毎年この時期になると多くの人がカメラを向け、大阪・梅田の「冬の風物詩」ともいえる存在となった「阪急うめだ本店」(大阪市北区)の巨大なディスプレイ「コンコースウインドー」。そんな華やか装飾も、約1カ月や早いものだと1週間余りで次のテーマへと移り変わってしまう。

次から次へと移り変わるトレンドに併せて、姿を変える「百貨店の顔」。その陰では多くの人々が動いている。この「路上美術館」のようなアート空間を次々と生み出す1人の仕掛け人に、創作過程について訊いた。

■1テーマごと、造形作家ら約100人が参加

同百貨店のストアデザイン部に所属する亀山和廣さんは、1972年の入社以来、館内看板をはじめ9階「祝祭広場」や人気催事のディスプレイ装飾で指揮をとってきた立役者。クリスマス時期に特に注目が集まる「コンコースウインドー」は、展示の約1年前から構想が練られる大がかりな仕事だという。

毎年1〜2カ月周期で姿を変えるショーウインドーの制作過程は、ラフ描きから。各企画担当者からキーワードをもらい、パッと浮かんだ絵を元に、7面のウインドウに見立てた四角のなかにストーリー構成までもを細かく書き込む。その後、さらに文章化して世界観をかためるそう。日ごろからiPadにメモしていた絵も参考にしつつ、企画案・設計図が作られていく。

展示の約5カ月前には、外部の造形作家ら約100人の協力のもと背景の色塗りなど制作作業がスタート。展示では「すべてのものが調和するようにトーンを合わせる」ということを意識し、現在の『不思議の国のアリス』では、「マリオネット」と枠を彩る「ゴービースタンプ」といった、どちらも主張のあるもののバランスを考えつつ、それぞれの作家に指示を出すというのも亀山さんの仕事だ。

最終の搬入作業はお披露目の2日前に開始し、閉店時間内におこなうため、毎回時間との闘いだといい、今年は朝6時まで微調整が続いたそう。「穴に落ちた場面では下に広がる世界を表現するために、上のライティングをより明るく強調させたり」などと、現場だからこそ気がつく点を瞬時に改善していき、今回の『不思議の国のアリス』が無事完成した。

■「お客さんの思い出作りになれたら」

目まぐるしく変化し、見る人々を魅了するショーウインドー。現在も3プロジェクトほど平行してこなす亀山さんに、アイディア出しが大変なのでは・・・と問うと、「仕事が趣味なんです」と笑顔をみせる。「キーワードをもらってから作品資料をざっと見て、インスピレーションですぐ絵を描いていくんです。基本的には3日後とか、早いときは明くる日に、企画部にラフを渡していますね。早く仕上げないと、どの案件か分からなくなってしまうんです(笑)」と、スピーディーな裏側を語る。

すべての通行人が観客になりうる空間だからこそ、遠くから見た時に「あ、何か楽しそう!」と目をひく要素と、近寄るともっと細かい発見ができるという装飾を心がけ、ウィンドー前には子どもが天井を見上げたり奥をのぞけるような台も設置されている。

「我々の手掛けるディスプレイは1週間や1日でなくなることも。だからこそ、よりお客さんの記憶に残るウィンドーにしたいなと思ってやっています。そしてこのお店に入りたい!と思ってもらえるような思い出作りになれたら」と話したあと、「今年の出来ばえは、僕の中では6割くらい」と驚く発言も。次なるステージに期待が高まる。「阪急うめだ本店」1階コンコースにて、12月25日まで展示。

取材・文/塩屋薫