パートナーが「ホテルには行ったけどセックスはしていない!」と言い張ったら…? 法的にはどこから浮気と見なされるのでしょうか。「ムズイ法律を、おもしろく」をモットーに法律知識を発信するPLeX法律事務所の林孝匡弁護士が、慰謝料が発生するケースや必要な証拠、勝ち取れる慰謝料について“おもしろく”解説します。

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こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

「夫が浮気した!」
「妻が浮気した!」

と怒りにふるえ、離婚を考えている方にお届けします。

浮気の証拠を確保すればダブルパンチをお見舞いできます。すなわち、1) 浮気した妻や夫に対して損害賠償請求できますし、2) 浮気相手に対しても損害賠償請求できます。

・慰謝料が発生するケース
・どんな証拠が必要?
・勝手に携帯を見ていいの?
・勝ちとれる慰謝料額
・夫婦関係が破綻していれば慰謝料請求できない

といったテーマについて、解説します。

慰謝料が発生するケース

▽SEX

慰謝料が発生するのは、基本的には配偶者と浮気相手がSEXしたときです(不貞行為)。ラブホテルへの出入りを激写できれば裁判所は「不貞行為があった」と認定します。「朝までトランプしていました」という眠たい言い訳は裁判官から瞬殺されるのでご安心ください。

浮気相手の家へのお泊まりも裁判所はほぼ「不貞行為があった」と認定します。裁判で浮気相手は何だかんだ言い訳してきますがほぼ撃沈しています。実際にあった裁判では「浮気相手の自宅を修理していました。ドヤ!」と言い訳した男がいたのですが瞬殺されています(東京地裁 H16.9.28)。

▽イチャイチャ

SEXしなくても慰謝料が認められることがあります。

【裁判例 vol.1】

実際にあった裁判では、夫は糖尿病を患っておりSEXできずベッドで浮気相手とイチャイチャしてただけなのですが、裁判所は「不貞行為だ」と認定しました(東京地裁 H25.5.14)。難しい言葉でいうと、イチャイチャだけでも「妻の婚姻共同生活の平和維持という権利または法的保護に値する利益を侵害する」と判断されたのです。

【裁判例 vol.2】

あと、ホントウにあった怖い話なのですが、夫が浮気相手とカーセックスしようと服を脱いだそのとき!妻がドアを開けてきた地獄絵図事件もあります(千葉地裁 R4.6.23)。SEX直前でしたが裁判所は「不貞行為だ」と判断しました。

どんな証拠が必要?

慰謝料請求するにはゼッタイに証拠が必要です。裁判になると、浮気相手や配偶者は2億%「SEXしてない」と反論してくるので、証拠でトドメを刺す必要があるのです。

以下のような証拠を集めましょう。

・写真、動画
・メール、SNSでのやりとり
・録音
・領収書、クレジットカードの利用明細
・カーナビの履歴...etc

▽写真、動画

一撃で仕留められるのは、写真、動画です。揺るぎないです。ラブホテルへの出入りを激写できれば1発KOできます。ただ、素人がやるとほぼ失敗するのでプロの探偵に依頼するのが無難です。

▽メールなど

誰が読んでも確実にSEXしたと判断できる文章であれば裁判所は不貞行為を認定します。でも、ふんわりした文章だと負けることが多いです。

【裁判例 vol.1】

「愛してる」「大好き」というメールがあったのですが裁判所は不貞行為を認定しなかったものがあります(東京地裁 H25.3.15)。

【裁判例 vol.2】

ほかの裁判でも、夫から浮気相手へのメールに「え〜今日こそイチャイチャしようと朝から楽しみにしてたのに」「生理か。ちょっと早かったのかな」「いっぱいぶちゅぶちゅして過ごしたいよぅ」「帰るね。疲れた。おっぱい」という赤っ恥文章が書かれていたのですが、裁判所は不貞行為を認定しませんでした(東京地裁 H24.11.28)。ナゾです。

しかし、「このメールは夫婦の婚姻生活の平穏を害している」として慰謝料30万円が認められました。ですので、色々なメールなどを確保することをオススメします。

勝手に携帯を見ていいの?

裁判例は分かれています。

配偶者の携帯を勝手に見てそのメールを裁判所に提出した事件で、ある裁判では「違法収集証拠なので証拠として認めない」(東京地裁H21.12.16)とされましたが、別の裁判では「証拠として認めます」(東京地裁 H21.7.22)と判断されています。

ここは出たとこ勝負です。裁判官によっても考え方が変わります。証拠として認められなかったとしても別に不利益はないので、ダメ元で証拠提出するのもアリです。

▽車にGPSを取り付けていい?

OKと判断した裁判があります。夫が妻の浮気を疑い、妻の車にGPSを取り付けて妻の行動を把握したんです。裁判所は証拠として認めました(東京地裁 H25.10.9)。

勝ちとれる慰謝料額

おおむね10万円〜300万円くらいです。裁判所は以下の事情などを総合考慮して金額をハジき出します。

(以下、X:あなた A:配偶者 Y:浮気相手)

・婚姻期間
・子どもの年齢、養育状況
・不貞の期間、回数
・AとYのいずれが主導的であったか。
・XがYに対して「Aとの関係を絶ってほしい」と申し入れたか
・XとAは離婚したか
・XA間が悪化した原因がAYの不貞行為以外にもあるか
・XとAの夫婦関係が円満であったかどうか
・同居か別居か
・Xも別人と不貞関係にあったか
・XはAを許しているか
・XのYに対する報復行為の有無、 内容...etc

人生いろいろ、男もいろいろ、女だっていろいろ、不倫関係はカオスなので、さまざまな事情を考慮して裁判官が金額をハジき出すのです。

浮気相手とご対面

ケジメをつけようと思って、浮気相手と会って話をしたい方もいらっしゃるでしょう。慰謝料を支払ってもらおうと思い、念書へのサインを求められる方もいるかもしれません。

注意しなければならないのは、高額すぎる金額は無効だということです。

実際の裁判では、夫が妻の浮気相手をファミリーレストランに呼び出して【慰謝料1000万円】という念書にサインさせた事件がありました。裁判所は「たかすぎ...。150万円だけ認める。それ以上は公序良俗に反して無効」と判断しました。

<アドバイス>

しかし…配偶者の浮気相手にお仕置きをする時は、ちょい高めの違約金を書いた誓約書にサインしてもらうのがいいですね。裁判官が「これくらいは違約金をもらっていいでしょ!」というラッキーパンチを与えてくれるかもしれませんから。仮に高すぎたとしても裁判所が相場の金額を認定するだけで、マイナスにはなりません。

夫婦関係が破綻していれば...

残念なお知らせです。夫婦関係が破綻していれば慰謝料請求は認められません。すこしカタ苦しくなりますが理由をご説明します。

そもそも浮気で慰謝料が発生するのは、婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害するからです。そうすると、夫婦関係が破綻していたときに浮気相手が配偶者とSEXしたとしても、別に婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害したとはいえないからです(最高裁 H8.3.26)。

「どういった状況なら破綻していると認定されるか?」ですが、別居期間の長さ、家庭内別居の状況、2人の冷えっぷりなどさまざまな事情を考慮して裁判官がジャッジします。

裁判になれば浮気相手はほぼ「この夫婦はすでに破綻していた!」と反論してきます。あがいてきます。肉体関係の前に夫婦関係が破綻していたと認定されたら浮気相手が勝つからです。今日もどこかの裁判所で「夫婦関係は破綻していたか?」について熾烈な戦いが繰り広げられていることでしょう。

▽浮気相手に慰謝料請求したい方へ

夫婦関係がオワっていたと認定されたら負けです。ですので、弁当を作る、ねぎらいのLINEを送るなどしてみてください。裁判所に「こりゃ形だけだな...」と思われたら負けですが「夫婦関係は瀕死寸前だけど、いまだご存命!」と思ってもらえたら勝ちです。

裁判では、絶対的な真実はありません。【裁判官の目に映る事実】が【真実】です。

慰謝料請求の交渉や訴訟をご自身で行うのは至難のワザなので、離婚問題に詳しい弁護士に相談することをオススメします。

弁護士さんから必ず言われるのは「証拠はありますか?」です。配偶者や浮気相手に慰謝料請求したい方は、今日から証拠あつめに奔走しましょう。

◆林 孝匡弁護士 PLeX法律事務所
「ムズイ法律を、おもしろく」がモットー。情報発信が専門の弁護士です。多くのwebメディアで法律知識をお届け中。おもに男女問題や労働問題。

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