深刻な人手不足が叫ばれながら、特に大企業で増加している「黒字リストラ」。なぜ我が国ではこの相矛盾的現象が起きているのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』ではファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、その理由を解説するとともに解消法を考察。さらに外国人労働者に頼る前にまずすべきことを提示しています。

※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:リストラと人手不足が同時進行

リストラと人手不足が同時進行 1.黒字リストラの増加

これまでのリストラは、業績が悪化し、赤字を軽減するために、人件費を削減するというものだった。赤字リストラである。しかし、最近では、好業績でもリストラする企業が増えている。これが「黒字リストラ」だ。

リストラとは、リストラククャリング、再構築の略語。しかし、日本では人員整理の意味に使われてきた。本来、リストラは人員整理だけでなく、事業内容、組織や業務フロー等を再構築しなければならない。今回の黒字リストラは、その意味で本来のリストラクチャリングを目指しているのかもしれない。つまり、デジタル化と共に社員を見直し、企業に新陳代謝を起こそうとしているのではないか。

VUCAという言葉が注目されている。VUCAは、元々米国で使われていた軍事用語だ。1990年代に米国とロシアの冷戦が終結し、核ミサイル中心の戦略が不透明な戦略に変わったことを表している。VUCAは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字から取った造語であり、2010年代に変化が激しい世界情勢を表す言葉としてビジネスでも利用されるようになった。

変動性と不確実性が高いということは、現状を放置しておくリスクが高まったということ。現状を維持させるためだけのルーティン業務は、AIやロボットの進化によって置換されていく。

複雑性と曖昧性が高くなると、会社や組織に依存せず、「個人」主体の小回りのきくプロジェクトでミッションを果たすことが主流になる。「依存型人材」より、主体的に動ける「自立型人材」が求められる。また、スキル(技能)よりウィル(意識)が重要になる。

こうした人事の再構築、社員の再構築が黒字リストラを生んでいるのである。

2.人手不足と人材の流動化

一方で、人手不足の問題も生じている。背景には、少子高齢化、団塊世代の一斉退職、非正規雇用の待遇の低さ等の問題がある。

人手不足は、中小企業になるほど深刻な問題となっている。例えば、製造業、サービス業、その他の業種の「人員不足による影響」のアンケートでは、「売上機会の逸失」「残業時間の増大」の回答が多い結果となった。

中小企業の多くは下請け企業であり、価格決定権を持っていないことが多い。そのため、人手不足になっても、従来通りの納期設定、工賃設定から脱することができないのだ。これまでよりリードタイムを長く設定し、工賃水準を上げれば解決できるはずだ。

産業別人手不足感が高い産業ワースト3は「医療、福祉」「建設業」「運輸業・郵便業」となっている。ここに共通しているのは、デジタル化だけでは解決できない労働集約的な現場の仕事ということだ。

本社勤務のマジメント中心の業務は、DX、AI等の進化により、合理化が進み、人が余る傾向にある。しかし、現場は人が足りない。

単純な需給バランスで考えれば、本社勤務のホワイトカラーの給与水準を下げ、現場のブルーカラーの給与水準を上げるべきだ。そうすれば、余剰なホワイトカラーから、人手不足のブルーカラーへと人材が流動することも可能だろう。

もう一つは、学歴主義から脱して、実績主義を導入することである。それにより、高学歴なだけの既得権者にも競争が生れる。それにより、人材の流動化は更に加速するに違いない。

3.外国人労働者には課題も多い

ここで考えなければいけないのが、外国人労働者の問題だ。人手不足の現場では外国人労働者のニーズが高い。なぜ、日本人ではなく外国人か。日本人の給料は高く、外国人の給料は安くて済むと考えているからだ。

しかし、外国人労働者といっても、基本的に日本人と最低賃金は変わらない。そして、生活支援や教育にもコストが掛かる。単純な日雇い労働者ではないのだ。

外国人労働者といっても、一生懸命働くとは限らない。権利の主張が強い人もいるし、さっさと仕事をやめ、生活保護に依存する人も出てくるだろう。つまり、米国やEU諸国が抱える移民問題と同様の社会問題が生じる可能性が高いのだ。

先進国の中で、日本の賃金水準は高いとはいえない。しかも、円安が続けば、現地への仕送りは目減りしてしまう。日本人の若者もオーストラリアの高賃金に惹かれて出稼ぎにいく人もいるくらいだ。外国人労働者の立場に立てば、果たして日本を選ぶだろうか。

政治的な問題もある。日本の縫製業は、中国人研修生に依存していたが、コロナ禍により全く来なくなった。国内でも外国人研修生制度は奴隷制度だという声が上がり、法的な規制も強まっている。結果的に中国人研修生が来なくなって経営が行き詰まった縫製工場も少なくない。

現在、コンビニ、スーパー、専門店、飲食店等では、猛烈な勢いでセルフレジ、タブレットによる発注システムが普及している。人手不足の状態が続いたことで、ようやくデジタル投資が進んできたのだ。もし、外国人労働者に依存すれば、デジタル投資は進まなかっただろう。そう考えると、安易な外国人労働者依存は日本の体質を弱くし、リスクを高めるともいえる。

4.既存ビジネスの見直しの時期

ついつい、我々は既存ビジネスが正しいものと考えてしまう。組織も業務フローも既存のものが正しく、それを守ることが安定につながると考える。しかし、本当にそうなのか。

そもそも、黒字リストラで会社から追われる人材は、その会社にとって不要であると判断された存在だ。こんなことは、世界では日常茶飯事であり、珍しいことではない。むしろ、必要のない人材まで長く雇用してきた日本企業が珍しい存在なのだ。

人手不足問題も十分な賃金が支払えない仕事に人が来ないのは当然である。下請けは仕事さえあれば安定したビジネスモデルだ。しかし現在は、元請け、下請けを含めたサプライチェーン全体の競争が起きている。

更にいえば、限られた人的資源とビジネス資源を産業間で奪い合っていると見ることもできるだろう。利益の上がらない産業は淘汰されるのだ。

そう考えると、既存ビジネスが行き詰まるということは、事業撤退、事業転換の時期に来ているということでもある。企業は変わらなければならないのだ。

それをいち早く感じた企業が黒字リストラという手段を採用したのだろう。逆に、外国人労働者に依存しなければ生きていけないということは、日本という立地には適していないビジネスモデルであるということだ。

編集後記「締めの都々逸」

「人が減っても 大事なことは 工夫と努力で やるだけよ」

少し前に、AIが人間の仕事を奪うのではないか、と話題になりました。実際、リストラが起きています。ですから、人手不足というのは嘘だと思います。低賃金の仕事を維持しているだけです。人手不足になれば、賃金が上がるのは当たり前。そして、デジタル化で解決しようという動きも出てきます。

安易に外国人労働者を受けいれ、低賃金の仕事を維持することは、日本人の雇用の機会を奪い、デジタル化も遅れます。何よりも、欧米のような移民問題が起きるかもしれませ
ん。

そもそもビジネスや仕事は時代と共に変化するものです。変化を嫌い、既得権を維持することはイノベーションの機会も奪ってしまうと思います。(坂口昌章)

image by: Shutterstock.com

MAG2 NEWS