ウクライナ侵攻に絡んで、日本を含む世界各国から経済制裁を受けているロシアですが、報道では「あまり効いていないのではないか」とも言われています。はたして本当に報道通りなのでしょうか? 今回の無料メルマガ『 ロシア政治経済ジャーナル 』では、著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、なぜロシアの経済制裁が効いていないように見えるのか、そして現段階でかなりロシアが打撃を受けている「証拠」について明かしています。

ロシア政府が経済統計を公表しなくなった理由

ウクライナでは、相変わらず戦争がつづいています。約6か月経って、ロシア軍は、東部ルガンスク州、ドネツク州、南部ザポリージャ州、ヘルソン州を支配しています。しかし、ドネツク州、ザポリージャ州は、全部支配できているわけではありません。ヘルソン州に関しては、ウクライナ軍が奪還作戦を行っています。ロシア軍、ウクライナ軍とも、まだ「自分たちは勝てる!」と考えているため、なかなか停戦交渉は進展しません。

ところで、ウクライナに侵攻したロシア経済の現状はどうなのでしょうか?「制裁は、あまり効いてない」という報道を、見かけたことがあるでしょう。実際、ロシアの友人、知人に確認すると、「目に見える影響は、インフレだけ」といわれます。

「インフレ」はどの程度なのでしょうか?経済発展省によると、7月1日時点で、前年同期比16.19%だそうです。日本人には驚きの数字ですが、インフレ慣れしたロシア人にとって、「致命的打撃」とはいえません。

では、本当に「制裁は効いていない」のでしょうか?これについて私は、2月から同じことをいいつづけてきました。「制裁の影響は、長期で見なければならない」ということです。なぜ?

2014年3月、ロシアがウクライナからクリミアを奪いました。そして、日欧米は制裁に踏み切った。この時もロシア国民は、本気で「制裁は効かない!」と考えていました。根拠は、「ロシアは、食糧を自給することができ、エネルギー大国であるから」です。つまり、「自給自足できる体制だ」というのです。

ところが、時が経つにつれ、実はめちゃくちゃ制裁が効いていたことが明らかになってきました。もう皆さん忘れていると思いますが、プーチンの1期目2期目、つまり2000年から2008年まで、ロシアのGDPは、年平均7%の高成長をつづけていたのです。ロシア経済は絶好調で、ロシア政府高官は07年ぐらいになると、「ルーブルを世界通貨にする!」などと豪語するようになっていました。

ところが、2014年3月のクリミア併合以降はどうでしょうか?2014年から2020年までのGDP成長率は、年平均0.38%です。つまり、「制裁はバリバリ効いていた」のです。

今回の制裁は、クリミア併合後の制裁より、とても厳しいものです。私は、「地獄の制裁」と呼んでいます。だから、ロシア経済への長期的影響は避けられないのです。

先日のメルマガで、一つの例を挙げました。ロシアの自動車生産が、ウクライナ侵攻前と比べ、【 96%減少 】したという話です。詳細はこちら。

【関連】生産台数96%減少の衝撃。露の自動車業界が経済制裁で瀕死状態に

これ、どうでしょう?自動車生産が、ウクライナ侵攻後96%減少した。それでも、「経済制裁の影響はない」といえるでしょうか?

ロシア政府が経済統計を公表しなくなった!

もう一つ、「ロシア経済は相当ヤバイのだろうな」と感じたできごとがあります。それは、ロシア政府が、「経済統計を公表しなくなったこと」です。

4月14日付のLENTA.RUは、ロシアエネルギー省が、原油生産と輸出量の統計公表を止めたことを報じています。

https://lenta.ru/news/2022/04/14/sekret/?ysclid=l6sxnrfbnu207965133

4月19日付のRBCによると、ロシア中央銀行は、対外債務データの公表をストップしました。

● Россия засекретила данные о добыче и экспорте нефти

4月21日のRBCは、ロシア税関が、輸出入統計の公表を止めることを報じてい
ました。

● ФТС временно приостановит публикацию статистики по импорту и экспорту

5月12日付RBCによると、ロシア連邦航空輸送局が、航空輸送に関する情報公開を停止しました。

● Росавиация приостановила публикацию сведений об авиаперевозках

6月14日のRBCは、ロシア財務省が、支出の詳細を公開しなくなったことを報じています。

● Минфин в связи с санкциями засекретил расходы бюджета по направлениям

問題は、「なぜロシア政府は、経済統計の情報を公開しなくなったのか?」です。もしプーチンがいうように、「制裁の影響はほとんどない」のであれば、逆にどんどん情報を公開し、そのことを数字で証明するでしょう。

しかし、ロシア政府は逆に、経済情報に関するデータを公開しなくなっている。つまり、「公開すると、ロシア経済の苦しい実態が国際社会にバレてしまうので公開できない」ということなのでしょう。こんなところからも、「制裁は効いていない」というのが、「ただの強がり」であることがわかるのです。

私は、ロシアがウクライナに侵攻する前から、「侵攻すれば、ロシアの戦略的敗北は不可避だ」と書きつづけてきました。意味は、「ロシアはウクライナとの戦闘に勝つかもしれないし、負けるかもしれない。たとえ戦闘に勝っても、地獄の制裁はつづいていく。それで、ロシア経済は壊滅的打撃を受ける。それを戦略的敗北とよぶ」ということです。

結局、事態は予想通りの結末にむかっているようです。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年8月14日号より一部抜粋)

image by: Shutterstock.com

MAG2 NEWS