。

華崎:あと私、竹林亮監督の『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』がメッチャ好きで。タイムリープの話なんですけど、タイムリープに日本の企業風土を入れているんですよ。現場から係長に言って、課長を通して、部長に伝わってという。それを1週間やって、また月曜日に戻るんですよ。なにも進んでない月曜日に。

春岡:それで『マンデーズ』なのか。

華崎:で、あるタスクを達成しないと普通のタイム軸に戻らないから、それをみんなで達成しようとするんですけど、部長が全然気づいてないんですよ(笑)。でも、タスクを達成しなければいけないから係長に言うんですけど、地獄の1週間が繰りかえされるという。

斉藤:主演は円井わんだよね。

華崎:そうです。今、サイボウズのキントーンCMに出てるんですけど、それが『マンデーズ』とよく似たシチュエーションなんですよ。ぜひ観てください。

「新人賞が嵐莉菜、圧倒的だったもん」(春岡)

春岡:あと、あれも良かったんだよ、廣木隆一監督の『夕方のおともだち』。※廣木隆一監督のインタビューは「こちら」

斉藤:僕は廣木作品が苦手だから。そう言いながら全部観てるけど。

春岡:あの変態性がいいのよ(笑)。烏丸せつ子が演じる、ある種のポイントになっているお母さんがますます良いじゃん。

斉藤:烏丸せつ子はたしかに良かった。

春岡:あとは『マイスモールランド』の嵐莉菜かな。※川和田恵真監督&嵐莉菜のインタビューは「こちら」

斉藤:あ〜、あの子可愛いよなぁ! すごいよなぁ!

華崎:「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人一家が、あるきっかけで在留資格を失い、当たり前の生活が奪われてしまうわけですが、17歳の女子高生を熱演してましたね。

春岡:日本中の映画祭の新人賞が嵐莉菜。そりゃ、そうだろう。圧倒的だったもん。

斉藤:僕もベスト10に入れてもいいと思う。『マイスモールランド』はすごく良かった。

春岡:新人女優、今年は嵐莉菜しかなかったよ。

華崎:荻上直子監督の『川っぺりムコリッタ』はどうでしたか?

斉藤:今までの荻上作品で一番良いんじゃないかな。

春岡:俺もそう思う。

華崎:作品としてはこぢんまりしてるんですけど、ちゃんとテーマもあって、やっと普遍的になったなって。

斉藤:『川っぺりムコリッタ』はキャストみんな良かったのよ。ムロくんもすごく良かった。

春岡:荻上監督って、演出しないことが良いんだよ。あれは変な映画だよ、そういう意味で。

斉藤:荻上さんって実は結構クセのある作家でさ、『トイレット』(2010年)とかもあるけど。

華崎:『トイレット』、メッチャ好きでした。

春岡:ヒットした『かもめ食堂』(2006年)のあと、自分がやりたいことをやったらああなったんだよね。

斉藤:『かもめ食堂』のあと、類似作品がメチャクチャ多くなったよなぁ。あれが困ったものでね。『かもめ食堂』の類似作品が多くなったから過小評価されてると思う。

春岡:そうなんだよ、変な具合に出来た傑作でさ。本当はああいう映画を好きって言いたくないけど、好きなんだよな(笑)。小林聡美も片桐はいりも大好きだから。

斉藤:いや、僕は『かもめ食堂』はメチャメチャ好きよ。僕が『川っぺりムコリッタ』で注目したのは美術。あの河原のゴミは、まさに「ブリコラージュ」ですよ。今年のベスト10にはどのメディアも入れてるんじゃない? あと、なにかな・・・あ、タナダユキ監督の『マイ・ブロークン・マリコ』は?

春岡:そうなんだよ、あれは良いよ。奈緒も良かったけど、やっぱり窪田正孝だよ。主演の永野芽郁に吉田羊、そして、尾美としのりが悪い親父という。

華崎:尾美さんのキャスティングは絶対タナダさんの趣味でしょ。

斉藤:昔から「傷口に塩を塗るような映画」ばかり撮るって僕は言ってたんだけど、久しぶりにあのタナダユキが帰ってきたって感じがしたね。※タナダユキ監督のインタビューは「こちら」

華崎:そんな感じしました。『赤い文化住宅の初子』(2007年)の匂いしませんでした?

斉藤:そうそう。最近は、普通にいい映画を撮ってたけど、僕の好きなタナダ監督が帰ってきたみたいな。

春岡:やっぱり面白いよね。永野芽郁が骨持って飛び降りるのなんか、身体が美しいもん。

斉藤:いや、素晴らしい女優ですよ。僕は大好き。スコーンと抜けてるのに演技は下手じゃない。

「連続殺人犯役の清水尋也が最高!」(華崎)

華崎:ほかに挙がってないのは・・・。あ、片山慎三監督の『さがす』!

斉藤:その通り。

華崎:あの子ヤバいですよ。主人公(佐藤二朗)の娘・楓を演じた伊東蒼。マジでやばいですね。

斉藤:『さがす』は良かったね。片山慎三監督といえば『ドライブ・マイ・カー』の脚本家・大江崇允と組んだディズニープラスのカニバリズム映画もスゴくて。

華崎:柳楽優弥主演の『ガンニバル』ですね。この『さがす』は高田亮、小寺和久との共同脚本ですね。

斉藤:高田亮が噛んだらヤバいね。

華崎:『さがす』では、清水尋也も素晴らしくて。

斉藤:分かる(笑)。僕も大好き。

春岡:『ソロモンの偽証』(2015年)や『ちはやふる』(2016年)にも出てたよな。面白い役者なのは間違いない。

華崎:山戸結希監督の『ホットギミック ガールミーツボーイ』にも出てましたよね。映画ファンに知られるようになったのは『渇き。』(2014年)のボク役。

斉藤:あれは上手かったよねぇ。

華崎:この『さがす』でも、指名手配中の連続殺人犯役の清水尋也が最高なんですよ。

春岡:主演の佐藤二朗が、いつものような五月蠅い芝居じゃないだろう。福田雄一監督作品のような(笑)。

斉藤:ようやく、佐藤二朗本来の良さが発揮できる役が回ってくるようになった。ムロツヨシもそうだけど、おちゃらけた役回りじゃなくて、実力ある役者が本来の力を出したというか。

春岡:その通りだよ。そろそろベスト3を決めなきゃなんだけど、どうだった?

斉藤:僕は、『名付けようのない踊り』『恋は光』『犬王』の3本ですね。

春岡:良いとこ持っていくなぁ(笑)。俺は、『ハケンアニメ!』、『あちらにいる鬼』、『夕方のおともだち』かな。

華崎:廣木監督の2本がトップ3ですか?

春岡:あ、そうか。『あちらにいる鬼』はキネ旬のベストテンでも入れたからいいか。『愛なのに』も『マイ・ブロークン・マリコ』も良いんだよな。ちょっと待ってよ、俺、あれを忘れてたよ。小泉徳宏監督の『線は、僕を描く』。

斉藤:いいじゃないですか。でも、小泉監督って、ちょっと過小評価されてるよね。あんな素晴らしいのに。

春岡:小泉監督こそ、駄作がないよな。

斉藤:まったくない、全部良い。しかも丁寧。

春岡:映画会社が信頼するの分かるもん。この作品は、小泉監督に撮らせておけば大丈夫っていう。三木孝浩監督もそうだけど。

斉藤:2022年の三木監督は、ちょっと撮りすぎやったからな。

春岡:小泉監督は若くして、安心感がある。それこそ、河合優美があんな端役でも良いのよ。江口洋介が実は書家だったっていう、あのわざとらしい演出も。

斉藤:良いじゃん。大好き、ああいう演出。

春岡:そうなんだよ。あのわざとらしさが良いんだよ。

斉藤:美術も含めてね。よくあんな美術を作ったなってくらい。タイトルデザインもカッコいいしね。小泉監督はフォトジェニックなのよ、画の作り方が。

春岡:『ちはやふる』なんて、つまんねぇ監督が撮ったらとんでもない駄作になるからな。

華崎:躍動感あるし。でも、今回主演だった横浜流星は、『ちはやふる』のオーディションに落ちたらしくって。だから、小泉監督とできてうれしかったと言ってました。

春岡:いい話じゃんか。じゃあ、俺は『ハケンアニメ!』『夕方のおともだち』『線は、僕を描く』をトップ3に。

華崎:私は、『ちょっと思い出しただけ』『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』『川っぺりムコリッタ』をトップ3にします。

一同:いい感じにまとまったね。