誰もが「原作改変」を予想していたのに!

 原作付きのアニメを制作する際には、「いかに原作を再現するのか」という部分でスタッフの手腕が問われます。しかし逆に原作を忠実に再現しすぎた結果、問題を招いてしまう……というパターンも皆無ではありません。過激すぎるネタをそのままアニメ化することで、ファンたちや原作者を「えっ、大丈夫?」と驚かせてしまった作品があるのです。

●最低すぎる立体機動装置が登場した『妹さえいればいい。』

 2017年に放送されたアニメ『妹さえいればいい。』は、ガガガ文庫より出版された平坂読先生のライトノベルが原作です。妹モノの作品ばかりを執筆している小説家、羽島伊月(CV:小林裕介)と、個性的なキャラクターたちによるドタバタな日常を描いた作品でした。

 そんな同作には、実在するボードゲームやカードゲームがよく登場するのですが、伊月たちが「ワンス・アポン・ア・タイム」という物語を作るゲームで遊んだ第11話は、かなり衝撃的な内容でした。

 というのも同ゲームを通して生まれた物語は、可児那由多(CV:金元寿子)が生み出した全裸の魔女「カニ子ちゃん」が登場したあたりからどんどんカオスな展開が描かれます。しまいには魔女の呪いによって兄のちん〇んが1メートル以上になり、『進撃の巨人』の立体機動装置のように操って怪物を撃退し始める展開になるのです。

 文字媒体だからこそできる悪ふざけの極地のようなパロディシーンでしたが、アニメでは「立体機動チン○」までしっかり再現されています。ちなみに平坂読先生のX(旧:Twitter)によると「原作そのままやると多分怒られるので変更しましょう」と伝えたのにもかかわらず、アニメスタッフが原作通りやってしまったとのことでした。

●変態キャラを奇跡の映像化!『ゴールデンカムイ』

『ゴールデンカムイ』には、ファンの誰もが「さすがにアニメ化できん……」と確信していたエピソードが存在しました。それはクセモノぞろいの同作でもトップクラスの変態性を誇る姉畑支遁の大暴れ回「支遁動物記編」です。

 姉畑は一見温厚そうな人柄に見えて、野生動物とウコチャヌプコロ(アイヌの言葉で性交の意)したいという衝動が抑えきれない危険人物です。原作本編には動物を強姦したり虐殺したりするシーンが存在するため、かねてよりファンのあいだでは「映像化は不可能に違いない」とささやかれてきました。

 実際、難波日登志監督も自身のX上で「実はアニメ化のお話をいただいた時からNGと言われていました」と言及しており、誰もが原作改変に納得していたのですが、ここで奇跡が起こります。原作コミックス第23巻のアニメDVD同梱版に収録されるという形で、まさかのアニメ化を果たしたのです。しかも、姉畑を演じたのは『魁!!男塾』の剣桃太郎や『聖闘士星矢』のフェニックス一輝役などで知られる、ベテラン声優の堀秀行さんでした。

 この報せを聞いた原作ファンたちが、主人公の杉元佐一と同じ気持ちになって「やりやがった!! マジかよあの野郎ッ やりやがったッ」と思ったことは言うまでもありません。

刃牙と梢江の濃厚な交わりが描かれた『バキ 特別編 SAGA[性]』(秋田書店)

いろいろな意味で危険すぎた原作改変

●少年マンガの常識を覆した『バキ特別編SAGA[性]』

 原作の過激な内容をそのまま再現してしまったという意味では、格闘マンガの金字塔である「刃牙」シリーズも負けてはいません。同シリーズの第2部『バキ』がアニメ化された際、多くの読者が注目していたのが『バキ特別編SAGA[性]』の映像化問題です。

 その内容は、最凶死刑囚との戦いで自らの力不足を確認した範馬刃牙が、最愛の女性である松本梢江との初性交を通じて「SEXと闘いの近似性」に気付き、男として、そして格闘家としてひとつ上の段階へと成長する……というものでした。『バキ』の物語に密接する内容でありながら、真正面から性交を描いたことで、少年誌である「週刊少年チャンピオン」では掲載できず、青年誌「ヤングチャンピオン」に掲載されて外伝扱いとなったエピソードです。

 ゆえにアニメ化は不可能ではないかとささやかれていましたが、地上波では大幅に修正されたものが放送され、配信・ソフト用の「放送コードぶっちぎり版」では、細かい行為の描写はいくつか省略されながらも、『バキ特別編SAGA[性]』の独特な場面が再現されていました。ファンを驚愕させながらも、大いに喜ばせた出来事だったといえるでしょう。

●実在の人物を過激にパロディした『銀魂』

『銀魂』といえば、下ネタや不謹慎ネタ、過激なパロディのオンパレードで人気を博したギャグマンガです。アニメ版でも、スタッフたちがノリノリで危険なネタを再現していました。なかでも強烈な印象を残した回といえば、「レンホウ」というキャラクターが登場する第232話でしょう。

 名前からも分かるように、このキャラは明らかに某政治家をモデルにしており、見た目まで瓜ふたつでした。原作では実名、顔出しで登場していたものの、さすがに完全再現は難しかったのか、アニメでは「レンホウ」表記となっていた上、目元が黒い線で隠されることに……。とはいえ、あまりに攻めたパロディだったことは間違いありません。

 同エピソードはテレビ東京では無事放送されたものの、その後「AT-X」での放送が突如中止になり、さまざまな憶測を呼びました。さらにDVDや動画配信で観ることができるバージョンでは、「レンホウ」さんの姿が黒塗りでほぼ隠されています。

 ちなみにアニメ第252話「ごめんなさい」では、作者・空知英秋の分身であるゴリラが「アニメスタッフが空気も読まずに下品な原作をご丁寧に再現しすぎた」という手紙を主人公たちに手渡す一幕も描かれていました。

 強烈な下ネタに変態キャラ、政治家のパロディ……。多方面から怒られることを覚悟の上で危険なネタを再現するアニメスタッフには、拍手を贈るしかありませんが、なにがそこまで彼らを駆り立てるのでしょうか。