プーチン大統領が首相当時の安倍晋三氏にその不満を伝えたとも報じられ、ウクライナ戦争の引き金のひとつとなったとされる「NATOの東方拡大」ですが、そこにはバイデン大統領が、上院議員時代から深く関わっていたことは間違いのない事実のようです。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、NATO東方拡大の理由と、バイデン氏が当時果たした役割を解説。さらにそこからロシアの軍事侵攻に至るまでの間、アメリカがウクライナで行ってきた所業を明らかにしています。

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米軍産複合企業が推進した「NATOの東方拡大」/バイデンは上院議員当時からその手先だった!

先々週と先週の本誌で冷戦後の旧東欧・ソ連圏に群がる広告代理店や民間軍事会社について述べ、また先週発売の「日刊ゲンダイ」コラムでは日本の大手マスコミが頼りにする米シンクタンク「戦争研究所」の正体について一端を明らかにした(本号FLASH欄参照)。それらについて知人や読者から「マスコミでは触れられないことなので、もっと詳しく書いてほしい」という要望が寄せられた。そこで今号では、改めてそもそもに立ち返って、「NATOの東方拡大」という米国のポスト冷戦外交の中心戦略が、世界最大の軍需企業「ロッキード・マーチン」社を筆頭とする米軍産複合企業によって発案され推進され実現してきたものであること、バイデン大統領は上院議員の時代からその熱心な同調者であったこと、それらの結末として現在のウクライナ戦争の悲惨があること――を述べよう。

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旧東欧という兵器新市場に目が眩み

冷戦が終わると、統合参謀本部議長であり後にブッシュ子政権の国務長官になったコリン・パウウェルの率直な言葉によれば、「米国は敵に事欠きつつあった」(A・ファインスタイン『兵器ビジネス 下巻』原書房、15年刊)。当然のことながら米国の国防支出は大幅に削減され、米軍需産業は大掛かりな整理・再編を迫られた。その中でロッキードとマーチン・マリエッタの大型合併により95年に「ロッキード・マーチン(LM)社」が誕生し、以後、今日に至るまで同社はダントツの世界ナンバーワン兵器メーカーの座(写真1)を維持している。

この合併の立役者で合併後のCEOに就いたのは、ロッキード社出身のノーム・オーガスティンで、彼は後にブッシュ子から「国防長官になってくれないか」と言われたが断って、「貿易のための防衛政策諮問委員会(DPACT)」の委員長、「国防科学評議委員会」の委員長、「米国陸軍協会」の会長などとして、周りから政府と議会を操る方策を選んだ。

DPACTの目標は、米国とLM社の兵器輸出を倍増させることであったが、問題は、同社の高性能の武器を必要とする国は本当のところ存在せず、また仮に存在したとしてもその費用を賄える国が存在しないことだった。「敵に事欠く」のであれば嘘でもいいから敵を作らねばならず、相手国に金がなければ融通してやらなければならない。議会では超保守派のニュート・ギングリッチ下院議長が立ち働いて武器購入国に低利融資を提供する150億ドルの基金を創設することに成功したものの、「敵」を生むのは簡単ではない。

そこでオーガスティンが目を付けたのが旧東欧で、彼はロッキード時代の海外事業担当部長で合併後は戦略企画部長から副社長にまでなったブルース・ジャクソンを伴って東欧を歴訪し、たとえばNATO加盟を熱望していたルーマニアでは、「我が社の新レーダー・システムを導入するなら、ルーマニアのNATO加盟立候補を後押しするためワシントンで影響力を行使すると誓った」と、ファインスタインは前掲書で述べている。

想像するに、オーガスティンは「NATOに加盟しようとすれば、いずれ旧ソ連型の旧式兵器を捨てて西側諸国と互換性のあるシステムに入れ替えすることになる」と説得しただろう。ルーマニア側は「それはそうだが、そんなに高性能の兵器システムを揃える必要があるのかどうか」と躊躇ったに違いないが、米国の死の商人の代表は「いや、金のことは心配ない。それよりも、やっぱり西側諸国と肩を並べて訓練したり作戦行動をしたりするにはそれなりのものを持つことが重要だ。そうすることで初めてNATOの懐に抱かれて安心を得ることができるのでは?」と畳み掛けただろう。その際には旧ソ連の支配下での恐怖を思い起こさせたかもしれない。

兵器の売り込みの商売が先で、そのためのNATO拡大の外交方針が後を付いて行ったという順序であることがよく分かる。

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NATO拡大のための委員会でロビー工作

旧東欧が軍需産業にとって美味しい市場であることについいては、米航空宇宙産業協会の国際副部長のジョエル・ジョンソンがNYタイムズの97年6月29日付であからさまに語っていた〔25年前のこの記事のコピーを私が今も保存しているというのは我ながらなかなか凄い!〕。「ジェット戦闘機だけで100億ドルの潜在市場がある。そのジェットには操縦シミュレーター、交換部品、電子機器やエンジンの改良版などが付いて回る。次に輸送機、多目的ヘリ、攻撃型ヘリが来る。軍事通信システム、コンピューター、レーダー、無線やその他の近代的戦闘部隊に必要な道具もだ」と。だからたとえばLM社は、95〜96年の選挙シーズンだけで230万ドルの政治献金を注ぎ込んだが、そんなものは2003年に至ってポーランドが38億ドル分のF-16戦闘機を購入したことで十分に元が取れたのである。

クリントン大統領は、第1陣のポーランド、ハンガリー、チェコのNATO加盟には積極的だったが、次のルーマニアとスロベニアについてはその国内民主主義の状況を理由に難色を示した。そこでブルース・ジャクソンは96年に議会向けのロビー団体として「NATO拡大のための米国委員会」(後に「NATOのための米国委員会」と改称)を立ち上げ、自ら委員長を務めてロビー工作を強化することにした。

その時、議会上院で外交委員長を務めていたのがジョー・バイデンで、彼はポーランド、ハンガリー、チェコのNATO加盟を熱心に推進し、議会の同意を取り付けるに成功するや、「冷戦時代の西側軍事同盟にとっての敵〔だったロシア〕の面前で、かつてスターリンがこの3カ国に強制した歴史的な不正義を正すことができた。これは今後50年間に及ぶ平和の始まりである」と宣言した。どうもよく分からない論理だが、要するに、旧ソ連の前庭だった旧東欧に手を突っ込んで味方に引きつけることに成功したということなのだろう。

NATO拡大委員会の共同創始者は弁護士で後にクリントン・オバマ両政権のホワイトハウスで顧問の仕事をすることになるグレッグ・クレイグで、たぶんその線からネオコンの大物ポール・ウォルフォウィッツ、リチャード・パールと強い繋がりを持つようになり、彼らを委員会の理事に迎えた。また、ネオコンそのものではないが、強烈な反共主義の立場からしばしばネオコンと共闘した故ジョン・マケイン上院議員や、諜報世界を歩いて後にアメリカン・エンタープライズ研究所に入るゲイリー・シュミットらもこの委員会に入った。

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米国新世紀のためのネオコン・プロジェクトへ

この軍需産業とネオコンの結びつきの直接の産物が、97年に始まった「米国新世紀プロジェクト(PNAC)」で、共同創始者はロバート・ケーガンとウィリアム・クリストル。ロバートの妻はビクトリア・ヌーランド国務次官で(本号FLASH欄参照)、彼女こそゼレンスキー政権を対露徹底抗戦に駆り立てている張本人である。このPNACの米国が世界民主化のリーダーシップを取るべきだという趣旨の設立宣言には25人が賛同署名し、そのうち10人がブッシュ政権入りしたが、その中にはディック・チェイニー副大統領、ドナルド・ラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ国防副長官が含まれている。彼らが事実上、政権の外交・防衛部門を乗っ取って誤てるイラク戦争に米国と世界を引き摺り込んだ。

バイデンやジョン・マケインの旧式の反共主義と、「全世界の共産党独裁の残骸や訳の分からぬ宗教的独裁を打倒して米国式民主主義の花で地球を埋め尽くそう」というネオコンのイデオロギーの結合が、今度はNATO拡大によるロシア封じ込め、延いてはロシア殲滅という方向に向かって暴走してしてしまった。

このバイデンが副大統領で、ヌーランドが欧州・ユーラシア担当国務次官補でマケイン上院議員も健在だった2013〜14年に、彼らが寄ってたかってけし掛けたのがウクライナの親露派政権の転覆であり、その延長上で22年2月に始まった今の戦争である。そしてその戦況を嬉しそうに毎日報じているのが、ヌーランドの義妹がペトレイアス陸軍大将(アフガン駐留軍司令官、CIA長官)に取り入って創設した「戦争研究所」という訳である。

米国は冷戦後の多国間主義による多極世界の運営システムの構築と、その下で覇権国であることを止めた自国のほどほどの落ち着き場所の設営に失敗して、巨体を震わせながら漂流している有様である。本当は自国にとっても世界にとっても無用の長物である兵器を作り続け、世界最大の兵器生産国であり兵器輸出国であることを止められないというこの米国の病の深刻さにまで思いを致さないと、ウクライナ事態の出口を見つけることは難しい(写真2)。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年7月4日号より一部抜粋・文中敬称略。全文はメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』を購読するとお読みいただけます)

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