9月27日、非業の死から2カ月以上を経て行われた安倍元首相の国葬。その挙行にあたっては多くの国民から反対の声が上がりましたが、何がこのような状況を招いたのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、安倍氏が我々に残した負の遺産を列挙するとともに、それぞれについて詳しく検証。その上で、「安倍政治の特徴の1つ」を国葬への反対意見が多い大きな理由として指摘しています。

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安倍政治の悪き遺産の数々が折り重なって衰退が深まる/これではまるで「日本国の葬儀」ではないか?

考えてみると、いまこの国で起きている禍々しいことのほぼ全ては、安倍晋三元首相がその計8年8カ月の執政を通じて培い、貪り、最後は無責任にも放置したままにしたいくつもの「負の遺産」と深く関わっている。そのうちの5つか6つを取り上げて粗描するが、そのどれもが何らキッパリと決着をつけられないまま日本国にのしかかっているのでは、もはや沈没しかあり得ない。27日に行われるのが「日本国の葬儀」にならないよう祈るばかりである。

1.統一教会汚染

目下の最大焦点となっている旧統一教会の自民党に対する浸透工作の泥沼的実態を作り出した張本人は、岸信介から安倍までの岸・安倍家3代であり、その意味では安倍があのような非業の死を遂げたのはまさに因果応報と言うほかない。その核心部分の解明は点検対象から外し、そればかりか国の名において早々に葬って蓋をしてしまおうというのでは、国民の反感を買って当然である。

本誌が繰り返し強調してきたことだが、これは一部の寝呆けた論者が言うような「宗教と政治の関わり方」とか「信教の自由」とかに関わる「微妙な問題」などではあり得ず、また霊感商法で深刻な被害を出している「反社会的団体」の問題にも止まらない。統一教会は、言うまでもなく韓国発祥で、1960年代には朴正煕政権=金鐘泌KCIA初代長官の手先として「対米・対日政治工作」に従事した政治謀略機関であり(米下院フレーザー委員会の1978年報告書)、しかも宗教的な教義の中に日本は悪魔の国であり戦前には韓国を支配し搾取したのだからどんな手段を弄して日本人から金を搾り取っても構わないことを明記している極端な「反日組織」である。

その反日政治謀略工作機関が自民党を中心とした日本の政界に深々と浸透するのを幇助したのが、戦後の2人の首相を含む岸・安倍家3代であるというのは、ちょっと今までに類を見ないスキャンダルで、簡単に蓋をして知らんぷりを決めこむことなど出来はしない。今後もますます野党、市民運動、週刊誌などメディアの発掘的調査が続き、とりわけ来春の統一地方選に向けて地方議員に対する浸透工作の実情が暴かれていくと、その地方選の臨む約1万人の自民系議員が軒並み落選し、それだけで岸田文雄首相が(まだ政権が続いていればだが)総辞職を迫られることにもなりかねない。

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2.東京五輪汚職

それに続く憂鬱は東京五輪汚職で、その主役である高橋治之=元東京五輪組織委員会理事と彼の弟でかつて世界を股にかけた不動産バブル紳士として名を馳せた故高橋治則=EIE社長とは、西崎伸彦「高橋治之・治則『バブル兄弟』の虚栄」(文藝春秋22年10月号)によれば、安倍晋太郎と特別に親しい関係にあり、秘書の晋三のことも〔特に治則は〕その頃から「可愛がって……『経済のことを何も知らないからな』と言っていろいろと教えてあげて」いたという。その高橋兄弟との長い付き合いから、やがて安倍は治之の操り人形となって、2013年9月のIOC総会で「フクシマはアンダー・コントロール」と全世界に向かって大嘘つき演説を行なって五輪誘致の推進役となり、これを取り仕切る最高責任者に自分のボスの森喜朗=元首相を据えた。

彼が16年8月のリオデジャネイロ五輪閉会式で、スーパーマリオが地球の裏側からやってきたという幼稚極まりない電通仕切りの脚本に乗ってバカな役目を演じたことは、多くの人々にとって今も国辱モノとして記憶されていることだろう。

東京五輪誘致が金塗れであることは、すでにさんざん報道されてきたことで、私の手元に残る資料を1つだけ挙げれば、2020年3月31日付の「東京五輪招致で組織委理事に約9億円/汚職疑惑の人物にロビー活動も」と題したロイター記事で、そこには次のような要点が含まれていた。

▼ロイターが入手した東京五輪招致委員会の銀行口座の取引明細証明書には、招致活動の推進やそのための協力依頼に費やした資金の取引が3,000件以上記載されていた。その中で最も多額の資金を受け取っていたのは、電通の元専務で現在は東京五輪組織委員会理事を務める高橋治之で、口座記録によると彼にはおよそ8.9億円が払われていた。

▼高橋は、世界陸連(IAAF)元会長でIOC委員だったラミン・ディアクを含む委員に対し、東京五輪招致のためにロビー活動などをしていたと語った。ディアクは、五輪の開催地選定に影響力を持つ実力者だった。彼は16年のリオ五輪の招致で票を集める見返りに200万ドルの賄賂を受け取ったなどとして、現在もフランス検察当局の調べを受けている。

▼仏検察は、ディアク父子を東京五輪の招致をめぐる疑惑でも収賄側として捜査している。この事件で贈賄側として同検察が調べているのは、JOCの竹田恒和前会長(招致委理事長)で、シンガポールのコンサルタントを通じディアク父子に約2.3億円を支払って東京への招致を勝ち取ったとの疑いがかかっている。竹田はJOCとIOCの役職を昨年辞任、疑惑については明確に否定しており、支払った金額は正当な招致活動の費用であったと主張している。

▼ロイターの取材により、招致委員会は森喜朗元首相が代表理事・会長を務める非営利団体「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」にも約1億4,500万円を支払っていることも明らかになった……。

こうしたことは、すでに2年前までに繰り返し報道されてきたことだが、実際にコロナ禍の下で開催が強行され、それはそれでそれなりの高揚をもたらす中で、ほとんどの人々は忘れ去ろうとしていた。しかし検察はこれほどまでにネタがポロポロと溢れ出てくるような美味しい案件を忘れてはおらず、安倍という重石が取れたと見るや直ちに事件として着手したのである。したがって、これが今後、高橋個人が複数のスポンサー企業から賄賂を掻き集めていたというみみっちい話で終わるのか、それともロイター記事が暗示しているように、森元首相を巨魁とする政官財界腐食やIOCの度を越した金権体質の切開にまで進むのかは予断は許さないが、いずれにしてもこれまた国民に否応なく押し付けられた安倍の負の遺産なのである。

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3.原発再稼働の暴走

上述の安倍の「アンダー・コントロール」という大嘘つきとも関連して、安倍から岸田へと受け渡されようとしているのは、原発再稼働である。

安倍のこの大嘘は、世界向けだけではなく国内向けでもあった。というのも、13年9月のこの時期、福島第一原発の現場では高濃度の放射性汚染水をいくら汲み上げても後から後から増え続け、それを急造のタンクに溜め込んでもそこからまた漏れ出していたことが判明するなど、汚染水の無間地獄と言える有様となっていた。その根本原因は、山側からこの原発敷地に1日当たり1,000トンの地下水が流入し、そのうち400トンが原発建屋に向かってくることにあるので、専門家からは敷地の外の山側全体を巨大なダムを作って言わば「元栓から止める」という方策が前々から提唱されていて、私もそれを図入りで解説したりした(小出裕章との共著『アウト・オブ・コントロール』=花伝社、14年刊)。ところがそれは余りにコストがかかりすぎるということで、政府=東電が考え出したのは原発建屋の周りの地下に「凍土壁」を作るという技術的にもかなり怪しい案で、俄仕立ての弥縫策と批判されていた。その状況での安倍演説だったのである。

これを裏で操っていたのは、経産省原子力マフィアから官邸入りした安倍の超側近の今井尚哉総理秘書官で、彼の狙いは五輪招致を利用してフクシマはもう終わったかの印象を国内的にも作り出して拒否反応を取り除き、一日も早く原発再稼働に漕ぎ着けて東京電力の経営を救済することにあった。とはいえ、その安倍政権も次の菅義偉政権も明確な原発推進策を打ち出せずにきて、それはなぜかというと3・11当事者である菅直人政権以来のへっぴり腰の「脱原発宣言」――すなわち「将来的には原子力に依存しない社会を目指して可能な限り依存度を低減する」という政府方針に縛られて来たからである。

この政府方針の下では、(1)原発の新増設は困難であり、(2)寿命が来たものは更新することなく廃炉とし、(3)再稼働も出来るだけ避けるようにしなければならない。これに最初の修正を加えたのは、自民党のトロイの馬だった野田佳彦政権で、上記(2)の「寿命」を「40年」と明記する一方、1回に限り20年延長して構わないとする「原子炉等規制法」改正案を出し、それが第2次安倍政権下の13年7月になって成立した。

ところが岸田政権になると、多くの国民は気が付いていないかもしれないが、まず6月の「骨太の方針」の中で、上記の(1)(2)(3)の意味合いを含んだ「可能な限り依存度を低減する」という文言そのものを廃棄し「原子力を最大限活用する」という表現に置き換えた。それが通ったとなると早速、岸田は7月の参院選後の会見で「今冬は電力需給の逼迫が予想されるので、最大9基の原発を稼働するよう経産相に指示した」と語った。この裏には、今では原発メーカー=三菱重工業の顧問に収まっている今井尚哉の暗躍があると言われている。

こうして、3・11後にもかかわらず原発文化を必ず復興させるという原子力マフィアの見果てぬ夢は、安倍から岸田に託されようとしている。

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4.大軍拡路線への突進

安倍政治を突き動かしていた基本的な原動力は「お祖父ちゃんコンプレックス」で、その中心的な中身としては岸信介元首相が熱望してもなし得なかった日米同盟の「対等化」、すなわち米国と共に中国や北朝鮮と戦争することを可能にする第一歩としての2015年安保法制強行、米国製最新兵器の爆買い、そうやって派手に振る舞うにはどうしても必要な自衛隊の「国軍」としての自立化のための「改憲」――に他ならなかった。

しかしこの設定そのものが矛盾に満ちていて、こんなことをいくら重ねても、初期の安倍が言っていた「美しい国」とはならない。堂々たる国軍が公然と領土・領海の外に出て戦争ができるようになるのを夢見るのはいいが、それはあくまで米国の戦争を補助する属国の立場に限定することでしか実現できず、またその立場を認めて貰うためにも米国製のバカ高い兵器を目を瞑って爆買いして媚びを売らなければならない。

このどうにもならない不恰好の根源は、戦前の国粋的民族主義者であり大東亜共栄圏主義者であった岸が巣鴨プリズン内で恥も何も投げ捨てて反共親米主義者に転向し、それをよしとして米CIAから秘密資金を与えられて「自民党」創設に走ったというところに発している。そのため、安倍が「お祖父ちゃんが果たせなかったことを僕がやるんだ」と意気がってみたところで、愛国と親米の股裂的矛盾は解消されず、むしろ広がって行ってしまうのである。

岸田がこの自民党にとって根源的な股裂的矛盾をどう受け止めているのかは分からない。が、たぶんそこは余り深く考えないようにして、安倍路線に従って年末までの「安保3文書」すなわち国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の改定を進めて「中国と戦争できる国」作りとそれに相応しい防衛費の大幅増額に突き進むのだろう。原発問題と同様、ここでも安倍路線の無批判な継承というにとどまらず実体化への踏み込みを見ることになろう。

岸田は安倍の遺言に従って、23年度からの5年間の次の中期防衛力整備計画に、現行(19〜22年度)の27兆4,700億円の約1.5倍に当たる40兆円超を注ぐことを検討しており、これを沖縄タイムス9月25日付が掲げた「増額ペース」のイメージ図で見ると驚くほどの急上昇カーブとなる(写真)。

このように日本が大軍拡の泥沼に嵌り込もうとしているのは、結局、米国発の「ロシアだけじゃない、中国も怖いぞ」「台湾有事は近い」といった情報操作に何の疑問を抱くこともなく振り回されてしまう知的レベルの低さにある。例えばの話、米インド太平洋軍デービッドソン司令官が昨年3月9日に米上院軍事委員会で証言した「6年以内〔つまり2027年までに〕中国が台湾に侵攻する」という見通しは、軍事のプロフェッショナルから見れば、この証言全体が「取るに足らない内容で、まして『6年以内』と言うのはこの大将の『個人の勘』のようなものでまるで根拠がない」と一笑に付される程度のものである(軍事ライターの文谷数重:本誌No.1164参照)。ところが、岩田明子の「安倍晋三秘録」(文藝春秋10月号)によれば、同証言が大々的に報じられた1週間後に安倍が自宅に麻生太郎を招いて酒を酌み交わした際には「台湾海峡の有事は5年以内に起こるのではないか」と話し合っている。それ以上に詳しい中身は書かれていないが、日本のトップが米軍人のプロパガンダ発言を何の吟味もすることなく既定の事実であるかに素直に受け入れている雰囲気が感じられる。トップがそれほどまでにナイーブであれば、下がそうなるのは当たり前で、佐藤正久が著書で、あたかもそれが自分の説であるかに自慢げに「台湾有事は日本有事で、早ければズバリ2027年というのが私の“読み”」と書くという恥知らずを演ずることにもなる(本誌No.1173参照)。

【関連】現実的にはあり得ない。日米の「台湾有事論」が根本的に誤っている理由
【関連】「早ければ2027年」台湾有事で国民脅す“ヒゲの隊長”佐藤正久議員の半狂乱

総理と副総理がそうで、その下の“ヒゲの隊長”=党外交部長もそうなら間違いないということで、メディアも自分でデービッドソン証言を検証することはせず、それに乗っかって行くので、「27年台湾有事」説はどんどん独り歩きし、あちこちで常識であるかに言及され、人々の頭に刷り込まれていく。そういうことが何百件でも起きているのに、人々はもちろん安倍や岸田も気がつかないうちに米国の心理操作に絡め取られ、結局は上記のような莫大な金を米国製兵器購入に注ぐことになるのである。

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5.アベノミクスの呪縛

アベノミクスも、鳴り物入りのお祭り騒ぎと共に始まったものの、10年を経て何らまともな総括も行われず、黒田東彦日銀総裁初め誰も責任を厳しく問われることなく、円安不況だけを残して裏の倉庫に放り込まれようとしている。

アベノミクスが始まった2013年に日本の名目GDPはドルベースで5兆2,107億ドルだったが、2020年には5兆397億ドルで、端的な話、これがあのバカ騒ぎの結末である。円ベースでは508.7兆円から537.2兆円と微増しているが、ドルで見ないと世界GDPに占めるシェアが6.7%から5.9%へとズルズル後退しつつある姿が見えない。

どうしてこんなことになったのかと言えば、第1に、状況認識と目標設定が完全に見当が狂っていた。日本が陥っているのは「デフレ」、ということは景気循環の中でモノの量が多いのに対しカネの量が少ないという現象が起きているのだから、日銀総裁の首をすげ替えてでも「異次元金融緩和」に踏み切り、カネをジャブジャブにすれば景気は良くなり、再び成長軌道に乗せることが出来ると考えた。しかしすでに2010年に藻谷浩介が『デフレの正体』(角川新書)で正しく指摘していたように、日本は世界に先駆けて「人口減少社会」に突入していて、モノの需要そのものが減少していくという構造問題に直面しているのだから、いくらカネを増やしても誰も要らないモノは買わない。それでもカネを増やしてインフレ気味に誘導すればインフレ期待〔という一種の勘違い〕で人々は消費に向かうのではないかと言われたが、私はそんなものは「ブードゥー(おまじない)経済学」で、人々を騙してまで「まだ成長が可能だ」と錯覚させようとしても無理だと、アベノミクスが始まる前から批判していた。

第2に、そのカネをジャブジャブにする方法論を丸っきり間違えていた。日銀がマネタリーベースを増やせばたちまち世の中にカネが溢れると思ったのが大間違いで、実際には、日銀はヘリコプターでお札を空中散布する訳にはいかないので市中の銀行が保有する国債を買い上げ、その代金を銀行が日銀内に置いている「日銀当座預金」口座に振り込む。その口座は無金利ないしマイナス金利なので銀行はそこからカネを引き出して投融資に回すはずだったのだが、何しろモノが余り需要がないのだから銀行も資金需要がない。主要な貸出先である大企業も、需要がないから設備投資をせず、また仮にしようと思っても分厚い内部留保があるので銀行に借りる必要がない。そうすると銀行は、日銀当座預金からいっ時カネを引き出してもそれでまた国債を買って日銀に買い取られるのを待つだけなので、結局、いくらマネタリーベースを増やしても日銀構内で糞詰まりを起こしてしまう。下表が本誌がしばしば用いてきたその一覧図である。

         2013年3月 2022年9月 増加分

マネタリーベース 134.7兆円 644.0兆円 +509.3( 4.8倍)
日銀当座預金残高  47.4    540.7   +493.3(11.4倍)
日銀国債保有残高  58.1    543.1   +485.0( 9.4倍)
企業内部留保   304.5   516.8   +212.3( 1.7倍)

マネタリーベースは500兆円以上も増えたのに、その分のほぼそっくりに当たる493兆円が日銀当座預金となって残って構内から出て行かない。日銀の国債保有高は9倍以上にも増えて国債全体の50%超を日銀が抱え込んでいる形である。

ここまで遡って原理的なところからアベノミクスの誤りを正さない限り、「新しい資本主義」も何もあったものではないが、安倍は知らんぷりのままいなくなり、岸田は何も深い考えがないままその誤りの呪縛の下で足掻くばかりである。

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6.国葬が国民を分断する?

安倍政治の特徴の1つは「ヘイト(憎しみ)」だった。政治は本来、味方を増やし敵を少なくする「フラタナティ(友愛)」が仕事で、そうでなければ目先の政策目標なり遠い理想なりを実現することはできない。それが上手に出来る人と出来ない人がいるのは当然で、例えば小沢一郎は偉大な政治家だとは思うがこれが上手にできなくて、一波乱を乗り越えるごとに身辺から人が少なくなっていき最後は独りになってしまった。彼の場合はフラタナティが足りないためにそうなるのだけれども、安倍は珍しいことに政治手法として積極的に黒か白か、敵か味方かのヘイトの凶刃を振り回した。

17年7月の都議選最終日、秋葉原駅前での講演演説で「安倍帰れ」コールを繰返す一団に対して彼が口走った「こんな人たちに負けるわけにはいかない」という科白がその典型だろう。どんな異論を持つにせよ国民=選挙民の一部を「こんな人たち」と侮蔑的に呼び、その人たちを説得して味方に引きつけようとするのでなくそこに一線をひいて敵に追いやる所業で、こんな政治家、ましてや総理大臣は余り見たことがない。案の定、翌日の都議選では自民は過去最低の38議席を大きく下回る23議席という歴史的惨敗を喫し、これを報じた当時の朝日新聞は「異論に不寛容で、批判を敵視する姿勢は安倍政権の特徴の一つ」と書いた。

自民党内では一強多弱と言われた独断専行、政府の運営でも官邸独裁で省庁官僚たちを自由に操れる忖度亡者に追い込んで自殺者を出すほどのやりたい放題。だから自分の葬式も「国葬」の賛否を巡って国民が大きく分断され、しかも国葬反対がはるかに多く賛成が少ないという惨めな形となったのである。ヘイトの政治はもうこれっきりにしてもらいたいものである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年9月26日号より一部抜粋・文中敬称略。全文はメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』を購読するとお読みいただけます)

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