ジムは不遇評価?
「ジム(GM)とはガンダムのマスプロダクトモデルを表す略称である」……数ある命名由来のなかでも特に有名なこの説。これからも分かる通り、ジムはあの傑作機「ガンダム」をもとにして作った量産機、ということはガンダムファンの皆さんであれば御存知の通りです。しかしこう思った人もいるのではないでしょうか。
「あの強くてカッコいいガンダムのどこをどうすればこうなってしまうんだ!」
確かにシルエットこそ似てはいるものの、ガンダムの凛々しいお顔はなんだか貧相な凸型のバイザーになっていますし、必殺のビームライフルなんかは小さくて威力も低いビームスプレーガンとやらに置き換わっています。なんだか弱々しい印象は拭い去れません。これではガンダムの名が泣くというもの。
ですが、これはあくまでガンダムに視点を置いているから起きる言わばイメージの事故。そもそも「ガンダムは試作機」です。だって公式設定もそう言っています。TVアニメ第1作でアムロ少年が乗っていたRX-78-2型は、どちらかというと試作機を元にした高性能チューン機という色が強いのですが、少なくとも完成機ではないのです。ということは、ガンダムとは「何か別の完成品を作るために試しに作った機体」ということになります。では完成品とはなにか。
そう、それこそがジムなのです。
ジムを視点として言い換えれば、ガンダムとはジムの開発過程で作られた単なる試作品、ということになります。もっとも、単なる試作品があんな八面六臂の活躍をしてしまえば、後年に伝説的存在となって軍のシンボルともなるのも宜(むべ)なるかな。

戦いはやっぱり「数」?
それでも、あの高性能なガンダムの量産型がジムと言うのはやっぱり納得がいかないかもしれません。なるほど、ではモビルスーツにとって最も大事な性能とは何でしょうか。機動兵器なのだから機動性は欠かせません。時代が求めるマルチロールな活躍ができる汎用性も当然必要になります。
ですが、これに優先されるものがあります。それは、コスパです。
基本的に戦争では「点」より「面」が重視されます。ピンポイントで強い少数の精鋭戦力より、そこそこの範囲を広くカバーできる程々の戦力の方がベターである、ということです。
特に戦争で攻め込まれている側からすれば「こっちを対処すればあっちが対処できない」といった事態になりかねない少数の戦力は、例えどれだけ強かろうと使い物になりません。
そのため、兵器にとっては数が用意できるということ、すなわち「生産性」はそれだけで最強のステータス足り得るのです。物量こそが正義、戦いは数だよ兄貴。
なお、戦いでは、敵陣を一点突破して少数精鋭が本丸へ突貫、大将首を落とされた敵軍は見事瓦解……という流れもあります。ことガンダム作品においても枚挙に暇がないでしょう。勝つ確率の低い、一縷の望みを託した大博打。負ければ大損、命すら無いようなシーン。だからこそ、心が熱く燃える名シーンも多いですが、そんな状況はコスパや損得勘定の埒外だと言えるでしょう。
もちろんのこと、単純な機体スペックを比べれば、ジムはガンダムに劣っています。ビームサーベルの装備数が少なかったり、エンジンである核融合炉の基数削減、贅沢を極めていた装甲材はルナチタニウム合金から変更されていたりします。
しかしこれは徹底的なコストカットの賜物です。いわば生産性というスペックの向上に他なりません。ガンダム1機という「点」では対処しきれない、「面」を支え続けた多数のジムの存在こそ、真の名機と称するに足り得るのです。