長い時間と労力をかけ開発した技術を、隣国にたやすく盗用され続ける日本。なぜこのような事態が頻発するのでしょうか。前回記事で、模倣に長けた韓国企業に技術供与したため、半導体のシェアを奪われた日本企業の「脇の甘さ」を指摘した元国税調査官で作家の大村大次郎さん。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では、「供与」ではなく、韓国企業による「盗用」の手口を紹介。日本企業が莫大な利益を上げていながら、技術者の待遇に反映せず、あまりに簡単に「技術流出」を招いた醜態を暴露しています。

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情報を盗んだ相手と和解。韓国に技術を盗用され放題の日本企業

前回、日本は戦後、韓国や東南アジアに無防備に技術供与を続けてきたために、工業製品のシェアを奪われることになったということをご紹介しました。

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今回は、「韓国の模倣技術」についてもう少し突っ込んだ話をしたいと思います。日本から韓国への技術流出は、日本企業が正式に技術供与したルートだけではありません。不正に技術が流出することも多々あるのです。

たとえば2014年には、東芝の提携企業の元技術者が、韓国の半導体企業「SKハイニックス」に機密情報を流したとして訴えられる事件がありました。いわゆる「東芝半導体データ流出事件」です。

この事件の経緯は次の通りです。アメリカの半導体大手のサンディスクの日本法人に勤務していた技術者が、共同技術開発していた東芝のデータをコピーし、韓国の「SKハイニックス」に転職しました。そして「SKハイニックス」において、コピーしていた東芝の研究データを「SKハイニックス」に提供したのです。これに気づいた東芝が、SKハイニックスと元技術者に対し1,090億円余りの賠償などを求める訴訟を起こしたのです。

この裁判は、SKハイニックスが2億7,800万ドル(約330億円)を支払うことで和解しました。が、東芝は信じがたいほどお人好しで、この事件をきっかけに、SKハイニックスと共同開発をすることを同意したのです。

「情報を盗んだ相手と和解し、その後に協力し合う」というのは、映画やテレビドラマであればありうるでしょう。しかし、経済社会はそれほど甘くありません。共同開発しても、したたかな韓国企業と東芝では公平になるはずがありません。東芝の大幅な持ち出し超過になることは目に見えていたはずです。

この元技術者は、SKハイニックスから前職の2倍ほどになる千数百万円の報酬を約束され、住居にはソウルの高級マンションを提供されていたそうです。しかし、SKハイニックスは、この元技術者の能力自体には魅力を感じておらず、保持している機密情報だけが欲しかったらしく、たった3年で契約を打ち切られています。絵にかいたような「産業スパイの使い捨て」です。

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1回の技術講義で月給数倍もの報酬。韓国のパクリの手口

しかし、この事件は氷山の一角であると見られています。この事件は、東芝の社員ではなく提携先の企業の元技術者が「データをコピーして持ち出した」ために訴えられたものです。もし、東芝の技術者がデータをそのまま提供するのではなく、自分の培った技術を提供すれば、なかなか訴えるのは難しいのです。

実際に、90年代以降、そういう事例は腐るほどあるのです。東芝、ソニーなどから、韓国のサムソン電子などに転職した技術者は多々います。また転職をせずとも、韓国企業から招かれて技術講義などを行った日本の技術者は多々いると見られています。

日本の技術者たちは、日本企業に在職したまま、土日にサムソン電子などにソウルに招かれるということがよく行われていました。1回の技術講義で、その技術者の月給の何倍もの報酬が払われたそうです。

これは半導体分野だけじゃなく、日本の産業全体でこういうことが行われたと見られています。

たとえば韓国の製鉄メーカー最大手のPOSCOは、2012年、日本の新日鐵から「技術盗用」で訴えられています。新日鐵の元技術者たちを雇用し方向性電磁鋼板の技術を盗用したのです。

韓国は、途上国のときには「技術供与」により、先進国になってからは「技術盗用」により、日本の技術を奪ってきたのです。韓国はこの手の「ダークな産業競争」には非常に強く、日本はからきし弱いのです。しかも、日本側にも、技術流出を招きやすい要因がありました。日本の経済政策の失敗も大きく関係しているのです。

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賃金を下げ韓国の「引き抜き」招いた日本企業の重い責任

韓国の技術盗用の手口は、日本企業の技術者を高額の報酬で釣るという非常に単純なものです。なぜ日本側はこれを防げなかったのでしょうか?これには、90年代以降の日本の経済界の大きな失策が関係しているのです。

このメルマガでも何回も触れましたが、バブル崩壊以降、日本の経済界は、日本人の雇用を非常におろそかにしてきたのです。日本経済新聞2019年3月19日の「ニッポンの賃金(上)」によると、1997年を100とした場合、2017年の先進諸国の賃金は以下のようになっています。

アメリカ    176
イギリス    187
フランス    166
ドイツ     155
日本        91

このように先進諸国は軒並み50%以上上昇しているにもかかわらず日本だけが下がっているのです。

この20年間、先進国の中で日本の企業だけ業績が悪かったわけではありません。むしろ、日本企業は他の先進国企業に比べて安定していました。経常収支は、1980年以来、黒字を続けており、東日本大震災の起きたときでさえ赤字にはなっていません。

企業利益は確実に上昇しており、企業の利益準備金も実質的に世界一となっているのです。にもかかわらず、日本企業は従業員の待遇を悪化させてきました。

賃金を上げなかったのは、中小企業だけじゃなく大企業も同様です。というより、大企業が賃金を抑え込んだために、日本全国の企業が賃金を抑え込むことになったのです。

その一方で、日本の大企業の役員報酬は高騰しています。2010年3月期決算から、上場企業は1億円以上の役員報酬をもらった役員の情報を有価証券報告書に記載することが義務付けられました。

この制度が始まったとき、上場企業では364人もの1億円プレーヤーがいたことが判明し、世間を驚かせましたが、上場企業の1億円プレーヤーは、その後も激増をつづけ、2018年には731人になっています。コロナ以降も増え続けており、企業によっては、社員の平均給与の200倍の報酬をもらっている役員もいます。

また株主に対する配当も、この20年で激増し、2倍を大きく超えています。つまり、株主配当も役員報酬も激増し、会社には巨額の預貯金がため込まれているにも関わらず、社員の賃金だけは下げ続けられたのです。これでは、会社に忠誠心を持てと言う方が無理です。

ちなみに韓国の大企業の賃金はそれなりに高いし、近年は欧米以上の上昇を続けています。韓国経済は決してよくはありませんが、財閥、大企業の社員の待遇自体は日本よりいいのです。

韓国企業が日本企業のシェアを奪っていった時期と、日本がリストラを敢行し賃上げをしないようになった時期とはほぼリンクします。見方によれば、韓国企業は日本経済の弱点を的確に衝いているといえるのです。

(メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2023年6月1日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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