10月10日、台湾が建国記念日とする「双十節」に合わせるように、軍による台湾上陸作戦を想定したと思しき訓練映像を公開した中国。日本国内でも各社が大きく報じましたが、専門家の目にこの軍事訓練はどのように映ったのでしょうか。今回の『NEWSを疑え!』ではメルマガを主宰する軍事アナリストの小川和久さんが、米海兵隊や我が国の陸自水陸機動団と比べれば、そのレベルは「セミ・プロ」の領域にも達していないと断言。さらに台湾の防空識別圏へ軍機を頻繁に侵入させる中国の意図を解説するとともに、彼らの動きに対する空騒ぎを控えつつ軍事的動向を注視すべきとの見解を記しています。

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中国軍の「台湾上陸訓練」は専門家が拍子抜けするレベルの小規模さ

前号で、台湾有事についての空騒ぎはやめるよう述べたばかりですが、中国が色々とやってくれるものですから、どうしてもニュースはおどろおどろしいものになります(笑)。

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台湾への上陸作戦を想定したとみられる中国軍の訓練の様子を捉えた映像が公開された。武装した兵士たちが高速艇で浜に近づくと、ドローンで爆弾が投下される。中国の人民解放軍による、台湾を想定したとみられる「上陸作戦」の映像だ。中国の習近平国家主席は9日、「祖国の完全統一の歴史的任務を必ず実現する」と表明し、最近では台湾の防空識別圏に多くの軍用機を進入させるなど、軍事的な圧力を強めている。10日は、台湾当局が建国の日とする「双十節」の祝日で、蔡英文総統が「台湾の人々が圧力に屈すると考えてはならない」と演説していた。
(10月11日のANNニュース)

公開された映像を見ると、専門家が拍子抜けするような小規模で、それも初歩的な上陸作戦の訓練の様子でした。米国の海兵隊や陸上自衛隊の水陸機動団と比べると、アマチュアとは言わないまでも、セミ・プロの領域にも達していないものでした。

いくら台湾に圧力を加えると言っても、これで効果があるのでしょうか。中国国民に映像を公開することによって、習近平体制が弱腰でないことを示す以外の意味は少ないと思われます。

ここで思い出されるのは、金門島と馬祖島への中国の姿勢です。

中国は1958年8月23日から10月5日にかけて、台湾領の金門島と馬祖島に猛烈な砲撃を加えました。わずか2.1キロの水道を挟んで、午後6時の砲撃開始から2時間で4万発、この日だけで5万7,000発の砲弾が撃ち込まれたのです。

中国の狙いは米国と台湾の間の米華相互防衛条約とアイゼンハワー・ドクトリンの適用範囲がどこまでなのかを確認するところにありました。適用範囲が台湾本島だけでなく金門・馬祖両島が含まれるとなれば、相手は米国になる訳で、うかつに手出しをする訳にはいきません。

それもあって、中国軍は米国の艦艇や航空機を攻撃せず、攻撃された場合も反撃しないことを交戦規則に定めて第一線部隊を統制し、慎重に行動していたのです。

この歴史的事実は尖閣諸島問題にとっても教訓となるものです。

不思議なことに、中国側は人海戦術で水道を押し渡り、金門、馬祖の両島を占領できる可能性があったのに、それを強行しませんでした。台湾側の反撃と周辺海域で大規模な海空軍と海兵隊の演習を見せつけた米国の前に中国の砲撃は下火になったのです。

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ところが、そこで引っ込まないのが中国らしいところです。そのあと1979年1月1日までの21年間、毎週月・水・金の3日間、決まった時間に砲撃を続けることになったのです。合計47万発と言われる砲弾も実弾ばかりでなく宣伝ビラを詰めたものが撃ち込まれました。

1979年、米中国交樹立によって21年間続いた砲撃は終わりましたが、このように中国のやり方は計算ずくで執拗なものなのです。

実を言えば、台湾の防空識別圏への中国機の侵入も南西側をかすめる形に限られています。台湾東海岸に回り込んでの攻撃能力を示したり、台湾海峡を通る米国艦船への牽制を試みたりしているという見方はできますが、中国が内外に軍事的プレゼンスを示す一方、台湾、すなわち米国との軍事的衝突は絶対に避けたいという姿勢の表れだということがわかります。

だからこそ、根負けしないように空騒ぎを避け、日米と台湾で防衛力整備を着実に進めて、取り付く島もないと中国に思わせるような取り組みを続けることが必要になってきます。

また、いくら中国に武力攻撃の兆候がないといっても油断は禁物です。砲撃が行われていた時代に比べると金門・馬祖両島の防備は手薄になっています。その隙に乗じて占領しようと思えば、公開された映像のレベルの部隊でも可能かも知れません。両島を奪取されれば、台湾国民が受ける精神的なダメージは計り知れないものとなり、独立への気運に暗雲が垂れ込めることになるかも知れません。

頃合いの案配、さじ加減が必要な中台の問題、金門・馬祖の歴史的な経緯に学びつつ、中国の軍事的動向を注視しなければならないと思います。(小川和久)

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