一触即発のように語られることが多い中台関係ですが、どうやらそれは杞憂に過ぎないようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、中台双方にその関係性を壊さなければならない理由が存在しないため、戦争が起こることはないと明言。さらに、それでも習近平政権が軍事力増強に走る理由を解説するとともに、日本が同盟国であるアメリカに対して果たすべき役割を提示しています。

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米バイデン政権は本当に中国と戦争をするつもりなのか?――ワシントンの外交専門家からも湧く警告の声

バイデン米大統領の対中国姿勢は、好意的な言い方をすれば「硬軟両様」だが、率直なところ、定義不明な言葉が整合性もとれないまま並べられていて、本当はどうしようとしているのかよく分からない。

国際情勢分析家のイアン・ブレマーによれば、バイデン政権の対中姿勢には3つの性向が混在していて……、

第1は、中国を「封じ込め」て「新冷戦」に突き進もうというもので、政権内の嫌中派や軍事的タカ派がこれを支持している。

第2は、米中対立の激化には得るものは何もなく、米中が「相互依存」しつつ中国を既存の多国間の枠組みに受け入れていくべきだとする考え方で、政権内の経済重視派や経済界主流はこの線である。

第3に、ジョン・ケリー特使がすでに実践しているように、気候変動を最大の脅威とする視点から米中協力を進める立場。

バイデン政権は「3つ全てを組み合わせたアプローチをとる可能性が高い」が、「南シナ海の軍事拠点化や香港・台湾の抑圧などを巡って対決姿勢を鮮明にしながら、温暖化の防止や新型コロナの封じ込めで手を握るような芸当ができるのか。……決定的な衝突に至るのを避け……中国と賢く競う道を米国は何とか探り当てるべきだ」と、ブレマーは提言している(3月18日付日本経済新聞電子版)。

トランプ政権から受け継いだ?台湾重視

もちろんバイデンは慎重に言葉を選んでいて、決して中国を「敵」とは呼ばず「唯一の競争相手」といった言い方をしている。彼が就任後初めて主催する首脳級会合となった3月12日の米日豪印=クアッドで「自由で開かれたインド太平洋」を強調しても、それを「中国包囲網」と露骨に言い募ることは避けている。

しかし、そこに「台湾」という要素が入ってくると、そうした慎重な言い回しが全く意味をなさなくなるほどの危険が生じる。

「台湾は中国の一部分であり、中華人民共和国政府が全中国を代表する唯一の合法的政府である」といういわゆる「1つの中国」論は、中国にとっては建国以来の国是(国家としてのアイデンティティ)の柱であり、1978年の中米国交正常化に当たって米国はそれを承認する一方、米国が以後も台湾との民間レベルの経済・文化交流を継続していくことを中国に認めさせた。そのため、米華相互防衛条約は失効し在台米軍は撤退するが、米国は同条約の趣旨を受け継ぐ国内法として「台湾関係法」を制定。事実上の軍事同盟の継続と言われた同法の下で、しかし歴代の米政権は、いざ中国と台湾の間に軍事的緊張が生じた場合に介入するかどうかについては言明しないという「戦略的曖昧さ」を維持してきた。

これらすべては、遡れば、蒋介石総統時代の台湾が「大陸反攻」に固執して繰り返し米国に支援を要請したのに手を焼いた米ケネディ政権が、1962年6月に北京と水面下で接触し、「中国は先制攻撃を受けない限り台湾への攻撃は行わない、その代わり米国は国民党政権の大陸反攻を支持しない」という密約を交わしたことに発している。

そのように、1960年代初めから始まっている中米の“大人の関係”を無神経に掻き乱したのがトランプ政権で、

▼19年8月のF-16戦闘機66機を台湾に売却するという、近来では例のない規模の武器提供

▼20年8月のアレックス・アザー厚生長官の訪台

▼20年11月にはポンペオ国務長官が「台湾は中国の一部ではない」と明言

▼20年12月には台湾への武器輸出と台湾の国際機関への参加を推進するための「台湾保証法」にトランプが署名

▼21年1月9日にはポンペオが米台間の公的接触を禁じた「米台関係に対する自主規制」マニュアルを全面的に解除すると発表

このようにして、前政権の退陣間際まで重ねられた置き土産としての台湾肩入れを、バイデンはそのまま引き継ぐのが得策と判断したのだろう、21年1月20日の自分の大統領就任式に、1978年以来初めて、台湾の駐米代表(事実上の大使)である蕭美琴を招待した。

「台湾」を絡ませることに日本が加担

その延長上に4月16日の日米首脳会談も位置付けられていたのだが、それをそうと分かって菅義偉首相がその場に臨んだのかどうかは定かでない。

このことを考える上で意味のあるエピソードは、4月3日から4日にかけて中国の空母「遼寧」を中心とする6隻の艦隊が沖縄本島と宮古島の間を通過したのを米第7艦隊のイージス駆逐艦「マスティン」が並走・監視した際に、中国空母を挟むように海上自衛隊の護衛艦が行動している写真が公開されたことである。

と言っても、これはそれほど緊張するような話ではない。そもそも沖縄本島と宮古島の間は公海だから通航は自由である(のに日本では時折「宮古島との間を突破して中国艦が…」と恐ろしげに報じられることが少なくない)が、その米艦は意図的か偶然かはともかくそこに居合わせて中国空母と並走し、その写真を船員のSNSで公開した。ところがそれは、米艦の艦長がデッキチェアのようなものに座って脚を投げ出して中国艦を眺めているというのんびりした光景で、しかしよく見ると遠くに自衛隊の護衛艦が写っていたということで話題になったのである。

このことは両義的で、一方では、米(日)vs中の軍事的な関係は一触即発というようなものではないということ、他方では、そうは言っても日本の海自はすでにここまで深く米艦隊の指揮下に組み込まれて対中国の作戦行動に従事しているということである。

それを踏まえて日米首脳会談の共同声明を見ると、まず真っ先に「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」と、日本の主体的な防衛努力が謳われているのが目立つ。以下、いろいろな課題が列挙されているが、その果てに台湾へのコミットメントがさりげなく出てきて、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とされている。

1つの含意は、2015年安保法制による集団的自衛権解禁を背景に、日本は敵基地攻撃能力を構想するなど自ら防衛力を強化し、すでに米軍と共に中国艦隊の進出に対して監視や牽制を実施しているけれども、いざ台湾有事となれば、米軍に対する後方支援というに止まらず、新設の水陸機動団の前線進出による米海兵隊との共同作戦などに踏み込むことを辞さないという方向性が浮き出ている。

もう1つの含意は、そうは言っても中国との全面対決は避けたいので、「台湾の平和と安定」とは言わずに「台湾海峡」と言い、その「両岸問題の平和的解決」と言うことによって、中台関係は中国の国内問題であるという北京の「1つの中国」論に辛うじて準じようとしているのである。

これに署名した菅首相は、翻って中国とは一体どういう関係を築こうとしているのか。それを思えば余りにもトリッキーな台湾との関係の論理構成である。

バイデン政権は「無謀」だとする米教授の警告

5月7日付NYタイムズに「バイデンの台湾政策は余りにも向こう見ずだ」と題したピーター・ベインナート=NY市立大学教授の論説が載った。タイトルの「余りにも向こう見ず」はtruely, deeply recklessで直訳すれば「本当に、深刻に無謀」。この表現に、バイデンが「1つの中国」というガラス細工のような虚構を破壊してしまえば「世界大戦の危険が増大しかねない」という同教授の切迫感が込められている。

▼米国と台湾が公的関係を築いて中国の平和的再統一への扉を狭めるほど、北京は武力による再統一へと突き進むだろう。2005年に中国は、もし台湾が独立を宣言したら戦争に訴えるとする法律を成立させた。そして近年は、「1つの中国」論から逸脱する米国の動きに対して、軍事力を誇示して反応することを繰り返している。中国が「核心的利益」と呼ぶ〔台湾の〕領土が失なわれそうになった場合に戦争を発動しないなどということはあり得ない。

▼台湾を中国の攻撃から守ろうとするなら、ワシントンは「戦略的曖昧さ」という公式の政策、すなわち中国の台湾攻撃に対しどう対応するかを明言しない政策に立ち戻るしかない。ところがバイデン政権は、米国の台湾に対する支持は「岩のように固い」と言い、台湾防衛への関わりをより一層公的なものにしようとしてきた。「1つの中国」合意から外れて北京を挑発しておきながら台湾への攻撃を抑止できると思うのは、余りに向こう見ずな考えである。

▼抑止には能力と意志が必要だが、台湾に関して米国はそのどちらも欠いている。〔コラムニストの〕ファリード・ザカリアによれば「ペンタゴンは台湾をめぐって中国と戦う18種類の戦争ゲームを試したが、すべて中国の勝利に終わった」という。

▼1つの理由は地理。台湾は中国本土から100マイルだが、ホノルルからは5,000マイルある。台湾から500マイルの範囲内に、中国は39の空軍基地を持つが、米国は2しかない〔沖縄・嘉手納とフィリピン・クラーク〕。また中国は、「空母キラー」と呼ばれる高性能対艦ミサイルを整備してきており、米空母はこれには脆弱である。

▼さらに、緒戦において米国の指揮管制システムが電子的に破壊されるのは確実だし、さらに悪いことに、在日及び在グアムの米軍基地には精密誘導及び巡航ミサイルが降り注ぐだろう。……この先に行き着くのは核戦争である……。

「1つの中国」という暗黙合意を破ることはこのようなリスクに踏み込むことであって、それをバイデンも菅も本当に分かった上で覚悟を決めてそうしているのかどうかということである。

アーミテージの意外にまともな情勢認識

そうした微妙な状況で、バイデンは4月にリチャード・アーミテージ、ジェームズ・スタインバーグ両元国務副長官らの非公式代表団を台北に送り込んだ。私はこのような行動には反対で、何もこの時期に北京の顔を逆撫でするようなことをしなくてもいいじゃないかと思っていたけれども、そのアーミテージが5月3日付「読売新聞」のインタビューに下記のように答えているのを見て少し安心した。

アーミテージは、ワシントンのジョージタウン大学戦略国際研究センタ(CSIS)を拠点とする対日安保政策マフィアのボスで、米国が今後も盟主を努めて日本を目下の同盟者として使いこなしていくという旧時代の日米同盟イデオロギーの体現者であって、私は全く信用していないが、台湾に関しては極めて淡々とした、ワシントンの外交政策プロらしい冷静な判断を示していた。

▼蔡英文総統は独立宣言するつもりはなく、する必要はないと思っている。「事実上の独立」を実現し、多くの台湾市民は台湾に独自の地位があると分かっている。

▼中国の最近の動きは新しいものではない。……嫌がらせは続けるだろうが、軍事行動には出ないと思う。

▼現時点では、バイデン政権が「戦略的曖昧さ」を変更すると思っていない。……中国が注意深く行動しなければ、「戦略的曖昧さ」は終わりを迎えるだろう。

▼(米軍幹部が3月に議会で「中国の台湾侵攻は6年以内に起きる」と述べたことについて)「6年」などの数字は、何かに基づいたものではなく、予測だ。中国が何らかの行動を起こす能力を高めていると言ったのであって、時期に大きな意味はないだろう。

▼日本は……中国をわざと挑発する必要はないが、台湾の国際的な地位の確保に手を差しのべることも必要だ。日本外務省の高官が台湾側と会談することなどが考えられる……。

アーミテージが言うように、台湾は、民進党政権と言えども「独立を宣言するつもりはなく、する必要はないと思っている」。なぜなら、圧倒的多数の台湾人は、現在すでに台湾は事実上の独立状態にあり、わざわざ名目的な「独立」を宣言して北京が武力を発動せざるを得なくなるよう仕向けることには百害あって一利もない。

もちろん、北京による妨害によってほとんどの国と外交関係を結べず(現在15カ国のみ)WHOなど国際機関に加入できないのは不便だが、経済交流は中国との間をはじめ旺盛に行われている。何より興味深いことに、台湾の輸出相手先の1位は中国=27.9%で、香港=12.2%と合わせれば40.1%となり、第2位の米国=14.0%を大きく引き離している(2019年)。台湾の直接投資の相手先のダントツ・トップも中国で、2010年には総額の何と83.8%を占めていたが、その後は減少、特にここ数年はトランプ政権の対中姿勢の影響でさらに低減したものの、それでも全投資額の37.9%が中国である(2019年)。それに伴って80万人もの台湾人ビジネスマンとその家族が中国に定住し、その子弟が通う繁体字教育の学校も各地に設けられている。

中国にとっても台湾は輸入相手先として韓国、日本に次ぐ第3位で、その約半分は電子部品や情報通信機器である。こうした関係をブチ壊さなければならない理由は、中台双方に存在しない。だから戦争は起こらないと見て差し支えない。

それにしては中国の軍拡は恐ろしいのでは?

では近年の目覚ましい中国の海空戦力の増強は一体何のためなのか。私に言わせればそれは、以上に述べてきたような「1つの中国」論という国家的アイデンティティに関わるタテマエを維持するための壮大なる軍事的浪費である。

台湾が一方的に独立宣言を発することは99.99%あり得ないが、その可能性が0.01%でもある限り、最終的に核を含む対米全面戦争をも覚悟して備えをしなければならない。ところが中国のいざという時の台湾侵攻作戦シナリオは、長い間、電撃的に航空優勢を確保した上で何十万の兵士が雲霞の如く渡洋・上陸を敢行するという毛沢東流の人民戦争方式による単純粗雑なものだった。これが時代錯誤の全く役立たずのシナリオであることを中国が思い知ったのは1995〜96年の「第3次台湾海峡危機」においてであった。

この時、台湾初の総統直接選挙で李登輝が勝利しそうになると、本省人の李が政権を確立すると「独立」に傾くのではないかと予想した江沢民の中国は、牽制のために台湾沖にミサイルを撃ち込むという愚行に出た。するとクリントンの米国は2つの空母機動艦隊を台湾周辺に急派、一気に緊張が高まった。

言うまでもなく空母は動く戦闘爆撃機発進基地であり、随伴するイージス巡洋艦・駆逐艦、攻撃型原潜は動くミサイル発射基地であって、当時は空母の1隻とて持たなかった中国は実は台湾に「手も足も出せない」状態であることを思い知らされた。つまり、口では「いざとなれば武力で統一」とか偉そうなことを言ってみたところで、それを裏付ける軍事力は何も持っていない。ということは、「1つの中国」の国是は絵に描いた餅、中国流の言い方をすれば「張子の虎」にすぎなかったのである。そこから、中国の嵐のような海空戦力の近代化計画が始まった。

まず第1は空母で、1998年にウクライナから未完成の船体を購入して“研究”に着手、2012年に訓練用として配備すると共に、初の国産空母「山東」の建造(19年就航)、さらに2〜4隻目の建造も進められていると言われる。これらは一重に、米第7艦隊に勝つことは望まないまでも、96年のような事態でせめて接近を拒否する抵抗線を張れるようになることを目指した建艦計画である。

第2は短・中距離ミサイルで、2015年9月に米ランド研究所が発表し、本誌も同年12月14日付のNo.815で概要を伝えたように、1996年には台湾と韓国に届くミサイルを数十発程度持っていただけだった中国は、2010年には台湾と韓国に届くDF-11および-15を数千発、日本とフィリピンの全土に届くDF-21およびDH-10を数百発、グアムのアンダーソン空軍基地に届くH-6およびIRBM(中距離弾道弾)を数十発を持つようになり、さらにその時点での予測では2017年には後2者がそれぞれ数百発から数千発に、数十発から数百発に、増強されると見込まれていた(写真 https://bit.ly/2QY6pk1 )。これらは、上記ベインナート教授が言う地対艦の「空母キラー」として、またその後ろに控える嘉手納はじめ在日、在比、在韓の米軍基地を叩き、サポート・増援・補給体制を破壊する重層的な地対地ミサイル網として用意されている。

第3は、こうなるとすでに中米は全面戦争状態に入りかねない訳で、最終的には核の勝負に持ち込まれることをも想定しなければならない。中国が米本土を狙える戦略核ミサイルは、現在は100発程度だが「今後5年間で200発まで増える」と予測されており(20年9月2日付朝日)、その中では特に秘匿行動性の高い潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の充実に力を入れているようで、中国の異様とも言える南シナ海へのこだわりはこのことに関連している。

中国の主要な原潜母港は海南島にあり、そこを発した艦は直ちに南シナ海の深みに沈潜し、そこから西太平洋の海底深くを自由に行動する。東シナ海は大陸棚で潜水艦の行動には向かないのでそうするしかない。かつて冷戦期には、ソ連の極東における原潜基地はウラジオストクで、そこから目の前のオホーツク海に潜って北太平洋に出たり、日本列島の両側を南下したりした。それと同様の意味を持つのが中国にとっての南シナ海であり、そうであるが故に米国は南シナ海での米艦の「自由航行」に偏執する。その意味合いは、

同海域を中国の自由な原潜発進基地にさせたくない 米艦船が自由に出入りして中国原潜の動向を探りスクリュー音の収集・分析作業を進めたい

というにある。

以上の第1〜第3は、96年危機に発した中国の「1つの中国」のタテマエを守るための(客観的に見れば)ほとんど無駄な努力として相互に連動しているのであり、それを表面的かつ部分的にだけ捉えて「日本のシーレーンが危ない」とか「尖閣を奪いに来るんじゃないか」などと勝手な推測をして怯えたり危機感を煽るのは頓珍漢で、肝心なことは、バイデン政権がどこまで深刻に問題を捉えているか不明のまま「1つの中国」論を弄んで徒らな挑発に踏み込むことがないよう忠告するのが、日本の本来の同盟国としての役割でなければならない。しかし菅はこの米国の「戦略的曖昧さ」を曖昧化させる危険なゲームに、大した自覚もなくオロオロと付き従っているだけである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年5月10日号より一部抜粋・文中敬称略)

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