寝ている搭乗客が犠牲、危うく飛行機が墜落寸前に

『ジョジョの奇妙な冒険』(著:荒木飛呂彦)では、敵の極悪すぎるスタンド能力のせいで罪もない一般人が巻き込まれてしまう、恐ろしい展開が多く描かれます。今回はそんななかでも、特にかわいそうな人々を振り返ります。

●第3部…「タワーオブグレー」に舌を引っこ抜かれた飛行機の乗客たち

 第3部でエジプトにいるDIOを倒すために出発した承太郎たちは、飛行機を乗り継ぐ最短ルートで向かおうとしますが、機内でいきなりクワガタの姿をしたスタンド「タワーオブグレー」が襲いかかってきます。

「スタープラチナ」でも捕まえられないスピードの「タワーオブグレー」は、自分の力を見せつけるように眠っていた乗客たちの舌を一気に4人分引きちぎり、その血で壁に「Massacre(みな殺し)!」と書いてみせました。最終的には花京院のスタンド「ハイエロファントグリーン」が倒しましたが、その後すでにパイロットたちが殺されていたことがわかり、なんとかジョセフが飛行機を不時着させる事態となります。その後、承太郎たちは陸路でエジプトを目指さなければならなくなりました。

 これは『ジョジョ』で初めてはっきりとスタンドバトルによる死者が出た戦いで、一般人の舌をまとめて引きちぎるという、衝撃的な描写で強い印象を与えました。

●第5部…「グリーン・デイ」で殺戮されたローマ市民

 第5部終盤の最凶の刺客、チョコラータは、対象の体が下に移動すると肉体を腐らせる殺人カビが襲ってくるという恐ろしいスタンド「グリーン・デイ」の持ち主でした。彼はブチャラティたちがボスの謎を知る人物と会おうとローマまで来た時に立ちはだかり、なんと一般のローマ市民たちも無差別に巻き込んだ大殺戮を始めるのです。

 まずは階段のところで立小便をしようとした酔っ払いが上半身と下半身が泣き別れ状態になり、そんな彼を見て逃げようとした友達も一気に下半身がグズグズに溶けてしまいます。その後も娘を助けるために下の方にある公衆電話から通報しようと走った男性があっという間に「崩壊」するなど、トラウマ級の場面が続きました。

 このカビは肉体の崩壊した部分を覆うように繁殖するため、攻撃された人間は即死できず、さらに死体から別の人間へどんどんとカビが感染して範囲が広がっていきます。何が起きているかも理解できず、恐ろしい状況にさらされてローマ市民はどれだけの絶望を味わったのでしょうか。チョコラータはヘリで高い位置を確保しながら移動していたので、ジョルノたちが早めに倒さなければどれほどの惨劇になっていたのか、ゾッとします。

「聖なる遺体」と合体したルーシーと大統領の能力が合わさり、恐るべき能力が出来上がる『ジョジョの奇妙な冒険 第7部』第20巻(集英社)

無差別に人を「ゾンビ」にしていくスタンド

●第7部…ヴァレンタイン大統領に「災厄」を押し付けられた人々

 第7部終盤、黒幕・ヴァレンタイン大統領の多次元を行き来する無敵のスタンド「D4C」が、「聖なる遺体」そのものとなったルーシー・スティールの能力と合わさって、「D4C-ラブトレイン-」に進化を遂げます。これはいろいろとややこしい部分も多いスタンド能力なのですが、端的にいうと「ルーシーを中心とした『空間のすき間』にこの世の『吉良(きちりょう)なもの』が集まってきて、それ以外の『災厄』は別のどこかにはじき出される」というもの。つまり、ルーシーと彼女を手中に入れている大統領への攻撃は当たらず、世界のどこか別の人に「災厄」となって降りかかってしまうのです。

 この能力によって、ジョニーとジャイロの攻撃は大統領を外れ、そのたびに彼らの目の前に何の罪もない農夫たちの頭が破壊されたり、誰かが鉄筋に押しつぶされたり、子供が戦争で殺されたり、馬車が大勢の人を巻き込む事故を起こしたりと、恐ろしいビジョンが映し出されます。この戦いでいったい何人が「災厄」を押し付けられたのか……。彼らも、遺族もなぜ死ぬ羽目になったのか永遠にわからず、浮かばれないことでしょう。

●第8部…ドロミテに「自動追尾ゾンビ」にされてしまった杜王町民たち

 第8部の敵・岩人間たちのスタンドのなかでも特に恐ろしかったのが、六壁神社の池に住む「ドロミテ」こと泥駒政次の「ブルー・ハワイ」です。名前だけはさわやかですが、この能力は本体のドロミテの体液に触れた人間をゾンビ化させ、ターゲット=東方定助を追いかけ続ける自動追尾マシーンにするという恐ろしいもの。ゾンビ化できる生物は1体ずつですが、一滴でも体液が接触すると別の人がゾンビ化して襲い掛かってくるので、ほとんど逃げようがありません。おまけにゾンビたちは自分の体が壊れてもお構いなしに、直線で向かってきます。

 そして、ドロミテがこのスタンドを発動させた結果、ただの通りすがりの少年たちや、普通に生活していた女性、男性、そこからハエにも感染し、いたいけな赤ちゃんまでゾンビ化してしまうのです。扉を開けるために自分の体を破壊しながら這って定助に向かってくるゾンビ赤ちゃんは、『ジョジョ』屈指のトラウマ描写でした。感染した人びとは、良くて再起不能、おそらく死亡したと思われます。

 ドロミテ自身は誰に感染するのか把握していませんが、関係ない人をいくら巻き込んでもOKと考えているがゆえに発現したスタンドであり、かなり邪悪な男と言えるでしょう。

『ジョジョ』作中で被害に遭った一般人たちは他にもたくさんいます。名前があるキャラでも、あの夜エジプトにさえいなければ勝ち組人生を続行できていたであろうウィルソン・フィリップス上院議員や、いきなり殺された上に奥さんが自分に化けた殺人鬼に惚れてしまった川尻浩作など、一般の人に突然襲いかかる容赦ない理不尽が印象的に描かれています。