西側諸国が結束してロシアに科してきた厳しい制裁ですが、日本もその「返り血」を浴びる時が来たようです。今回の無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』では著者で国際情勢解説者の田中宇(たなか さかい)さんが、プーチン大統領が日本の重要なLNG供給源であるサハリンの天然ガスプラントから、日欧を締め出す大統領令に署名したというニュースを紹介するとともに、それにより日本が被る可能性のある悪影響について解説。さらに国民を困窮から守るためにはロシア敵視政策の見直しが何より必要であり、その端緒として安倍元首相とプーチン氏との会談を提案しています。

日米欧の負けが込むロシア敵視

日本へのガス供給の1割を占めるロシアのサハリン2の天然ガスの開発には、資金の22.5%を日本勢(2商社)が出してきた(他に欧シェルが27.5%。残りの50%は露ガスプロム)。だがプーチン露大統領は6月30日、サハリン2を完全国有化して日欧を締め出す方向の大統領令を出した。日欧勢は、1か月以内にロシア政府に申請して許可を得ないとガスの利権を失ってしまう。シェルはウクライナ開戦後、ロシア敵視の一環としてサハリン2の利権を手放すと発表し、インドや中国の勢力に売却する話も出た(まだ実現していない)。対照的に日本は、今後もサハリン2からガスを買い続ける方針を政府が決めている。

● Russia seizes control of Sakhalin gas project, raises stakes with West

サハリン2からガスが止まると、広島など全国のいくつも場所で都市ガスの供給が行き詰まり、多くの国民がガスなしの生活を強いられることになりかねない。2月のウクライナ開戦以来、米国側がロシアからの石油ガス輸入を止める決断をしたため、ロシア以外の産出国の天然ガスに対する需要が急増し、ロシア以外のガスは世界的に全く売り切れ状態だ。サハリン2からのLNG輸入が止まったら、日本が替わりのガスの輸入先を見つけることは不可能だ。日本は、プーチンに頼
み込んでサハリンのガスを輸入し続けるしかない。

● ガスをルーブル建てにして米国側に報復するロシア
● Russia seizes control of Sakhalin gas project, raises stakes with West

日本政府は「ガスがすぐに止まるわけではない」とか「事実関係を確認中です」などと言っている。だが、あらためて確認するまでもなく、プーチンは、日本政府がこれまでのように米国やG7と調子を合わせてロシア敵視の発言を続けていたら、1か月後もしくはもう少し先に、サハリン2の日本勢の利権を剥奪し、日本をガス不足に陥れる。ガスがすぐに止まるわけではないが、このままだといずれ止まる。日本政府は、これまでよりもロシア敵視のトーンを下げ、裏でプーチンと交渉してガスの流れを維持するしかない(安倍晋三の訪露とか)。

日本はウクライナに兵器を送っておらず、岸田首相らが対米追随の一環として、くちでロシアを敵視・非難してきただけなので、今後の露敵視の演技の抑制が比較的やりやすい。ロシア敵視をやめるには米英から非難されることを覚悟して腹をくくる必要があり、それを考えると日本には無理かな?とも思うが、国民にガスなしの生活を強いるのと、どっちを選ぶんだという戦後初の決定的な選択肢なので、自民党と官僚機構は腹をくくらざるを得なくなっていく。

2月の開戦後、ドイツなどEU勢は、ロシアからの石油ガスを止めると豪語し、露側がルーブルで払えと言っても拒否するなど強気だった。対抗してロシアは欧州へのガスを止める姿勢を見せていた。だが、実際にはロシアからの石油ガス輸入停止は欧州経済にとって不可能であり、ロシアもそれを知っていたからすぐには石油ガスを止めず、そのうちに欧州側はしだいに譲歩してルーブル払いに応じ、今でもEU勢はロシアからの石油ガスを買い続けている。ロシアは、主戦場である欧州ですら、石油ガス輸出について急進的な強硬策をとっていなかった。主戦場から遠く離れたアジアの日本に対して、これまでロシアはさらに寛容だった。

● ルーブル化で資源国をドル離れに誘導するプーチン

だが今後は違う。ロシアは米国側に対し、ウクライナでの軍事的な戦争で優勢を確立しただけでなく、経済面の世界規模の対立(金資源本位制とドル本位制との果たし合い)でも中国インドなど非米諸国を率いて優勢を増している。ロシアは、軍事と経済を合わせた複合戦争・複合世界大戦の全体で、米国側に勝っている。米国側は、米連銀(FRB)のQE終了・QT開始によるバブル崩壊もあり、インフレと物不足と不況と金融崩壊が合わさって、どんどん経済が悪化している。ロシアの優勢と米国側の劣勢が拡大する一方になりそうな今後、ロシアは今までの慎重な姿勢をやめて、ロシアが日独などへの石油ガス資源類を使った嫌がらせ・加圧を増加し、日独がどこまで対米従属を続けて自滅していくものなのか、どこかで対米従属を離れてロシアと和解して非米側に足を突っ込んでくれるものなのか、見定めようとしている。ロシアは今後、日本へのガス輸出についてしだいに強い姿勢をとっていくようになる。

● もっとひどくなる金融危機
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日本が対米従属の一環としてのロシア敵視をやめずに今後も続けた場合、ロシアはサハリン2の日本勢の利権を没収して中国やインドなど非米諸国に売ってしまい、日本は二度とサハリンからガスを輸入できなくなる(中印などから高値で転売してもらえるかもしれないが、日本のガス料金は高騰する)。ロシアはガスの利権を中印などに売れるので、日本から敵視され続けても全然困らない。困るのは日本の側だけだ。

● 現物側が金融側を下克上する

ウクライナ開戦後、世界経済は米国側と非米側(ロシア側)に分割され、米国側は非米側から石油ガスなどエネルギーや資源類を輸入しにくくなった。資源類の利権の大半は非米側が持っており、米国側はこれから半永久的に資源類が不足・高騰した状態が続く。日本など米国側の諸国民は、インフレや物不足、食糧難、不況や金融バブル崩壊に苦しめられる傾向がこれから増していく。非米側の途上諸国でも食糧難などが起きるが、人々の生活水準の下落幅は、これまでいい生活をしてきた米国側の先進諸国の方が大きい。日欧の国民は、政府が対米従属の姿勢をとってロシア敵視を続けているがゆえに、生活苦に苦しめられてひどい目にあう。事態はまだ序の口だ。米国のロシア敵視は今後1-2年かもっと長く続くので、その間ずっと米国側の経済状況が悪化し続ける。

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戦後の日欧が対米従属の国是を採用したのは、圧倒的な覇権国である米国が世界のエネルギー利権を握り、米国に従属している限り、軍事だけでなくエネルギーや食料など資源類の供給に関しても安全が保障されるからだった。軍事経済両面での安全保障策として、日欧は対米従属してきた。だがウクライナ開戦後、気づいてみたら世界のエネルギー資源類の利権の多くは、米国側でなく露中イランなど非米側に取られている。サウジアラビアも非米側になってしまっており、バイデン米大統領が懇願してもサウジの皇太子は石油を売ってくれなくなっている。米国は、日欧など自陣営の従属諸国(同盟諸国)の経済安全保障を守ってやれなくなっている。軍事的にも、中露結束の結果、米国は中露と互角になっている。もしロシアが経済制裁への報復として欧州を軍事攻撃しても、米国がNATOの5条に沿って欧州を守るために反撃してくれるのかどうか怪しい。日欧は米国に守ってもらうために従属しているのに、米国はすでに日欧を守れなくなっている。エネルギー資源類の確保など経済安保の面でそれが顕著になっている。

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その一方で米国は、もし日欧が「エネルギーを確保するためにロシア敵視をやめます」と宣言したら、「それならもう日欧は味方でなく敵だ」と非難・敵視するだろう。米国は、自分が日欧を守れなくなっているくせに、守ってもらえなくなったので敵方のロシアに譲歩しますと日欧が言い出すと、逆ギレして非難敵視してくる。米国は覇権の力が落ち、やくざな国になっている。縁切りしないと危険だが、簡単には足抜けさせてもらえない。日本は今後、米国に気兼ねしてロシア敵視をやめられず、ロシアからガスなど資源類の供給を次々と止められて、いよいよ国民生活が窮乏していく可能性が増す。米国はすでにひどい物不足と物価高騰になっているが、日本はこれまでそうでなかった。今後は違う。日本も米国みたいになっていきそうだ。自民党など日本政府は、早く腹をくくって米国から距離をおいてロシア敵視をやめないと、国民がひどい目にあう。安倍晋三が訪露してプーチンと会うのが解決への道筋だ。

● 当事者能力を失う米国

以前はこんな時、野党が政府を批判していた。だが今回は、政府より野党(とくに左翼リベラル派)の方がロシア敵視の間抜けな構造に見事にはまってしまっている。左翼リベラル派は「ウクライナに侵攻したロシアは極悪だ」と言うが、その主張は間違いだ。ウクライナ問題は、冷戦後にソ連が崩壊し、ロシアとウクライナ(など旧ソ連諸国)という別々の国家になってしまったことに伴う各種の問題を米英が悪用し、ウクライナを傀儡化してロシアの脅威になるように扇動・内戦化したために起きている。ウクライナ戦争の構図を作ったのは米英だ。ロシアは被害者だ。知識人(笑)のくせに、そういった歴史をわざと無視してロシアが悪いと言っている日本や米欧の左翼リベラルやその系統のマスコミは間違っている。彼らは、隠れ多極派である米ネオコンのうっかり傀儡になって米国側を自滅させている。

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日本が対米従属をやめたら中国に攻撃されるって??そんなことはない。うまく非米諸国の中に入っているインドは、ロシアから資源類を安く買い続け、ロシアと仲良くしているが、米国から「説得」されるだけで非難敵視されていない。インドは中国の仇敵だったが、最近のインドと中国の関係は安定している。日本は、インドよりも親中国だ。日本は、うまく対米従属から離れられたら、インドみたいになれる。日本は、自滅策しか打ち出さなくなったG7もやめてしまった方が良い。苦労させられるばかりなのだから同盟なんか要らない。ハンチントンが文明の衝突で提案してくれた孤立文明が一番の得策だ。欧米かぶれは、左翼リベラル思想と一緒に捨てた方が良い。

● Putin & Modi Hold Warm Phone Call As India Gorges On Cheap Russian Oil

(無料メルマガ『田中宇の国際ニュース解説』2022年7月3日号より一部抜粋)

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