首相公邸での「忘年会悪ノリ写真」流出当初は処分に否定的だったものの、世論の厳しい反発に抗いきれず、首相秘書官を務める長男・翔太郎氏の更迭に踏み切った岸田首相。その問題の本質はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』では伊東さんが、一連の騒動の経緯を振り返るとともに、海外で起きた同様の問題を紹介。その上で、翔太郎氏の行動に対する各メディアの甘さを批判しています。
「親の顔が見てみたい」岸田首相“息子テロ”更迭。そもそも首相公邸とは何か?同じ問題は海外でも5月29日、岸田文雄首相は長男で政務担当の首相秘書官でもあった翔太郎氏(32)を、6月1日付で交代させると発表した。事実上の更迭である。
翔太郎氏は、昨年末に首相公邸で親族らと忘年会を開くなどした問題が、与野党から批判を浴びていた。後任には、昨年10月に翔太郎氏と交代した山本高義氏(51)を充てる。
岸田首相は記者団に対し、
「公邸での昨年の行動が政務秘書官として不適切で、けじめをつけるため交代させる」(*1)
と説明。自身の任命責任においては、
「私自身にあり、重く受け止めている」(*2)
と強調。さらに、
「先送りできない課題一つ一つに答えを出すことにまい進することで、職責を果たしたい」(*3)
とも語った。
翔太郎氏をめぐっては、昨年10月の政務担当の首相秘書官として起用された際も、野党を中心に批判が相次いだ。今年1月に首相のヨーロッパ訪問に同行した時には、公用車で観光するなどの疑惑が報じられた。
目次
問題の概要 首相公邸とは 海外の場合 イギリス、フィンランド、アメリカ 問題の概要週刊文春は、翔太郎氏が昨年12月30日、首相公邸で10人以上の親族と忘年会を開いた際に撮影された写真を複数枚、掲載。
掲載されていたものは、内閣改造の時に新閣僚の写真撮影で使われる階段で翔太郎氏を最前列に、同じように整列して撮影したものや、親戚とみられる男女が外国の賓客に接遇で使うホールで記者会見のポーズをとっていたもの。
橋本龍太郎首相の政務秘書官を務めた立憲民主党の江田憲司衆院議員は、東京新聞の取材に対し、岸田首相が歴代の首相と異り、経済産業事務次官経験者の嶋田隆氏に加えて、翔太郎氏も政務秘書官に据えている時点で、
「二人というのは異例中に異例で、長男は仕事がないのでは」(*4)
と指摘。一時、続投を判断させた首相の判断については、
「明らかに後継含みの箔付けとして政務秘書官に登用しており、更迭すれば傷がつくのでできないのだろう。いずれ世論が忘れると高をくくっているのでは」(*5)
との見方を示していた。自民党の閣僚経験者は今回の事態に対し、
「意識が低いとしかいえない。選挙のつらさを知っていたら、こういうことはしない」(*6)
と語っていたものの、結局は辞任に追い込まれる。
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首相公邸とは首相公邸は、100年近く前に建てられた旧官邸を曳家(解体せずに、そのまま移動させること)し、2005年より首相の住宅として使われている。施設の目的は、
「職務の能率的な遂行を確保し、国の事業の円滑な運営に資する」(政府答弁書)(*7)
ことで、第二次以降の安倍晋三氏、菅義偉前首相を除き、基本的に歴代の首相が使用してきた。一昨年就任した岸田首相は、9年ぶりに入居した。
今回の事件について、小泉純一郎の政務秘書官を務めた飯島勲氏は、東京新聞の取材に対し、
「官邸とは違い、公邸を私的に使うことは許されている。特段の公的使用はない年末だから、かまわないのでは」(*8)
と話す。そして、
「私自身も知り合いから頼まれ、(公邸にある)旧閣議室で写真を撮った。安部首相も公的、私的を問わず撮影していたはず」(*9)
とする。
他方、前出の江田氏は、
「公邸は危機管理のための公舎。大災害や北朝鮮のミサイル発車時に、徒歩圏内で官邸に駆けつけられるよう多額の税金をかけてつくっている」(*10)
と指摘、翔太郎氏らの行為を「言語道断」とした。
海外の場合 イギリス、フィンランド、アメリカ海外でも、官邸や公邸で催されたパーティーは“公私混同”として批判されてきた。
イギリスでは、コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)の最中だった2020年5月から、当時のジョンソン首相がパーティーを繰り返し開いていたことが問題に。
官邸の庭に酒を持ち込み、首相やスタッフら数十人規模でパーティ─を行っていたことも発覚。結果、ジョンソン氏の首相辞任の引き金ともなる。
北欧のフィンランドでも、昨年7月、首相公邸の私的なパーティーに批判が集まる。参加した女性2人が、上半身をむき出しにした状態で、「フィンランド」と書かれたカードで胸を隠すなどした写真が流出(*11)。
当時のマリン首相は謝罪した。
アメリカでは、クリントン大統領(在任1993年〜2001年)が、ホワイトハウスのゲストルームに大口の献金者が宿泊し、物議を醸す(*12)。
そもそも最近では、アルバイトの職場で悪ふざけする動画をインターネット上で公開し、炎上を招く「バイトテロ」が物議を醸す中、首相官邸で悪ふざけする首相長男の“息子テロ”に、各メディアは甘いのではないのか。
“バイトテロ”は、結果、解雇や損害賠償請求が待つ運命なのだが、首相の“息子テロ”は、それ以上に悪質だ。全く、「親の顔がみたい」ものだ。
■引用・参考文献
(*1)「岸田首相、翔太郎秘書官更迭=公邸忘年会問題でけじめ」時事通信ニュース 2023年5月29日
(*2)時事通信ニュース 2023年5月29日
(*3)時事通信ニュース 2023年5月29日
(*4)大杉はるか・中山岳「こちら特報部 身内に甘すぎ 日本政界の闇」東京新聞 2023年5月27日付朝刊 22項
(*5)大杉はるか・中山岳 2023年5月27日
(*6)大杉はるか・中山岳 2023年5月27日
(*7)大杉はるか・中山岳 2023年5月27日
(*8)大杉はるか・中山岳 2023年5月27日
(*9)大杉はるか・中山岳 2023年5月27日
(*10)大杉はるか・中山岳 2023年5月27日
(*11)大杉はるか・中山岳 2023年5月27日 23項
(*12)大杉はるか・中山岳 2023年5月27日 23項
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2023年6月3日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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