中国の習近平国家主席が5月上旬にフランス、セルビア、ハンガリーの3カ国を訪問。5年ぶりのヨーロッパ訪問で成果はあげられたのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、習近平氏の笑顔が随所にあふれていて「中国が考える首脳外交の理想形」と評価。訪問先での習氏の言葉から今回の外交で中国が何を重要視し、欧州に何を求めているのか解説しています。

なぜ、いま習近平はフランス、セルビア、ハンガリーに向かったのか

習近平国家主席にとって今回の外遊は、中国が考える首脳外交の一つの理想形だったのではないだろうか。普段は滅多に見られない笑顔が随所にあふれていた。

最初の訪問地のフランスでは、エマニュエル・マクロン大統領に加え、再選を控えたウァズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会(EU)委員長が加わる三者会談となり、いつも険しい表情をのぞかせる場面もあった。だが、マクロンが幼少期を祖母と過ごしたフランス南西部のオート=ピレネー県の別荘に場所を移して以降は、終始上機嫌に見えた。

ハイライトは、セルビア、そしてハンガリーへの訪問と現地での大歓待であった。どちらも領空に入るころから戦闘機が現れ、空港ではそれぞれの国のトップが出迎えた。

セルビアではアレクサンダル・ブチッチ大統領と会談。習は、「中国にとってセルビアは中東欧地域で初の包括的な戦略的パートナー(2016年)だ。双方は協力してそれぞれの発展と振興に力強い原動力をもたらし、両国民に確固たる利益をもたらしてきた。新たな情勢の下、セルビアが欧州で初めて中国と運命共同体を共同構築する国となった」と語った。

同じくハンガリーでは、オルバン・ヴィクトル・ハンガリー首相との会談で、「新時代における外的環境の変化に左右されない包括的な戦略的パートナーシップの構築を契機に、両国協力に新たな強大な原動力をもたらし、両国民のためにさらに素晴らしい明日を切り開く必要がある」と語った。

セルビアとハンガリーはそれぞれ、「全面的戦略パートナー」から「新時代の運命共同体」と「新時代の全天候型包括的パートナーシップ」へと、中国との関係を格上げしたことになる。概括すれば、従来から親しかった国々を訪れ、友好的な関係をさらに強化したという流れだ。

では、この外交に通底していたテーマは何だったのか。まず政治的には、ヨーロッパに対し米中対立で独自の立場を取ることを求める目的があった。そのことは習がフランスで「中国・EU関係には強大な内生的原動力と大きな将来性があり、第三者を標的とせず、依存せず、制限を受けることもない。EUが正しい対中認識を確立し、前向きな対中政策を定めることを希望する」と語ったことからもうかがえる。

アメリカの対中攻勢はいま、ハイテク分野での中国排除に加え「過剰生産」が新たなテーマに加わった。フランスやEUも調査に動き出している。最大のターゲットは電気自動車(EV)と新エネルギーだ。

マクロン、フォン・デア・ライアンとの三者会談で習が、中国企業の過剰生産と補助金を意識し、「比較優位の観点からも、世界市場の需要の観点からも、いわゆる『中国の過剰生産能力問題』は存在しない」とEUをけん制したのは象徴的だ。このことは当然、今回の訪欧における経済的なテーマにも深くかかわる。新エネルギー車が最大のテーマだったからだ。

中国の対EU諸国との関係という意味では、中国の新エネルギー車への関税をどうするかが一つのリトマス試験紙だが、この点でドイツは三大自動車メーカーのフォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツの各トップがそろって「貿易の保護主義に反対」する声明を出すなど、官民挙げて保護貿易化に抵抗している。

日本の日産自動車が撤退した跡地に中国の奇瑞汽車(Chery Automobile)を誘致したスペインも同じで、「一帯一路」への参加を取りやめたイタリアのメローニ政権も中国との貿易には積極的だ。

そうしたなか今後EUの新エネルギー車の趨勢を占う意味で重要になるのがハンガリーなのだ。すでに世界の主要な自動車メーカー20社がハンガリーに自動車製造工場を持っているが、目下、現地の最大のニュースはBYD(比亜迪/Build Your Dreams)がハンガリー南部に建設する新エネルギー車の組み立て工場だ──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年5月12日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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