中国の経済が悪化し始め、不景気に悩む中国アパレル経営者が増えてきているそうです。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、そんな中国アパレルの経営者に向けて、デフレなどをいち早く経験した日本人の立場から、低成長時代を乗り越えるための戦略を語っています。
低成長時代を乗り越えるための戦略こんにちは。
中国の経済が悪化しています。コロナが明けて、中国アパレルの経営者向けのセミナーの打診があったのですが、これだけ景気が悪いと有効なアドバイスができないと考えて、お断りしました。
断ってはみたものの、何となく心に引っかかっています。バブル崩壊後の不景気の経験を元に、不景気時代の戦略についてアドバイスできるのではないか、と考えたりしています。
自分の考えをまとめるために、不景気に悩む中国アパレル経営者に向けた戦略について考えたいと思います。
1.低成長時代への戦略転換世界中が好景気で、給料が上がり続ける中で、日本はデフレと不景気に苦しんできました。コロナ禍が収束した現在、これまで好調だった中国は景気減速に苦しみ、希望を失っているように見えます。
そこで、デフレと低成長時代をいち早く経験した日本から中国アパレル経営者に助言を送りたいと思います。
高成長時代は、明るく積極的な気分が主流です。お金持ちは成功者であり、リッチであることをアピールすると、周囲もそれを讃えるムードがあります。
経済成長の時期は、昨日より今日、今日より明日がより良くなります。将来に明るい展望があるので、ローンを組むことにも抵抗がありません。欲しいものがあれば、売り切れる前にクレジットカードで買物をします。そういう積極さを持っていないと時代に取り残されると考えています。
市場が拡大しているので、企業も常に新規顧客を獲得できます。市場シェアを拡大するには、積極的に広告宣伝に投資することが必要です。ブランド知名度を一気に上げ、顧客を囲い込む戦略が有効です。
低成長時代は、堅実で消極的な気分が主流です。お金持ちでも、自分がお金を持っていることを周囲にアピールせず、慎ましく振る舞います。それが上品であると評価されます。
経済が成長しないので、昨日も今日も明日もあまり変わらず、むしろ悪くなることさえあります。高望みはせず、借金も極力避け、収入に見合った支出を心がける賢い生活者を目指すべきであると考えます。
市場は拡大しないので、リピート顧客の獲得を目指すことが重要になります。商品の品質、アフターサービスに注力することで、顧客との関係性を高めることが必要です。
広告宣伝への投資より、品質を向上させる設備投資や人材への投資がより重要になります。
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2.脱欧州トレンドと顧客志向アパレル製品の商品企画をする時、何からスタートするのでしょうか。これまでは、欧州のトレンド情報を基本にして、商品企画を組み立てていました。しかし、この手法は顧客志向とはいえません。
欧州のトレンド情報は、欧州の業界が市場を情報操作するために行っています。トレンド情報発信の背景には、世界の市場は一つであり、世界中の市場は欧州のトレンドに従うものというグローバリズムの思想があります。
顧客志向では、それぞれの国や地域の顧客は多様であると考えます。欧州のトレンド情報を押しつけるのではなく、実際の顧客の売上データや顧客の声を優先します。
また、アパレル企業の社長やデザイナーがつくりたい商品を作るのではなく、顧客が求めている商品を作るという姿勢が必要になります。作りたい商品を押し出すのではなく、市場のニーズを引き出して商品を作るという発想です。
会社の組織も変革が必要です。これまでの会社の組織図は、ピラミッドのような三角形です。最上部に社長がいて、底辺に販売担当がいます。顧客はその下にいるということです。
顧客志向の経営では、組織図は逆三角形になります。最上位に顧客を置き、その意見を販売担当が収集し、それを商品企画に落としていく。最も下の位置に経営者がいて、全ての責任を負います。
組織図が変わっても、仕事が変わるわけではありませが、これを見ることにより、意識が変わります。常に顧客優先で経営を考えることにつながるのです。
3.ステイタス訴求からライフスタイル訴求へ見栄を張ることは、ファッションにとって重要です。実際の自分以上の姿を他人に見せたいという願望です。明るく、リッチで積極的な姿が魅力的に見えます。加えて、社会的地位、ステイタスが高いという印象を与えたいのです。
低成長時代になると、次第に見栄を張ることが愚かに見えるようになります。ゴージャスで装飾的なファッションは成金趣味として嫌われます。
むしろ、本物のお金持ちほど、一見すると質素でシンプルな生活を好むと考え、その生活スタイルに憧れるようになるのです。
ステイタスファッションは、非日常的なシーンでこそ映えます。非日常的なパー
ティーに参加すること自体がステイタスだと考えているからです。派手でゴージャスで目立つこと。エネルギーを周囲に発散しているイメージです。
ライフスタイル訴求のファッションは普段着、カジュアルウェアが中心です。非日常の生活にこだわるのでなく、日常の生活にこだわる暮らし方。日常生活にこそ上質なベーシックアイテムを選びます。トレンドを楽しむなら、ファストファッションで十分。ベーシックなファッションこそ、自分の個性を表現できると考えるからです。
低成長時代でも、所得の多い顧客はいます。しかし、時代の変化と共に、選ぶ商品が変わります。
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4.新たなラグジュアリーはオーガニックラグジュアリーとは、「贅沢な、豪華な」などの意味。ラグジュアリーブランドは、歴史と信用のある高級ブランドです。
ラグジュアリーブランドの商品企画も変化しています。ゴージャスで装飾的なファッションではなく、環境や人権、動物愛護など、社会的課題を優先しています。
食の分野では、オーガニック野菜、オーガニック料理、オーガニックワイン等がセレブの関心を集めています。アパレル製品では、オーガニックコットンが人気です。
オーガニックは「有機」を意味します。オーガニック栽培では、合成肥料、合成農薬等を使わずに栽培します。オーガニック化粧品は、合成添加物を含みません。
石油由来の合成物質や化学物質が増えたのは、それを使うことで、製造過程のコストや時間を短縮し、大量生産が可能になります。
ファッションにおいても、合成染料で染色した合成繊維の製品が主流です。購入したあとも、合成洗剤と合成香料入りの合成柔軟剤でクリーニングしています。
合成物質は便利ですが、使う人の体質やコンディションによっては、アレルギーを誘発したり、肌トラブルが発生することもあります。
また、合成農薬や合成肥料を使い続けると、土壌が汚染されます。有機的なものであれば、自然の中で分解し、循環していきます。
経済的に余裕のない人は、多少健康に悪くても、安価な合成製品を購入します。しかし、ラグジュアリーブランドを好むような富裕層は、高くても安心安全なオーガニック製品を選びます。
今後の富裕層向けブランドや商品は、オーガニックがキーワードとなります。同時に、大量生産ではない、伝統的な手工芸や職人の手仕事も高く評価されます。
その意味では、単にデザインでの差別化ではなく、素材や技術、生産方法の差別化が求められます。そして、それを顧客に訴求しなければなりません。
編集後記「締めの都々逸」「バブルもデフレも 経験したぜ これから日本の出番だぜ」
なぜ、日本だけ不況で給料も上がらないんだ、と絶叫していましたが、ようやく世界が追いついてきました。世界中が不況となり、インフレやデフレに苦しんでいます。
日本が不況時代をどのように乗り切ったのかは、ノウハウとして売れるのではないか、思います。
以前、中国の知人に「このままだと不動産バブルが崩壊するよ」と言ったのですが、「中国では一度も不動産価格が下がったことはないんです。だから、バブル崩壊なんて想像もしていません」と言われました。でも、本当にバブル崩壊になりました。不況を乗り切るノウハウ、高齢化を乗り切るノウハウ、理不尽な隣国と付き合うノウハウも売れそうですね。あるまで、日本にノウハウがあればの話ですが。(坂口昌章)
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