『エヴァ』庵野秀明監督も関わっていた!

『メガゾーン23』は1985年にリリースされたOVA(オリジナルビデオアニメ)作品です。黎明期にあったOVAの金字塔として、1985年度のビデオ売上が第2位になるほど大ヒットを飛ばしました。後のアニメ界にも多大な影響を与えた本作は、『超時空要塞マクロス』に関わったスタッフによって制作されました。

 作品の舞台は、都市を丸ごと船内に作り上げた巨大宇宙船・メガゾーン23です。都内に住むバイク好きの主人公・矢作省吾は、友人から「ガーランド」というバイクを託されます。ガーランドにはロボットへ変形するという秘密があり、これを知ったことで省吾を取り巻く状況は一変。軍から追われ、やがて省吾は東京に隠された真実の姿と直面することになります。

 さらに本作を彩るのが、「ヴァーチャルアイドル」の原型とも言えるヒロイン「時祭イヴ」の存在です。人気アイドルとしてたびたびテレビに出演しているイヴですが、実は都市の中枢をコントロールする巨大コンピュータが作り出した虚像だと判明するのです。イヴを中心に、戦いや恋愛模様が織りなされた物語が展開されていきます。

 主な制作スタッフとして、『鉄腕アトム』、『巨人の星』に携わった後に『宇宙戦艦ヤマト』でアニメーションディレクターを務めた石黒昇さんや、『伝説巨神イデオン』のアクション作画で名を轟かせた板野一郎さんが挙げられます。 石黒さんは『メガゾーン23』のPart Iでは原作・監督に尽力し、Part IIでは原作を担当しました。板野さんはPartIIで監督、Part Iでも演出などを務めています。

 板野さんの代表的な作画表現に「板野サーカス」と呼ばれるものがあります。これは無数のミサイルが画面中を飛び回り、実際にカメラが追尾するよう遅れたりブレたりするダイナミックかつ大胆な表現で、後世のアニメーターにも大きな影響を与えました。

 そんな板野さんが「板野サーカス」の使い手と認めるひとりであり、『新世紀エヴァンゲリオン』の監督で知られる庵野秀明監督も本作の作画スタッフとして参加しています。さらに『超時空要塞マクロス』で不動の地位を築いた平野俊弘さんや美樹本晴彦さんら名だたるクリエイターによって『メガゾーン23』が作られました。

 ちなみに1作目の主人公・矢作省吾の声は久保田雅人さんが担当しており、久保田さんはNHK教育テレビ『つくってあそぼ』と『つくってワクワク』に登場する工作が得意なおじさん「ワクワクさん」としても有名です。

本当は実在しない人気アイドル「時祭イヴ」がジャケットに描かれるブルーレイ「メガゾーン23 PARTII Blu-ray」(ビデオメーカー)

東京23区の街は宇宙船の中にあった!?

『メガゾーン23』の「23」は「23番目の人工都市」という意味で、物語の舞台・東京23区に由来しています。作中では1980年代の東京が舞台に描かれており、新宿アルタや青山トンネル、原宿ラフォーレやその側にあるクレープ屋、渋谷のスクランブル交差点やガード下から109が見える景色など、多くの人が知る「東京らしい景色」が随所に散りばめられています。加えて主人公の省吾がバイトをしていた「マクドナルド」の店内や、「Hard Rock Cafe」といった、当時の流行もリアルに描かれています。

 また原宿は「ホコ天」と呼ばれた、いわゆる歩行者天国になっている描写が映し出されています。さらにテレビはブラウン管でノイズが混じるように描かれるなど、当時の空気感を余すところなく醸し出しています。

 しかしSFアニメだけあって、テレビ電話付きの公衆電話や超高出力の前衛的なバイク、変形する未来的なデザインのバイク「ガーランド」なども登場します。実は作画も担当していた板野さんは、無類のバイク好き。バイクの作画に焦点が当てられていただけあって、作中に登場するバイクたちは近未来的で緻密に描かれ、目を引くものばかりでした。

『メガゾーン23』は元々『機甲創世記モスピーダ』の後番組用の企画で、『超時空要塞マクロス』に関わったスタッフたちの再結集を目玉とした作品です。そして『メガゾーン23』の企画は石黒昇監督が初めて作った自主企画でした。石黒監督がビデオで作ろうと発案し、OVA作品として世に出し成功を収めたのです。

 本作は80年代の雰囲気を懐かしみながら、「メカと美少女」のちょっと大人の世界を楽しめます。錚々たる制作陣によって生み出された『メガゾーン23』の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。