お笑い芸人が舞台へ上がる際に流れる音楽「出囃子」。芸人にとっては自分たちの登場を知らしめる重要なテーマ曲、また舞台に立つエンジンであり、それぞれに思い入れがあるはず・・・。
そこで「よしもと漫才劇場」(大阪市中央区:以下、マンゲキ)所属芸人から、曲に込められた想いや経緯などを深掘り。マンゲキメンバーの兄貴的存在で、お笑いコンビ・スマイルの瀬戸をインタビュアーに迎え、最終回は『NHK上方漫才コンテスト』と『女芸人No.1決定戦 THE W』でともに優勝、そして『上方漫才協会大賞』では大賞と、今もっとも勢いのある女性コンビ・天才ピアニスト(竹内知咲、ますみ)に迫ります。
■ 今、やっとバランスが取れてきた(竹内)瀬戸:今回で最終回になるんですよ。ちょうど1年前、『M-1』チャンピオンのミルクボーイから始まって『THE W』のチャンピオンで締めるっていう・・・気持ちが良い企画でございます。今1番若手で忙しいんじゃない?
ますみ:はい!
竹内:あぁ言うた! いやいやいや・・・とかじゃなくて?
ますみ:いやもう、変な嘘はつかんと! (スケジュール)ビッチビチです!
瀬戸:ハハハ! 気持ちええよね、謙遜しても仕方ないもん。ここ1年で大分変わったんじゃない?
ますみ:そうですね。『THE W』獲ってからは東京のお仕事が増えたんですけど、2021年に準優勝してからが結構いろいろと変わり出した感じです。
竹内:今思うと「あのときラクやったな」って。当時は忙しいなと思ってたんですけど。
瀬戸:『THE W』から全国区になって、さらに忙しくなった感じか。ちょうど1年前くらいに2人のインタビューをエルマガさんでしてるねんけど、そのときはテレビ局の方とかが打ち合わせしてても、ますみちゃんの方しか見ていないとか、竹内さんの方はまだなんか横におる相方さんみたいな感じに思われてる、っていうのを打ち明けてくれてたんですけど。
竹内:あぁー! 1年前にそんな話してたんや。確かにキレてた時期はありました。全っ然こっち見てくれへんやん!って。
ますみ:勘弁してくれってぐらい私から目線をそらさないんですよ。最初上沼さんのモノマネで出させてもらってたこともあったんですけど・・・。
瀬戸:そうやね。最初モノマネでどんって仕事増えてそのイメージがあったから、どうしてもそうなってたんやろうけど。その悩みはどうですか? 今は解消されたんじゃない?
竹内:そうですね。今はディレクターさんも大分こっち見てくれていますね。やっとバランスが取れてきました。
瀬戸:そうそう、2人ってほんまに良いバランスよ! モノマネも武器やったなって忘れるくらいネタがしっかりしてるし、唯一無二の竹内さんのツッコミも注目されてるし・・・じゃあ今はそこに対しては不満はなしか。
竹内:ないです。この話したの忘れてました・・・そういえば言ったなって。
瀬戸:すげえな! もう忘れて、そんな時期もあったなっていうレベルか。
竹内:ますみが1人で出たりとかはめっちゃ嬉しかったんですけど、打ち合わせだけこっち見てもらえへんかなって・・・そのときは2人のネタで、コンビで認められるぞっていう思いはありましたね。
ますみ:『THE W』出るまでは、2人でおっても「モノマネ入ってるネタやってください」とか、ロケも同じような感じで。でも優勝してからは「天才ピアニスト」として評価されて、モノマネ以外のネタでも全国ネットに呼んでいただけるようになりました。
■ 「落ち着き払ってる」2人にぴったりの出囃子は?瀬戸:ごっそりと自分たちの方に向かす馬力というか、そこがすごいよね。そんな2人の出囃子やけど、これがまたおもしろいんよ。何でしたっけ?
ますみ:アニメ『GS美神』の主題歌『GHOST SWEEPER』です。アニソンですね。
瀬戸:1993年から94年放送されてたやつね、僕も見てましたよ。めっちゃ前奏もインパクトあるし覚えてるけど、2人は逆にこの曲知ってたん?
竹内:私、知らなかったです。
瀬戸:そうやんなぁ! これ見てたとき、めちゃくちゃ子どもの頃ちゃう?
ますみ:私は竹内より4つ上の今年36歳なので、小学校のときに『子どもアニメ大会』で観てたんです。
瀬戸:いろんな能力を持った女性が主人公で、ちょっと大人っぽい感じのね。なぜこれを出囃子に?
ますみ:普通にこのアニメが好きで選んだのもありますし、なんか始まりのインパクトが欲しいよなって竹内と話してて。ポップな感じもいいけどちょっと妖艶で迫力があって、「今から何かやってくれるぞ」っていう低いトーンから「ターンタンタンタターン♪」って高いキーになる・・・あのメリハリが大好きで選びました。
瀬戸:なるほどね。
ますみ:あと曲調とはまったく関係ないんですけど、『GS美神』に出てくる美神令子さんのボディコンの色が紫で。劇場所属するってなったときに、なんかイメージカラーあった方が覚えてもらいやすいと思って、当時劇場だとトットさんがグリーン、赤っぽい方とかもいらっしゃったなかで、紫がいてなくて。美神令子さんも紫だったので、ちょうど良いなと。これは全然誰も知らない裏話なんですけど。
瀬戸:そこまでもがバチンとハマったってことか。じゃあ曲自体は、ますみちゃんが持ってきたんやね。ほかに候補曲はなかったん?
竹内:何個か出してくれましたね・・・『セーラームーン』のオープニングとか。
ますみ:あれがまた良いんですよ!
瀬戸:『セーラームーン』とか今も人気やし、ええなあ! でも誰かやってなかったっけ?
ますみ:ぼる塾さんが、『セーラームーン』のエンディング曲を使ってますね。オープニングは意外とないんじゃないですかね?
竹内:やってそうやけど・・・あとは『おジャ魔女どれみ』の『おジャ魔女カーニバル!!』とかもありました!
瀬戸:ピリカピリララ? ちょっと待って、誰か言うてたで・・・あ、マユリカや! ピリカピリララでめっちゃ悩んだって言うてたわ。
竹内:うわ、ぽいですね! 今「ファンファーレと熱狂」が使ってますよ。
ますみ:やっぱみんなよぎるんですよね。ポップやし元気なるし、出てくるぞ!っていう感じがするから。
竹内:やっぱアニソンのオープニングって、イントロがめっちゃいいと思うんです。キャッチーですし。
瀬戸:アニメに合わせるから、インパクト重視でくる曲も多いしね。
竹内:で、私がますみからもらった候補曲を全部聴いて。なんか『セーラームーン』はちょっとガーリー寄りな気がして、『おジャ魔女どれみ』は私らそんなテンションがイエーイ!っていう感じじゃないし・・・キャラに一番合ってるのかなっていうので選びました。
ますみ:あと、我々コントもするので、なんか「あ、これコント師っぽい出囃子やな」とか思うの結構あるじゃないですか。逆にテンダラーさんとか吉田たちさんの出囃子とかめちゃくちゃ漫才師っぽいですし。どっちもするので、その中間、どっちとも取れるような曲がいいなっていうことも考えてましたね。
瀬戸:じゃあ、ネタは竹内さんが作るけど、そういうバックボーン的なのはますみちゃんが考えて持って来てたんやね。あとこの曲って、ポップななかに大人っぽさもあって、そういった部分も天才ピアニストに合っているというか。お互いがプライベートに秘めてる感じするもん。
ますみ:そうですね、なんか落ち着き払ってるところはあるかもしれないです(笑)。
瀬戸:あと、美神さんが本当に長身で長髪、セクシー代表みたいなイメージがあるから、そこからかわいらしい2人がちょこちょこって出てくるのもかわいいし。芸人のウケも良さそうやしなぁ。
ますみ:ドンピシャ世代の40代前半ぐらいの兄さん方とか・・・。芸歴2年目くらいの劇場メンバー入りしてすぐのとき、たまたまラフ次元さんの出番が前後で、梅村さんが『GHOST SWEEPER』の大ファンやったらしいんですよ。で、ほぼ初対面やったんですけど、梅村さんが急に声かけてきてくれはって、「今マルイで『GHOST SWEEPER展』やってるねんけど、一緒に行かへん?」って言われて(笑)。
竹内:ますみが出囃子をキッカケに梅村さんと遊びに行くっていう事件が起きました。梅村さんがすごいって話なんですけど(笑)。
瀬戸:ハハハ!(笑) 出囃子ってそこまで広がるんや。
ますみ:一緒にガチャガチャして2人で開封して、「うわ、これ欲しかったやつー!」って写真撮り合いながら盛り上がってました(笑)。
■ 負けるなら、センスや発想で負けたい(竹内)瀬戸:っていうか、2人のお笑いに対してのエネルギーの使い方ってすごくない? 毎日ラジオしてるんやろ? 単独も月1でしょ。それも、新ネタを作り続けてるってこと?
ますみ:そうですね。毎月新ネタ6本やってて、SNSも毎日更新したり。
瀬戸:すごくない!? そりゃストイックにやってる芸人もおるけど、ここまで追求してやり続けるコンビってそういないと思うわ。 その活力になるものは何なん?
竹内:今はやっぱり賞レースに勝ちたいっていうのがあって。『M-1』もですけど、女性コンビが1位を獲ってない賞レースもたくさんありますし、そこをひっくりかえせたらなって。『キングオブコント』は、決勝進出も男女コンビはあっても女性だけはまだないんですよ。そこを初めて獲っていきたいという思いはあります。
瀬戸:じゃあ『THE W』では優勝したけども、そこで満足してないんや。
ますみ:全然してないです。芸歴的にまだ出られる賞レースがたくさんあるので、全獲りするつもりでいます。
竹内:数をやる理由としては、負けるときはセンスとか発想で負けたいというか。量とか準備でカバーできる部分を残さずに本番は迎えたいなと思っているので。でも今は毎日必死ですね。今までなかったステージ数、その間にテレビロケとかが入って、全然違う種類の仕事が1日のなかに組み込まれてて、脳みそが追いつかないです(笑)。
ますみ:私も美容が追いついてなくて・・・。私ってやっぱり女子なんですよ。
瀬戸:そっち!? 女子が追いついてないって?
ますみ:まつ毛とかフェイシャルとか、今までは結構しっかりと行けてたんです。忙しいなかでもやりくりして・・・でも今は合間縫っても2時間とかが取れなくて。お笑いに対するストレスよりも女子磨きができなくて、発狂しそうです。
瀬戸:今1番美容で何したい? 1日どしっと休み取れて、自由に使っていいよってなったら。
ますみ:脱毛ですね! 毛をむしり取りたいです!(笑)
■ 「私、この出囃子が大好きなんです!」(ますみ)瀬戸:では、最後に「出囃子とは?」というのを聞かせていただいているんです。
ますみ:出囃子とは「空気が変わる瞬間」。自分たちの前の方がめっちゃウケてたら、出にくい時あるんですよね。もう拍手拍手、それこそ我々とは全然違う色のフースーヤとかがグーッて盛り上げてたり。
瀬戸:あるある。ちょっと空気が違う感じになるね。
ますみ:でもこの曲で空気を変えるというか、一旦リセットされる感じがして。 前の方があんまりウケてないっていう逆の出にくい場合でも、「私たちが空気を変えるぞ」っていう気持ちにさせてくれる。ほんまに私、この出囃子が大好きなんです。
竹内:トンボをかけているような感じですよね。
瀬戸:整地する感じね。・・・いや、例えが部活なのよ! でも出囃子がなかったら、ほんまに寄席とか成り立たないかもしれんね。空気がリセットせぬままに次のコンビってなったら、絶対飲まれていってしまうから・・・素晴らしい答えです。最終回にふさわしい形なりました! これからも天才ピアニストの更なる活躍を期待しています!
竹内:ありがとうございます!
ますみ:期待しておいてください!
取材/瀬戸洋祐(スマイル) 写真/岡本佳樹(舞台)、渡邉一生(インタビュー)