同期の貴乃花戦は21勝21敗

 大相撲史上初の外国出身横綱・曙が4月上旬に死去していたことが11日、日本相撲協会から発表された。まだ54歳だった。

 204センチ、230キロ超の恵まれた体を誇る曙は、強力な突きと押しを武器に、史上10位となる11回の幕内最高優勝を達成した。

 同期の貴乃花、若乃花の若貴兄弟がベビーフェイス(善玉)なら、曙はヒール(悪玉)。対戦成績は、対貴乃花が21勝21敗、対若乃花が18勝17敗と互角の内容だった。

 2017年4月、曙が体調を崩し、救急搬送されたのはプロレスの試合後だった。一時は生死の境をさまよった。それから約7年の闘病生活を経て、帰らぬ人となった。

 昨年12月には曙らとともに平成の相撲界を盛り上げた元関脇・寺尾の錣山親方が亡くなった。彼は60歳だった。

 それにしても力士は短命である。曙と39回対戦(曙の34勝5敗)した元大関・貴ノ浪の音羽山親方も15年6月、43歳の若さで他界している。

 そこで調べてみると、関取の平均寿命は「62〜63歳」というデータを見つけた。

 厚生労働省によると、2022年の日本人男性の平均寿命は81・05歳。それより、およそ20年も短いのだ。

 これは異常と言わざるを得ない。大横綱の北の湖は62歳、千代の富士は61歳で亡くなっているが、相撲界において「早死にでしたね」という声は、あまり聞かない。幕内力士の平均寿命を全うしているためだ。曙同様、相撲から、後にプロレスラーに転じた北尾も、55歳で世を去った。

 なぜ、力士は長生きできないのか。それについては、体重が重ければ重いほど有利に働く競技性や過酷な稽古、土俵上での重圧などがあげられる。

「オマエは太り過ぎだ。体に悪いから痩せろ!」

 親方が弟子を、こう叱責する場面に出くわしたことは、未だかつてない。だが肥満は糖尿病や高血圧、高脂血症の誘発要因となり、私が知る限りにおいて基礎疾患を抱えていない幕内力士は、若手をのぞき、ほとんどいない。

 力士は男を売る商売でもある。後援者から酒をなみなみつがれ、一気に飲み干さなければ男が廃る。

 元大関の魁皇は力士の中でも酒豪で知られる。最高でどのくらい飲んだか、と訊ねると「日本酒で6升」と答えた。私が絶句したのは言うまでもない。

 第64代横綱の曙は、ビールの大ジョッキを64回おかわりしたという逸話を残している。こうした“武勇伝”が徐々に体を蝕んでいったのは想像に難くない。合掌

初出=週刊漫画ゴラク2024年5月10日発売号

二宮清純
(にのみや・せいじゅん)

スポーツジャーナリスト。1960年愛媛県生まれ。オリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦など国内外で幅広い取材活動を展開中。1999年6月より、インターネット・マガジン「Sports Communications」(http://www.ninomiyasports.com)を開設。 新刊『森保一の決める技法 サッカー日本代表監督の仕事論 (幻冬舎新書 )』が好評発売中。他に『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)、『スポーツを「視る」技術』(同)、『勝者の思考法』(PHP新書)、『プロ野球裁判』(学陽書房)、『人を動かす勝者の言葉』(東京書籍)、『歓喜と絶望のオリンピック名勝負物語』(廣済堂新書)、『昭和平成ボクシングを語ろう!』(同)、『村上宗隆 成長記〜いかにして熊本は「村神様」を育てたか』(廣済堂出版)など、著書多数。