劇的なスピードで進化を遂げる人工知能「ChatGPT」が、知識労働者の職を次々と奪い始めています。メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で、Windows95を設計した日本人として知られる世界的エンジニア中島聡さんが、いま話題の「ChatGPT」を味方にして仕事の生産性を上げる方法を伝授します。

※本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2023/5/5号より一部抜粋したものです。続きをお読みになりたい方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

2年半前の「予言」的中。人工知能が世界を書き換えはじめた

最近になって、ChatGPTが妙に注目されています。いきなり、人工知能が進化し、「人間のように話すようになった」「人間の職を脅かすようになった」と感じている人も多いと思いますが、実際の大きな変化は2020年ごろから始まっています。

私は、2021年1月のメルマガで「2021年は『AIに仕事を奪われる』最初の年になる。」というタイトルで、GPT-3について以下のように紹介しています。

そして、自然言語処理に関して、「相転移」と呼べるほどの画期的な進歩をもたらしたのは、OpenAI という会社です。OpenAI が2020年になって公開した GPT-3 は、インターネット上にあるさまざまな文章を教科書として、言葉を学んだ人工知能ですが、これまでの人工知能にない一つの特徴を持っています。

それは、言語で表現できるあらゆる質問に答えることができる、という特徴です。

– 文章を要約する

– 途中まで書かれた文章を完成する

– アマゾンで販売されている商品に対するフィードバックを書く

– 指定したトピックの記事を書く

– ウェブサイトの生成に必要なプログラム(HTML)を書く

– 難しい法律用語で書かれた文章を普通の文章に変換する

– 数式を生成する

大量の文章を教育データとして与えただけで、これほどの汎用な能力を持つ人工知能が作れてしまうことは多くの人を驚かせました。GPT-3を「汎用人工知能」への第一歩だと考える人も多数います。 

ファンド運営すら一人で可能。AI失業の流れは他業種にも

当時のGPT-3は、開発者向けにしか公開しておらず、その驚異的な凄さに気がついている人はごく一部でした。VC(Venture Capitalist=ベンチャー投資家)をしている私の長男(洋平)もその一人でした。

VCは、星の数ほどあるベンチャー企業の中から有望な企業を探し出す必要がありますが、送られてくるパワーポイントの資料やウェブサイトを見るだけで結構な手間です。通常、VCは、アソシエイトと呼ばれる下働きの人たちを何人か雇い、彼らにその手の作業をさせた上で、いくつかの候補を見つけ出し、さらなる調査で有力な候補に絞り込む、ということをします。

私の息子は、その部分をGPT-3に担当させることにしたのです。具体的には、GPT-3と各種のNo Codeツールを組み合わせ、

ベンチャー企業からメールで届いたパワーポイントやPDFの資料を要約する
ベンチャー企業のウェブサイトから得られる情報を要約する 特定のベンチャー企業のライバルを見つけ出して、それとの違いをまとめる

などの作業を全て自動化してしまったのです(最近になって、彼は、[BabyAGI](https://github.com/yoheinakajima/babyagi)という人工知能を活用した自動化ツールをオープンソースとして公開しましたが、それはこの時期の経験に基づくものです)。結果的に、彼は、アソシエイトを雇うことなく、ファンドを運営することができるようになってしまったのです。

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ChatGPT爆発的ヒットの裏に、巨額資金を提供したMicrosoftの存在

今話題のChatGPTは、GPT-3を少しだけ進化させたGPT-3.5に、「チャット」という直感的に使えるアプリケーションを作った上で、それを誰でも無料で簡単にアクセスできるようにしたために、爆発的なヒットになったのです。

OpenAIは、GPT-3をChatGPTという形で一般公開した理由に関しては、「より多くの人に評価して欲しかったから」と説明していますが、その発表直後に、さらに大幅に機能アップしたGPT-4をリリースした上に、Microsoftから巨額の資金調達をしたことから考えて、AIをサービスとして提供する「AI as Service」を営利事業として運営する準備ができたから、と私は解釈しています。

OpenAIは、元々は「人類全体に利益をもたらす人工知能を作る」ことを目的にし、Elon Muskらの支援を受けてスタートした非営利団体です(2015年)。しかし、非営利のままでは、必要な研究開発投資ができないことを理由に、Elon Muskと決別して、営利企業へと転身した上で、Microsoftから資金調達を行いました(2019年)。

OpenAIが、非営利団体として活動していた時代のソフトウェアは、すべてオープンソースで公開されていましたが、Microsoftから投資を受けて営利団体に変わってからは、非公開となり、Microsoftのみにソースコードにアクセスできる特権が与えられました。

GPT-4クラスの人工知能をトレーニングするには、莫大な量のデータと、計算資源が必要です。インターネット上にあるすべての文章を使って、スーパーコンピュータを数ヶ月間、独占的に使ってトレーニングするイメージです。

当然ですが、その計算資源を提供したのはMicrosoftだし、さらに作った人工知能をサービスとして提供する際に必要な計算資源もMicrosoftが提供しています。

なぜChatGPTの成長スピードはTikTokよりも圧倒的に早いのか?

OpenAIがChatGPTをリリースしたのは、2022年11月30日ですが、このサービスは、わずか2ヶ月で1億人のユーザーを獲得するという、これまでリリースされた、いかなるアプリ・サービスをも上回るペースで、普及しました(1億人のユーザーを獲得するのにInstagramは2年半、TikTokですら9ヶ月かかりました)。

なぜこれほどまでに、ChatGPTが急速にユーザーを獲得することができたかは注目に値します。これまでのサービスと違って、「いきなり大きな価値を提供してくれる」点が根本的な違いです。

InstagramやTikTokは、ソーシャルネットワーク・アプリなので、他の多くの人が使ってこそ、価値があります。そのため、リリースしたばかりのユーザーが少ない時期には、提供する価値も少なく、なかなかユーザーが増えないのです。また、それらは基本的には「エンターテイメント」「時間つぶし」であり、仕事や勉強に直接的に役に立つわけではないのです。

それと比べると、ChatGPTは、ユーザーの数に関係なく、価値が提供できているサービスである上に、仕事や勉強に直接的に役立つ点が、これまでのアプリやサービスと大きく異なります。

「使わない日はない」爆速エンジニア中島聡のGPT活用術5つ

私自身は、ChatGPTがリリースされる前から、GPTを仕事に活用してきました。具体的には、

長い文章を要約する 英語の文章を日本語に翻訳する 私の書いた英語を、きちんとした英語に直してもらう Google検索では簡単に答えが見つからない調べものをしてもらう 使い慣れていないライブラリの使い方を教えてもらう

などです。

具体例として、[Baseball Has Changed](https://www.nytimes.com/2023/04/23/briefing/baseball.html)というNew York Timesの記事をChatGPTに要約させました。与えたプロンプトは、「以下の記事の内容を400字程度の日本語に要約してください。専門用語を使わず、中学生にも理解できるぐらいにわかりやすく書いてください」です。

この要求に対する回答は、以下のようになります。

野球のルールが変わり、試合の持続時間が短くなっている。球場に設置されたタイマーによって、ピッチャーがボールを投げるまでの時間が計測され、ボールが投げられるまでの時間が短くなっている。また、野球の人気低下への対策として、守備位置の制限などのルール変更が行われ、ヒット数や盗塁数が増えるなど、よりアクションのある試合になっている。これにより、試合の持続時間は短くなったものの、野球の本質であるピッチャーとバッターの対決の難しさには変わりがなく、野球人気の回復にはまだ課題が残っている。

私は、この要約機能をメルマガ執筆の際にも使っていますが、単に時間を節約したい時、もしくは、その文章を読みたいかどうかを判断する際にも使っています。

また自分の書いた英語を、よりきちんとした英語に直してもらうこともよくあります。私が2015年に LinkedIn に書いた文章の一部を、ChatGPTに修正させた例をご紹介しましょう。

私の英語は、単に情報を伝える、という意味では十分ですが、「もの書き」としてはど素人で、リベラルアーツの大学を卒業した学生に負けるレベルです。スペルの間違いや文法の間違いぐらいであれば、既存の校正ツールで直せますが、これが限界です。

それをChatGPTに依頼するだけで、そんな「拙い文章」を雑誌の記事に使えるレベルにまで引き上げてくれるのですから、これほど便利なものはありません。それどころか、要点だけ箇条書きにして、「綺麗な文章にしてくれ」と依頼するだけで十分なため、必要な時間も圧倒的に短くなります。

調べものに関しても、「Google検索よりGPTに聞いた方が早い」ケースが出てきており、私は毎日のように活用しています。

実際に書き直してもらった文章は――

 

※この後半では、中島さんが20年に一度の「地殻変動」と呼ぶ米国での変化、そしてChatGPTによる新たな産業革命「AIX時代」に生き残る人材の条件について紹介しています。ぜひメルマガをご登録いただきお楽しみください(メルマガ登録は初月無料です)。

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