つまようじと言えば、持ち手側に溝があるのをイメージする方も多いのではないでしょうか? その姿がこけし人形に見えることから、「こけし」と呼ばれています。しかし、そのトレードマークである溝をなくすことを、国内で3社しかないうちの製造会社1社が決断。その背景を詳しく聞きました。

個人向けに販売するつまようじを「溝がないタイプ」に切り替える旨を発表したのは、「菊水(きくすい)産業株式会社。理由は、溝の薄さについて購入者からの声やクレーム、もうひとつは長年使っている機材の劣化問題でした。

この溝があることで廃棄が増えるという背景を知った人々からは、「溝無しは、高級感があると思う。ご英断だと思います!」「溝がないのもシンプルで綺麗ですね」と新しいデザインを歓迎する声や、「たしかに原木の廃棄も減るし新しい時代の幕開けですね」「それが真のSDGsだよね! つるんとした爪楊枝は高級な証ということで理解してもらおう!!」と資源を大事にする決断へのエールが寄せられていました。

「菊水産業」代表の末延秋恵さん(以下、末延さん)に、つまようじの「溝」を取り巻く状況や思いについて、お話してもらいました。

溝の薄さで、どんどん廃棄が…

「菊水産業」は大阪府河内長野市の地場産業であるつまようじの製造を担う1960年創業の企業です。安い海外産に押され、国内では現在3社しか残っていない中、技術を受け継ぎ産業を守る貴重な存在。末延さんは4代目として代表を務めています。

末延さんが「純国産つまようじ」の溝をなくす決断をした大きなきっかけは、購入したお客さんからの声。「『溝が薄い』っていう投稿を発見しました。自社商品について常々SNSで検索するのですが、ご購入いただいた方からの言葉でした」。これまでも、卸していた問屋経由で同様のクレームはたびたび寄せられていたなかで、決定打となったそうです。

溝問題については、同社の「純国産つまようじ」を高値で転売する事業者を撃退した記事が広まり、会社や商品が知られるようになったためか、予約販売を含め5000個もの注文が入り、最大2カ月待ちで、製造も検品も追い付かない状態になったことも大きな原因でした。

「純国産つまようじ」は問屋へ卸すのではなくメーカー直売の商品のため、社員2人と末延さんとが1本1本検品することになっていましたが、これまでにない注文量と余裕のない状況で目が行き届かなくなってしまったと語ります。

そこで、以前はここまで毎日大量に検品することはなかった末延さんですが、大量注文によって毎日工場で作業や検品、商品作りをすることで、廃棄の多さを目の当たりに。「私もめちゃくちゃ検品したからわかったことです。現場に入ったからこそ廃棄の多さを実感し、状況を改善しなければと思いました」。

これまでは、直接クレームが届いた場合、新しい商品を送ることでお客さんにも納得してもらっていたため、今後もし何万件もクレームが来てしまうことがあれば商売として成り立たなくなるのではという危機感を覚えたそうです。

では、なぜ溝の色が薄い濃いの差が出てしまうのでしょうか?

こけしをつけるようになった理由は?

「溝をつけだしたのは昭和30年代と言われていて、その頃まではなかったそうです」。

実は、その溝には業者らによる苦肉の策と、職人のプライドの歴史が…。つまようじ工場ではまず、丸軸という30センチの丸い棒を6センチになるよう5等分にカットします。その時に断面にささくれができるので、除去するために摩擦で焦がすのですが、その結果、頭の部分(上部)が黒くなってしまうことに。

「汚れのように見えるのでは」という懸念から、当時、25、6あった爪楊枝業者が話し合い、こけし人形の黒い頭に見立てて、溝をつけてみようということに。使用する円盤状の砥石には、ダイヤモンドが先に付いた道具を使って人の手で溝をつけるのですが、ミリ単位で仕上がりが変わるため、それが職人の腕の見せ所だったと言います。

こけしは「取りやすくするため」と言われることもありますが、本当に単なる飾りなのです。その飾りをつけるための砥石は、使えば使うほど摩耗。末延さんが菊水産業で働き始めた2014年から、すでに機械できれいに溝が付けられない事態は発生しており、悩みの種に。

「4、50年くらい使ってる機械だと思います。祖父が会社を設立して工場を作った時、他の事業者から譲り受けたものや、中古で購入したものみたいで。機械を作ってるメーカーもこの世になくなってしまい、会社の誰に聞いても使われ始めた年代がハッキリ把握できない状態です」

前社長は溝をきれいにつけることにこだわりを持ち、重視していて、きれいな仕上がりにならないと何日も機械を止めて調整することもあったと言います。

溝がうまくつかない原因は、機械以外にも

材料の白樺の原木を北海道にある協力工場が仕入れ、丸軸まで加工していますが、「材料は木なので湿気を吸って膨張したり乾燥して縮みます。つまようじは細いからそれだけで太さや重さが大幅に変わります。0.0何ミリ単位の膨張で砥石への当たりが強くなる、弱くなることも。その都度機械の調整はするんですが、それでも溝が薄くなることもあるんです」。

こればかりは自然素材の性質によるものなので、機械のように調整することもできません。溝がついてないつまようじの数はロットによっては数本どころではなく、ほぼ捨ててしまわないといけないこともあったそうです。

さらに、白樺は単独ではなく、周りに生えている建材の松や檜と一緒に伐採されることが多いことから収穫に大きなばらつきが。そのため、新築住宅の建築が減ったコロナ禍では切られる頻度が減って、木材の競り市などにほとんど出回らなくなる時期があったのです。

「自然のものであること、また世界情勢から、いつ材料が手に入りにくくなるかなんてわかりません。コロナで材料が入ってこなくなるとは想像さえもできませんでした。材料がないのに、溝がないだけで捨てるなんて…」と、末延さんは納得できない気持ちを抱え、なくしてもいいのではと考えが年々強まっていたなかでの、お客側からの指摘だったのです。

お客さん側からの反応は?

個人用の「純国産つまようじ」のみ溝がないバージョンとなりましたが、購入したお客さんからは「スタイリッシュ」だという声も。もともと直売の「袋入り きくすい 日本製 純国産しらかば楊枝」には溝がなく、取引先にも「溝があるタイプ」「溝がないタイプ」の両方を卸していて、「こちらのほうがカッコいい」と溝がない方を好まれることもあったそうです。

もちろん、製造する立場としても手ごたえが。「日々商品作って検品してるんですけど、明らかに廃棄分は減りました。検品は引き続きおこなっておりますが、確認箇所が減ることで負担が減っています」。

今回、個人用のみ溝を失くし、異なる箱に入れた卸用は続ける理由については、「やっぱり溝は地場産業の歴史で、昔の人が考えて生み出した技術だから残していかないといけないなと思っています。ただ従業員の負担が増え、利益が全然出ない商品になってしまうと地場産業自体が続かなくなってしまう。省けるところは省いてくことで、続けられることもあると思います」。

溝を残すために、一部商品の溝をなくす。厳しい状況が続く地場産業を守るための決断だったと言えるはずです。

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・谷町 邦子)