バイデン大統領自らホワイトハウスの玄関にまで出迎えるなど、異例の厚遇ぶりが話題となった岸田首相のアメリカ訪問。しかしその「予想を上回る歓待」には、当然ながらウラがありました。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、Windows95を設計した日本人として知られる世界的エンジニアの中島聡さんが、米国製ミサイルの大量購入が金銭面以上にバイデン政権を喜ばせた理由を、新聞記事を引きつつ解説。さらに日本政府が自国へのミサイル配備を決断した理由を考察しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
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日本に中距離弾道ミサイルが配備される時代先日行われた日米首脳会談で、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の大量購入をお土産に大歓迎された岸田首相ですが(「バイデン氏『あなたは真の友人』、岸田首相を自ら出迎え昼食会も…日本の防衛力強化を歓迎」)、F35の爆買いを約束した安倍首相がトランプ大統領に大歓迎された時の構図(「トランプを喜ばせた『F35爆買い』コスト総額は6兆7,000億円!」)ととても良く似ています。
しかし、今回のお土産はそれだけではなかったようです。読売新聞の、「日本への中距離ミサイル配備、米が見送りへ…『反撃能力』導入で不要と判断:読売新聞オンライン」によると、対中国で、莫大な予算をかけて中距離弾道ミサイルのアジアへの配備を計画していましたが、日本政府が米国の代わりに配備してくれることが決まったため、その計画を見送ることにした、とのことです。
調べてみると、米国は、日本を含めたアジアの国々を射程にいれた中距離弾道ミサイルを大量に配備している中国に対抗するために、自分達も中距離弾道ミサイルをアジアに配備しようと計画していましたが、今以上に中国との緊張状態を高めたくない、自国を標的にしたくないという、(日本も含めた)同盟国からミサイルの配備の許可が降りないために、配備が出来ないというジレンマに陥っていたそうです(「U.S. wants to surround China with missiles — but can’t find Asian country to host them」)。
今回の岸田政権による閣議決定は、そのジレンマを解決するだけでなく、中距離弾道ミサイルの配備コストを日本が負担するという、米国にとってはとてつもなく良い話なのです。議会から予算の承認が降りずに困っているバイデンが喜ぶのは当然で、ホワイトハウスの前まで岸田首相を迎えに出て当然なのです。
当初は、米国によるミサイルの配備にすら何色を示していた日本が、なぜ掌を返したように、場所だけでなく、配備コストまで負担すると決めたのかは不明ですが、一つのヒントは、ジャパンハンドラーと呼ばれるCSISにより書かれたメモにあります(「Japan’s Transformational National Security Strategy」)。
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このメモは、去年の12月16日の閣議決定の8日前に書かれたメモにもかかわらず、
Later this month Japan will announce new national security and defense strategies that will shatter policy norms in place for much of the period since World War II. Tokyo is poised to unveil plans to nearly double defense spending over the next five years, discarding the informal 1 percent of GDP cap that has been in place since 1976. It will set out plans to acquire long-range precision-strike cruise missiles, capable of hitting targets well inside North Korean or Chinese territory, loosening the postwar constraint on military power projection.
(今月末、日本は新しい安全保障・防衛戦略を発表する。それは、第二次世界大戦以降の政策規範を打ち砕くものである。東京は、1976年以来実施されてきた非公式なGDPの1%という上限を破棄し、今後5年間で防衛費をほぼ倍増させる計画を発表する予定である。また、北朝鮮や中国の領土のかなり内側を攻撃できる長距離精密攻撃巡航ミサイルを取得する計画を打ち出し、戦後の軍事力投射の制約を緩和する予定である。)
と岸田政権による閣議決定の内容を正確に明記しており、CSISがこの戦略の策定に直接的に関わっていたことが分かります。
ちなみに、2009年まで、米国は年次改革要望書という公式文書を使って、日本政府に対するさらざまな要望を突きつけてきましたが、鳩山政権がその制度を破棄してしまったため、その後はCSISを通じて、日本政府に対して要望を出すようになりました。自民党の政策と酷似していると言われる「アーミテージ・ナイ報告書」はその典型的な例で、集団自衛権、武器の輸出の解禁、特定秘密保護法など安倍政権時代に作られた法律の多くが、このメモに基づいて(つまり、CSISを通した米国の指示通りに)作られたものです。
自民党政権が、なぜ米国の要望をこれほどまでに忠実に実行するかについては諸説ありますが、やはり長期政権の維持のためには、米国政府から政権を支持してもらうことが何よりも大切であり、CSISがそのパイプ作りに大きな役割を果たしている、と解釈して良いと思います。 (『週刊 Life is beautiful』2023年1月31日号の一部抜粋です。続きはご登録の上、1月分のバックナンバーをお求め下さい)
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