ついに安倍派5人衆にまで及んだ、パー券裏金疑惑を巡る東京地検特捜部の捜査の手。その内の一人で参院の仕切り役である世耕弘成氏が窮地に立たされているようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、捜査中に浮上した新疑惑と世耕氏との関わりを解説。さらに総理の座を狙う世耕氏の前に立ちはだかる「難敵」の存在を紹介しています。

参院だけの特別ルールか。パー券問題で世耕弘成に浮上した新疑惑

今年10月25日の参院本会議で、世耕弘成氏は得意満面の一人舞台を演じた。

「私が考えるリーダー像は、決断し、その内容をわかりやすい言葉で伝えて、結果について責任を取るという姿です」。岸田首相に自説を滔々と語り聞かせる姿は、あたかも自分こそが総理にふさわしいと言わんばかりだった。

【関連】国会質問の「増税メガネ批判」を翌日に謝罪。単なる“腰砕けメガネ”世耕弘成の大誤算

それからわずか2か月。まさか自分が、岸田首相の意向を受けて自民党の参議院幹事長を辞し、東京地検特捜部から事情聴取される身になるとは思ってもみなかったことだろう。

政治資金パーティーをめぐる裏金疑惑。安倍派全体では直近5年間で5億円を超える収支報告書への不記載があり、うち世耕氏も1,000万円以上のキックバックを派閥から受け取っていながら、報告書に記載しなかったと報じられている。

報道によると、特捜部がこれまでに任意で事情聴取した国会議員は、安倍派の事務総長経験者である松野博一前官房長官、現在の事務総長、高木毅前国対委員長、座長の塩谷立・元文部科学相、萩生田光一前政調会長、それに世耕弘成前参院幹事長の5人だ。

世耕弘成氏にとっては、おそらく政治家になって初めての挫折であろう。近畿大学の理事長でもある世耕氏には、教育者としての道徳的役割もある。「いつかは説明責任を果たす」と言う“逃げ口上”には、保身だけあって高潔さはみじんも感じられない。

これに大学の教職員組合が声をあげた。「学校法人理事長の対応としても不適切で、本学の社会的評価の低下を招く」と理事長辞任などを求める団体交渉要求書を大学側に提出したのである。当然であろう。

特捜部が安倍派幹部から事情を聴くのは、会計責任者に不記載を指示したり、報告を受けて了承したりしたことがないかを追及するのが主な目的だ。あれば、当然、政治資金規正法違反事件の共謀ということになって、立件されるだろう。

世耕氏は安倍派事務総長をつとめた経験があるわけではないが、キーマンの一人と見なされている。そのワケは、安倍派の松本淳一郎事務局長との関係にある。2018年、松本氏を当時の細田博之会長に紹介し、事務局長に就けたのは世耕氏だった。

松本氏は世耕氏と同じNTT出身だ。2011年に定年退職したあと、日本最大の右派・保守系団体「日本会議」の杉並支部長などをつとめていた。日本会議国会議員懇談会のメンバーである世耕氏が活動を通じて知り合ったのか、NTT時代からの知り合いなのかはわからない。

これまで特捜部は安倍派の事務局職員や議員秘書らからホテルの一室などで事情を聞いてきた。そのなかで最も厳しい追及を受けてきたのは、いうまでもなく安倍派の会計責任者である松本事務局長だ。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

参院選の年に限り大きく落ち込んでいるパーティー収入

12月20日付朝日新聞朝刊の以下の記事からは、松本氏がかなり詳細に事実を述べていることがうかがえる。

会計責任者は一連の事実関係を認める供述をし、還流した裏金額を議員ごとに記載した調査リストも提出。時効が未成立の18〜22年の5年間で、総額は約5億円という巨額の規模感だった。

どうやら松本氏は、特捜部の求めに応じ、調査リストまで作成して、説明したようである。「収支報告書に記載しなければならないのはわかっていた」とも供述しているという。秘書あがりではなく、永田町の垢にまみれていない分、特捜が落としやすい相手だったのかもしれない。

世耕氏は安倍政権で経産相をつとめたあと、2019年から自民党参院幹事長として参院議員をたばねてきた。それだけに、気になることがある。安倍派の政治資金収支報告書をみると、参院選の行われた年に限ってパーティー収入が大きく落ち込んでいるのだ。直近5年では、2019年、22年のいずれもだ。

その原因として、パーティー券売り上げのうち、改選を迎えた参院議員が集めた全額を派閥の収入とせずに、そのままキックバックしていたからではないかと特捜部に疑われている。

だとすれば、参院だけに認められた特別なやり方であり、安倍派内の参院派閥ともいえる「清風会」会長にして松本事務局長と親しい世耕氏が、そのようになった経緯をまったく知らないとは考えにくい。

朝日新聞の記事(12月23日)によると、21年11月に派閥に復帰し新会長に就任した安倍元首相が、派閥パーティーを5月に控えた22年4月、キックバックのとりやめを提案。当時の事務総長、西村康稔氏らが協議していったん還流廃止の方針を決めたことがあった。つまり、少なくともこの時点で、安倍派幹部は問題意識を持っていたということだ。

ところが、その旨を各議員に通知したところ、すでに資金還流を前提にパーティー券の販売を進めていた現場の議員側から反発を食らって、廃止方針はとん挫した。

その後、安倍元首相が7月に銃撃事件で死亡し、事務総長は高木毅氏に交代、最終的に方針は撤回され、従来通り裏金としての還流が9月にかけて実施されたという。

西村氏が廃止方針を決め、高木氏が撤回したと読めるこの記事は、検察から朝日の記者にリークされた情報をもとにしたものだろうが、高木氏に著しく不利な内容である。しかし、高木氏にすべての責任をなすりつけようとする“悪だくみ”のニオイがしないでもない。だいいち、このようなことが就任したての事務総長の一存で決められるはずがないのだ。

その年の7月に改選を迎えた参院議員が、自分たちの選挙資金を得るために、パーティー券販売で集めた売上金の全額をそのままキックバックしてもらっていたとすれば、その首謀者はいったい誰なのか。その答えを得るために、特捜部が、参院側の責任者である世耕氏を重要な捜査対象としたのは当然のことだ。おそらく松本氏は、世耕氏とこの件についてどのような話をしたかについても、詳しく特捜に供述しているのではないだろうか。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

安倍派5人衆に対する捜査に「OK」を出した岸田首相

検察が政界の大物をターゲットにした捜査を行うとき、必ず総理大臣の了解を得るのが通例だ。検察に独立性があるとはいえ、行政機関の一つであるには違いない。安倍派の幹部“5人衆”に対する捜査の着手について、岸田首相が「OK」を出したからこそ、事情聴取が行われる前に、政権中枢から彼らを一掃したのであろう。

萩生田氏や西村氏に負けず劣らず、ポスト岸田レースに意欲を燃やしてきた世耕氏は、12月20日発売の月刊「Hanada」2月号のインタビューで、「いずれは国の舵取りをやってみたいなとは思っています。それだけの経験を積んできた自負もある」と語っている。

その夢を叶えるために、もくろんでいるのが、次の衆議院選挙への鞍替え出馬だ。参院議員で総理になった例はこれまでにないからだ。

だがその前途に二階俊博元幹事長という難敵が立ちはだかっている。改正公職選挙法により、「10増10減」の新区割りが適用され、次期衆議院選では和歌山の衆院小選挙区は3から2に減ることになっている。新2区は選挙区の大部分が二階氏の地盤であり、二階氏は次期衆院選に新2区から立候補するとの見方が強い。世耕氏も、衆院議員だった祖父の出身地・新宮市が含まれる新2区での出馬をめざしている。二階氏が自民党公認となる場合、世耕氏は無所属での出馬も辞さないかまえだ。

この二人が、裏金疑惑の渦中にあるのは何という因果だろう。世耕氏は今年4月に麻生太郎副総裁と会食し、10月の参院徳島・高知選挙区の補欠選挙では、麻生氏と二人そろって現地入りするなど、キングメーカーにすり寄るかのような動きをしていたが、裏金問題が発覚し、苦しい立場に追い込まれている。二階派も派閥の収支報告書に記載しなかった裏金が直近5年間で1億円を超えるとみられ、事務総長の武田良太・元総務大臣や会長である二階氏もいずれ事情聴取される可能性が高い。

安倍派、二階派が狙い撃ちされ、背景に派閥の権力闘争のニオイも漂うなか、政治情勢はますます混迷の度合いを深めている。岸田首相は党の新組織を設置して議論を進めるというが、政治資金規正法の改正を明言したわけでもなく、本気で政治改革に取り組む気があるとは思えない。“不逮捕特権”が始まる来年1月の通常国会開会をにらみ、いつもの“打ち上げ花火”で時間を稼ぐだけなら、何もしないほうがましである。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: 世耕弘成 − Home | Facebook

MAG2 NEWS