「らくらくスマホ」や「arrowsシリーズ」を手掛けていたスマートフォンメーカーのFCNTが民事再生法の適用を申請。つい先日、京セラが個人向けスマホからの撤退を発表したばかりで、国産スマホの苦戦が明らかになっています。この状況を憂慮するのは、ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さん。今回のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』では、NTTグループや政府が進める計画に与える負の影響を指摘し、日本の通信産業の将来に対する不安を綴っています。

「らくらく」「arrows」のFCNTが民事再生法適用に──安全保障上、純国産メーカーを失って将来的に大丈夫なのか

2023年5月30日、FCNTが東京地裁に民事再生法の適用を申請した。Arrows Weが好調で、年初にはarrows Nを発売したが、京セラに続き、あっけなく、撤退となってしまった。

そもそも、Arrows Weが好調といっても、中国メーカーに対抗するための超低価格モデルであったため、利幅は少ないと思われる。発売当初に比べて円安基調も強くなり、追加発注をすれば赤字は避けられない可能性も高い。

結局のところ、総務省による「上限2万円割引規制」の影響をもろに受けたのではないか。総務省では同じ5月30日に上限を4万円にするという方向性を示したが、時すでに遅しなのは間違いない。

日経報道では、FCNTはキャリアなどに支援の交渉をしたようだが、けんもほろろだったようだ。キャリアとしてはFCNTの凋落なんて見て見ぬふりなのだろう。確かに競争力を失っているメーカーをいまさら助ける必要はないのかも知れない。

ただ、NTTグループ全体で考えると、本当にそれで良かったのかは疑問が残る。2026年3月には3G停波を迎える。3Gケータイから乗り換えを促進するための日本メーカー製スマートフォンが必要なのは間違いない。

シニアやキッズ向けも他メーカーがいるからこそ、競争が起き、安価に調達できるようになる。今後、「シャープ一択」では価格交渉にも限界があるのではないか。

NTTグループはいま「IOWN」に社運というかグループ運をかけている。IONWがどこまで実用化されるかは疑問ではあるが、将来的に「IOWN対応デバイス」を作ろうとしたときにどのメーカーに発注するつもりなのか。まさか、NTTグループが中国メーカーに発注するなんてあり得ないだろう。

日本政府としては、いま日本の半導体産業を復活させようと「ラピダス」に大金をつぎ込んでいるが、仮に将来的にラピダスが動き出した際、その受託製造したチップを積極的に採用するメーカーが必要になってくるのではないか。

もちろん、ここでも中国メーカーにお願いするわけにもいかず、ごり押しできる日本メーカーが必要だったのではないか。安全保障上、純国産で5Gや6Gに向けたノウハウを持っているメーカーを残していく必要があったのではないか。

半導体だけではなにも動かない。半導体を動かすためのデバイスが必要だということをなぜ、NTTグループも日本政府も理解していないのか。

それこそ、キャリアの下請けとして受注してくれるメーカーであったFCNTのような企業は、日本の通信産業に必要不可欠であったはずだ。FCNTを単に「スマホメーカー」としか見ていないようだと、将来的に痛い目に合いそうな気がしてならない。

今後、クラウドと基地局、スマートフォンが一体して情報を処理するような時代が来たときに、日本メーカーがないことで、日本の通信産業はまたも他国に遅れることになりそうだ。

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