『グレンダイザーU』予告でも噛ませ犬扱いされた「マジンガーZ」

 2024年7月5日(金)深夜から放送が始まるTVアニメ『グレンダイザーU』は、かつての人気ロボットアニメ『UFOロボ グレンダイザー』のリメイク、というよりもリブート作品であり、元祖スーパーロボットこと『マジンガーZ』や『グレートマジンガー』に続く、マジンガー三部作の系譜に連なるものです。

 リブート版の監督は『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の福田己津央さん、脚本は『コードギアス 反逆のルルーシュ』の大河内一楼さん、キャラクターデザインは『新世紀エヴァンゲリオン』の貞本義行さんら豪華スタッフが集結しました。まるで先が読めない、それでいて面白いアニメになることは約束されたも同然でしょう。

 ところが、第1弾PVから「破壊されたマジンガーZの首を持つグレンダイザー」を観させられるとは。かつてのTVシリーズでは、「グレンダイザー」と「Z」の共演が実現しなかっただけに、ついに夢が実現……と思った矢先に、Zファンにはあんまりな仕打ちといえます。

 Zファンが嘆くのは、これが「Zにありがちな扱い」であるためです。時系列的にも原点に位置するため、後から来たニューカマー達の噛ませ犬にされることが、これまでもたびたびありました。

 TV版『マジンガーZ』の最終回でも、「ミケーネ帝国」に攻撃がほぼ通用せずにやられっぱなし、初陣の「グレートマジンガー」に助けられる哀れさをさらします。またOVA『マジンカイザー』では「Dr.ヘル軍団」に捕獲されて「あしゅらマジンガー」に改造され、「マジンカイザー」のパンチ一発で轟沈する体たらくでした。Zが大好きだった(元)子供の気持ちはどうすればよいのでしょうか。

『真マジンガーZERO』第1巻 原作:永井豪/脚本:田畑由秋/作画:余湖裕輝 (秋田書店)

本当に神にも悪魔にもなった「真マジンガーZERO」

 そのようなやるせない気持ちから生まれたと思しき史上最強の「マジンガーZ」が、コミックで誕生した『真マジンガーZERO』です。脚本は田畑由秋さん、作画は余湖裕輝さんという、『コミックマスター』や漫画版『ニンジャスレイヤー』の豪腕タッグによる作品で、「チャンピオンRED」(秋田書店)にて2009年から2016年にかけ連載されました。

 真マジンガーZEROは、マジンガーZ究極の姿であり、絶対に生まれてはいけない存在とされていました。自我を持った破壊の化身であり、初登場時には「ブレストファイヤー」で東京やパリ、ロンドンなど主要都市を焼き払っています。

 このスーパー過ぎるロボットを手がけた生みの親は、原作と同じく「兜十蔵」博士です。永井豪先生の原作マンガで「神がみにも悪魔にもなれる」と言ったセリフを、本当に実現してしまいました。

 その運命を必死に阻止しようとするのが、女性型アンドロイドの「ミネルバX」です。TVアニメでは1話限りの登場、悲劇の「巨大ロボット」でしたが、本作では等身大の人型であり、れっきとしたヒロインを務めました。

 人工頭脳を持ち、容赦なく人類を滅ぼしたZに対し、もしも俺があのとき乗り込んでいたら……という「兜甲児」のやり直したい思いを、ミネルバは叶えます。そう、本作は『STEINS;GATE』や『魔法少女まどか☆マギカ』と同じくループものの側面を持つのです。要するにバッドエンドだらけ。

 その結末をザックリ述べると、ただひとつの人類との共存ルートで、Zの魔神パワーをギリギリ引き出し、全長10km(Zは全高20m)のラスボス「ゴードンヘル」を無数のロケットパンチとブレストファイヤー、光子力ビームでぶっ飛ばします。ありがとうZ、よくやった兜甲児!

『真マジンガーZERO VS 暗黒大将軍』第1巻 原作:永井豪/脚本:田畑由秋/作画:余湖裕輝(秋田書店)

「グレートマジンガーに助けられた過去」を拒否るZERO! 我こそ最強!

 そこで終わればハッピーエンドだったものの、掲載誌「チャンピオンRED」では翌月から『真マジンガーZERO vs 暗黒大将軍』がスタートします。明らかに映画『マジンガーZ対暗黒大将軍』のオマージュであり、TV版とは異なりミケーネの戦闘獣をバッタバッタ倒す強いZが見られるはず、そして、あの新型ロボットも……と、期待を集めました。

 途中までは、映画版とほぼ同じ展開です。傷つきスクランダーも溶かされ、全身ボロボロになりながらも善戦するZ、ところが真打ちの「暗黒大将軍」が登場するや、絶体絶命のピンチに陥ります。そこに偉大な勇者「グレートマジンガー」が駆けつけて大将軍と対等以上に渡り合い、Zに「マジンガーブレード」を投げ渡す名シーンも再現しました。

 ところがZはそれを払いのけて拒否します。そして暗黒大将軍が「最早貴様の物語は終わったのだ!」と煽るや、これをワンパンでKO、ブチ切れたZの魔神化が再び始まりました。魔神化は敵も味方も関係なく、ただ純粋に自らを脅かすほどの力が現れたとき始まるのです。

 これは、「マジンガーZは終わったから、後番組のグレートの噛ませになりなさい」という、かつて強いられた「大人の論理」を蹴っ飛ばしたというカタチになります。そうだよ、俺たちのZがグレートになんて負けるわけがないじゃないか! あの屈辱のTV版最終回に涙を飲んだZファンの想いが報われ、人類滅亡が確定した瞬間でした。

 真マジンガーZEROは、ほぼ無敵です。7つある魔神パワーのうち「再生」や「吸収」、「強化」や完全先読みの「高次予測」もさることながら、最もヤバいのが因果律兵器でしょう。メタ的にいえば、あらゆるマンガ、ゲームなど派生作品で、敵が傷ついたり負けたりする描写があれば、絶対にその結果に導くというものです。グレートが進化した「グレートマジンカイザー」も敵うわけがありません。

 そのような真マジンガーZEROは、「神にも悪魔にも」を唯一無二に実現したZであり、凶悪な面構えや絶大な攻撃力が大きな人気を集め、ゲーム『スーパーロボット大戦V』(バンダイナムコエンターテインメント)にも参戦しました。違う意味で次元を超越しすぎた「ゲッターエンペラー」と並び立ち、「闇の帝王(『グレートマジンガー』ラスボス)」に「因果の果てに待つのが、こいつ等では絶対に勝てぬ!!」と絶望させたのは痛快すぎました。

 この通りのスペックで『グレンダイザーU』に出てくれば、真マジンガーZEROは主役を食うどころか全宇宙さえ食ってしまいかねません。もしも劇中でZが無惨にやられ、首だけになって終わったとしても、「後輩を立てるため、俺がやられ役になってやろう」と自制し、大人になったと思いたいところです。