会社にはそれぞれ出勤と退勤に定時があります。もしも会社の指示で退勤時間が定時よりも遅くなった場合は残業手当が支給されるのが一般的です。しかし定時よりも早く出勤して業務をおこなう早出出勤に関しては、強要されるだけでなく手当すら支給されない会社も多いようです。

「勤務開始時刻は8時30分のところ…」

では、一体どのように早出出社を強要されるのでしょうか。実際に早出出勤を強要されて困った経験のある、元公務員のAさん(30代後半)に話を伺いました。

ー出勤時間よりどのくらい早く出社していたのでしょうか。

「実際の勤務開始時刻が8時30分のところ、毎日6:30にはデスクにいました。私の職場ではトップの次に偉い役職の人が7:00頃、そしてトップの人が7:45頃に出勤するので、そこに合わせてお茶出しやデスク拭き、決済準備などをしておく必要があったためです」

ーそれは、職場の人がみんなでやっていたのですか?

「職場のメンバーは大半が女性だったため、上司はハラスメントを気にして男性である私のみに指示をしていました。悪しき習慣ですね」

ーそのぶん手当がついたり、早上がりになったりということはなかったのですか?

「公務員ですから勤務時間は8:30〜17:15で固定でした。私が勤めていた時は、違った時間の働き方が認められず、時間外労働として扱われませんでした。1か月にすると平日だけで、60時間ただ働きです」

「先輩より遅れると気まずいよね」

次に、元接客業のBさん(30代前半)に話を伺いました。

ーどのくらい早く出勤されてましたか。

「新入社員だと早くて1時間前にはデスクにいました。というのも、職場のルールとして出勤時刻にはオフィスに集合し、その日一緒に働くメンバーで打ち合わせをおこない現場に向かいます。しかし仕事の特性上、この打ち合わせだけでは業務開始までに情報が追いつかないためです。新人だけでなくベテランでも出勤時刻の1時間前にデスクにいる人もいたので、先輩より遅れると気まずいよねって同僚とよく話していました」

ー早めに出社して打ち合わせをカバーしていたということですか。

「そうですね。日によって業務内容や一緒に働くメンバーなどが常に変わる仕事だったので、その日にならないとサービスの流れや顧客情報をメンバーに共有できなかったのです。また社員数が多く毎回初対面の人が何人かいる状況だったので、出勤時間前の情報共有の際にその日の人間関係が構築されるような雰囲気もありました」

ー会社から早出勤務に対する配慮はなかったのでしょうか。

「出勤時間前の情報共有も勤務時間にするべきという声も社員の中であがってはいましたが、見過ごされていたように感じます。働き方改革で私が入社した頃より自由な雰囲気にはなりましたが、今でも出勤時間の30分前にはほとんど集まっているようです」

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このように一部の会社では、会社からの指示がなくとも、社員が自主的に早出出社せざるを得ない環境になっていることがわかります。上下関係が重んじられる体育会系の企業や、昔ながらのやり方が根付いた企業は、特にこの傾向が顕著かもしれません。

ネット上でも「始業時間5分前にデスクについたら、『みんな仕事しているのに』と怒られた」「就業時間前に働くなよ、俺まで働かなきゃならなくなるじゃん」など、早出出勤を問題視する声が多くあがる一方、「新たに配属された所長が、始業時間に間に合うように来れば良いと言ってくれた事で早出ルールがなくなった」「会社に長年早出を含めた時間外業務でようやく業務が成り立っていることを訴え続けたら、ようやく早出も時間外労働として認められるようになった」など、早出出勤の暗黙のルールが後に廃止や時間外労働に認められるようになった人の声もあがっていました。

社労士「早出であっても時間外手当は支払う義務が」

では法律的には早出出勤でも手当を支払われるべきなのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いてみました。

香川さん「時間外での業務なので、早出であっても残業と同じく時間外手当は支払う義務があります。ただし注意点として、会社が早出を認めていないのに勝手に来て仕事をしている場合は認められない場合があります。

例えば会社は早出を認めていないものの、早出をして業務をおこなっていることを黙認している場合です。この場合は交渉が必要になるので、労働組合がある会社であれば必ず労働組合を通しましょう。

労働組合がない会社の場合は、個人として会社と交渉することになります。もしも交渉がうまく進まない場合は、労働基準監督署への相談も必要です。

いずれの場合も、相談する前の準備として、タイムカードや給与明細を持っていくと話が通じやすいです。タイムカードを押させなかった等の場合は、仕事をしていたという証拠(手書きのメモなど)が有効となるので、日頃から業務をしていた記録は残すようにしておくようにしましょう」

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)