初登場時は完全な悪役だったが、愛のために自らを犠牲にした漢

 物語が進むにつれて忘れられてしまうのが、負けてしまったザコキャラたちです。しかし、使い捨てのキャラだと思ったのに、後で物語に多大な影響を及ぼす活躍をしたキャラもいました。今回は、そんなザコだと思ったのに、後で強くはならないまま「アツい活躍」をしたキャラを振り返りします。

●カシオス:『聖闘士星矢』

 現在でもスピンオフ作品が作られるなど、根強い人気のあるバトルマンガ『聖闘士星矢』(作:車田正美)に登場するカシオスは、第1話で主人公の星矢と戦って敗れた、分かりやすい「かませ犬」キャラです。しかし、その後、まさに命をかけたアツい活躍を見せました。

 物語の最序盤で、星矢は勝ったほうが天馬星座(ペガサス)の聖衣(クロス)を手に入れられる戦いに挑みます。そして、その戦いの相手こそ、聖闘士候補生のカシオスでした。それまでに戦った相手の首を一撃で飛ばして勝利するなど、カシオスは圧倒的な力を誇っています。

 しかし、戦いが始まると「小宇宙(コスモ)」に目覚めた星矢に及ばず、耳を落とされたうえに、ペガサス流星拳で倒され、聖衣を奪われました。

 そんな「かませ犬」のお手本のようだったカシオスが再登場したのは、「十二宮編」でした。アテナを救うため、星矢たち青銅聖闘士(ブロンズセイント)は、黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちと戦いながら、十二宮の頂上を目指します。

 その5番目の宮である獅子宮で、星矢は教皇の「幻朧魔皇拳」によって洗脳された獅子座の黄金聖闘士アイオリアに圧倒され、絶体絶命のピンチに陥りました。そしてそこに、カシオスが現れるのです。

 カシオスは、師である女性聖闘士のシャイナに惚れており、星矢のために獅子宮に向かおうとした彼女を気絶させ、代わりにアイオリアに立ち向かいます。そして、「目の前で人が死ぬことで解ける」というアイオリアの洗脳を解くため、目の前で自らの腹部を貫き命を絶ちました。

 しかし、カシオスの死を見てもアイオリアの洗脳は解けず、一部の読者からは「無駄死にだった」との声もありました。それでも、カシオスの想いを汲んだ星矢の渾身の攻撃でアイオリアは正気に戻っており、彼の望み通り星矢は助かったのです。

 大事なシャイナのため、かつての敵だった星矢を命を捨てて助けたカシオスの最期はとても感動的でした。ちなみに、アニメでは彼を「無駄死に」させたくなかったのか、アイオリアの「ライトニングプラズマ」を受け止めて星矢を守る、という最期に変わっています。

●ヨキ:『鋼の錬金術師』

 錬金術が存在する世界が舞台の人気マンガ『鋼の錬金術師』(作:荒川弘)の序盤に登場したヨキは、炭鉱街の名士で炭鉱のオーナーでした。しかし、実態は私腹を肥やすために鉱夫たちの賃金を削る悪党で、賄賂で手に入れた国軍中尉の地位をかさに着て横暴を働く小悪党です。そして彼は、セオリー通り街にやってきた主人公エドワード兄弟によって失脚させられます。

 失脚後は少数民族イシュヴァールの貧民街で浮浪者として暮らすようになったヨキですが、傷の男(スカー)といざこざを起こして追放されました。その後は、スカーの小間使いのような立場になって行動をともにしするようになります。しかし、表面上はこびていても心のなかではスカーをバカにするなど、性格の悪さは健在です。

 そんなヨキが輝いたのは、ブリッグズの廃坑街にて、吹雪が吹き荒れるなか軍が待ち構えている屋外を突破しなければならないという、追い詰められた状況でした。皆が頭を悩ませている状況で、ヨキは坑道を通って脱出する策を提案します。そして、坑道内での移動中も注意事項を知らせたり、坑道図を正確に読んでみせたりと、元炭鉱経営者という経歴を活かして活躍しました。

 その後は、ヨキの性格自体は大きく変わりませんが、物語のなかでともに行動する人間に対する身内意識を持ち始めます。そして、物語最終盤では、プライドと戦うアルフォンスたちの救援に現れ、プライドを車ではね飛ばして、アルフォンスを助けたのです。「私にもカッコつけさせろチクショー!!」と泣きながら叫ぶなど、怖さを押し殺して頑張った様も描かれました。

 さらに、ヨキは本編終了後も親族が経営していると思しき「ヨキサーカス」でキメラのふたりと生活している様子のスナップが描かれるなど、最初から最後まで登場しています。初期からは考えられない行動の数々から、心の成長も感じられるキャラでした。

●ミスターサタン:『ドラゴンボール』

 鳥山明先生の世界的人気バトルマンガ『ドラゴンボール』には、明らかにギャグキャラの雑魚扱いだったのに、世界を救うキーマンになったミスターサタンが登場します。彼は「弱いまま活躍したキャラ」の代表格のようになりました。

「セル編」で初登場したミスターサタンは、出場者のレベルが大幅に低下した天下一武道会の優勝者で、格闘技の世界チャンピオンでした。そんなサタンは民衆の後押しも受けて、セルが開催したセルゲームに参戦します。しかし、その実力は鳥山先生曰く、「ボブ・サップほど強くない」程度の常人レベルだったため、当然のようにセルに一蹴されました。

「気」による攻防をトリックと言ってバカにしたり、悟空たちを一般人扱いしたりと、「セル編」では主にギャグ担当として話を盛り上げていたサタンですが、終盤では人造人間16号の頼みで、彼の首を悟飯に投げてセル戦勝利の一因を担います。

 そして、「ブウ編」では魔人ブウと仲良くなり、対話で人を殺さないように説得したのです。この行動に感服したピッコロは、サタンの娘ビーデルに「お前の父は誇り高い世界チャンピオンだ」と語っています。

 さらにミスターサタンは、ラスボスである魔人ブウ(純粋)との戦いで、悟空が元気玉をつくる際にその人望を使って地球人に元気を分けるよう説得するなど、間接的に世界を救う活躍も見せました。もともと、怪我した犬を助けたり、皆を守るためにセルに挑んだりと、優しさや使命感を持っている人間だったサタンですが、常人でありながら悟空たちの戦いに影響を与えるその存在感は一般人キャラのなかでは別格です。