尖閣諸島周辺の接続水域で確認された中国公船の数が過去最多の998隻に上ったと12月2日付けの毎日新聞が報じました。日中関係の改善が伝えられる中、なぜこのような動きがあるのでしょうか?メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんが中国政府の狙いをわかりやすく解説します。さらに小川さんは、毎日新聞の報道に「誤報」があると指摘し、海上保安庁に対する取材姿勢を問題視しています。

担当者の話を鵜呑みにした記事の見本

12月2日の毎日新聞の朝刊は次のような大見出しを掲げました。
中国公船、過去最多に 尖閣接続水域 既に998隻確認
いまにも中国が尖閣諸島を奪取しようとしているようではありませんか。事実なら、えらいことです。記事を読んでみましょう。

「沖縄県・尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で、海上保安庁によって確認された中国公船が今年1月1日から11月29日までに延べ998隻に上った。これまで年間で最も多かった2013年の延べ819隻を大幅に上回り、過去最多になった。日中関係は首脳の相互往来などを通じて改善基調にあるが、尖閣周辺では領海への侵入も頻発するなど緊張関係がむしろ高まっている。(中略)   近年は機関砲を搭載するなど武装化も目立つ。海上保安庁は尖閣専従の大型巡視船14隻相当による警備体制を取り、接続水域を航行する公船への警告や領海に侵入した場合の退去要求を続ける。政府は来春に予定している習近平国家主席の訪日時にも懸念を伝える構えだ」(12月2日付 毎日新聞)

省略した部分には、このところの中国公船の活動の増加ぶりが説明されています。

この記事を読んで、まず頭をよぎるのは「なぜ、この時期に?」という疑問です。来年春には習近平国家主席の訪日が決まっています。それも国賓としての日本訪問ですから、それを機会に日中両国の友好関係を深めようというのに、どうして、それに水を差すような中国公船の活発な活動なのでしょう。

理由は明らかです。国際政治を専門にしている人にとっては常識ですが、習近平国家主席が日本との友好的な関係を進めようとすれば、必ず中国国内で弱腰批判が沸き起こります。「日本に出かけていくとは何事か」という声も出るでしょう。経済格差の固定化などに対する中国国民の不満は、「愛国無罪」を掲げることで罪に問われにくい日本への弱腰批判として噴き出す傾向があります。

これに対して、決して弱腰ではないという姿勢を示し続けないと、政権の足もとを揺さぶられかねません。そうした批判を封じるために手っ取り早いのは、日本のマスコミが大騒ぎする尖閣諸島周辺での公船の活動を活発化させ、日本のマスコミ報道を通じて弱腰ではないことを示し続けることなのです。

しかし、この記事は誤報でもあります。「近年は機関砲を搭載するなど武装化も目立つ」の部分です。確かに、中国は新しい公船(巡視船)の建造を進めていますが、そこに搭載されている武器は海上保安庁と同水準の30ミリ機関砲が中心です。

しかも、尖閣諸島周辺で行動する中国公船は「非武装」に近い状態なのです。4隻編成の場合が多いのですが、武装しているのは1隻だけなのです。

これに対して、中国公船を規制するために出動している海上保安庁の巡視船の全てが、30ミリ機関砲、20ミリバルカン砲(6銃身)、12.7ミリガトリング砲(3銃身)といった国際水準の武器を搭載しているのです。どちらが重装備か、武装化が進んでいるか、子供でもわかる話です。

毎日新聞の記者の過ちは、海上保安庁の当局者の話を鵜呑みにし、中国の公船だけが武装を進めているかのような、偏った情報を垂れ流した点にあります。中国公船の武装化の話をするためには、少なくとも中国と日本の比較について担当者に質問しなければなりません。相対的な評価抜きにした記事は客観性を欠いており、誤報とするしかないのです。(小川和久)

image by:  Igor Grochev / Shutterstock.com

MAG2 NEWS