3度目の緊急事態宣言が出されました。医療逼迫の状況も改善されず、不安が広がります。感染収束の切り札のひとつであるワクチンについて、現状と課題や今後について、海外事例も参考に、考えてみたいと思います。

国内のワクチン接種の現状

 日本国内のこれまでのワクチン総接種回数は348万9719回、内訳は、医療従事者334万8013回、1回目は235万2255回、2回目99万5758回(4月28日)、高齢者14万1706回(4月29日)です。一回でもワクチンを接種した人の全人口に占める割合は約2%です。

 医療従事者は2月17日から、高齢者は4月12日から接種が始まり、今後、高齢者施設の従事者や基礎疾患のある人、60〜64歳の人、16歳以上の一般の人の順番で接種が行われる予定です(開始時期などは未定)。

 現時点では、国内で承認されているのは、米ファイザー製ワクチンのみで、その輸入量は約856万回分(約428万人分)です。日本政府は、ファイザーとの間で、2021年内に1億4400万回分(7200万人分)の供給を受けることで合意(※9月末までに、16歳以上の対象者約2億2000万回分(1億1000万人分)供給で合意との話もあり。)、6月末までに1億回分以上を確保する予定です。4月到着分は約1226万回分(約613万人分)、5月は4300万回分、6月も4300万回分以上が届く見通しです。

 政府は、英アストラゼネカと米モデルナとも契約しており、アストラゼネカ製は1億2000万回分(6000万人分)、モデルナ製は5000万回分(2500万人分)の供給を受けることになっていますが、いずれも国内での承認を申請し、審査中です。

7月末までに高齢者の接種完了?

 「7月までに3600万人の高齢者の接種を完了する」との政府方針が示されました。ワクチン接種は感染収束に向けた切り札であり、政府に対する様々な批判がある中で、懸命に取り組んでいる姿勢を示したい、ということは理解します。

 しかし、一方的なかけ声ばかりで、「具体的にどうすればそれが可能なのか」が示されないことに、強い違和感を覚えます。実際にワクチンの接種を行うのは、全国の地方自治体です。自治体はこれまでも、住民に対する様々なワクチン接種の主体となってきているわけですが、新型コロナは、急速に世界に感染が拡大した新興感染症で、世界中が対処に苦慮している真最中であり、そして新型コロナワクチンは、人類がこれまで使ったことのないmRNAワクチンで、超低温での保管など厳格なルールがあります。

 こうした状況では、国からワクチンが配布される具体的なスケジュールや量などを、早い段階で示すとともに、各自治体が迅速な接種をできるようにサポートが行われなければ、「手元にワクチンが無い。いつどれくらい国から配布されるのかもわからない。そういう状況で、接種や会場の人の手当ても十分にできていない」状況において、突然「あと3か月で全部終わらせろ」と言われても、自治体は困惑するばかりです。

 もちろん何であれ、「期限を決めて、このときまでにやる!」と決めて取り組むことは、目標を実現するための戦略として有用な場合も多いと思いますし、感染症対策として、迅速にワクチン接種が進められていくことは、望ましいことです。

 ただ、日本はまだ、人口の約2%しか接種が行われていない状況で大切なことは、「必ずいつまでに何人」ということをガチガチに決めて、それに過度にとらわれるよりも、国が為すべきことは、①短期的には、ワクチンを海外から入手して配布し、全国で接種体制を整え、実際に着実に接種が進むように、無理を課さずに、できることを自治体に精一杯やっていただく、そして、②中長期的には、日本がワクチンの開発・製造力を失った歴史的経緯も踏まえ、改めて、今後の方針を考え、改善・実行すること、だと思います。

 なお、国内の医療従事者(約480万人)で2回の接種が完了したのは、まだ約2割(99万5758人、4月29日)です。少なくとも、「ワクチン接種に従事する医療従事者の方が、ワクチンを接種できていない」という状況は、速やかに改善すべきと思います。

「大規模接種会場」の新設

 上記①の方針を実現する一環ということで、東京と大阪で、国直轄の大規模ワクチン接種会場を設置するとのことです。欧米では、野球場、競技場、博物館、大型駐車場等も、接種会場として使われ、ドライブスルー方式等も採用されていますので、大規模接種会場の設置自体は、あり得ることだと思いますが、問題は、人材の活用方法や高齢者にかかる負荷などです。

 まず、1か所で「1日1万人接種」というのは、現実的ではないのでは、と思います。例えば、米ニューヨークの野球場ヤンキースタジアムも1日2000人程度、通常の集団接種会場は、一日数百人程度に接種が行われています。

 何人の確保を予定しているか分かりませんが、接種だけではなく、誘導、受付、問診、瓶から注射器に移す作業、接種後の待機時の管理等、様々な作業への人員確保が必要になります。

 大規模接種会場では、国が直接命令を出すことができる自衛隊の医官や看護官を活用するとのことです。それぞれ1000人ほどの医官・看護官が、全国の自衛隊病院や基地等で従事しているわけですが、①動員が可能であるならば、今現在、関西の「医療逼迫」と言われる地域に送っていただくことは、なぜできないのか(実際に昨年12月には、北海道旭川の病院に自衛隊の看護官10名が送られました。)、②新型コロナワクチンの接種に協力したいという開業医・看護師の方も多くいらっしゃると思いますので、限られた人材の有効な活用という観点からは、この接種会場での自衛隊の医官・看護官の全面活用には、疑問を感じます。

 また、東京大手町の大規模接種会場では、一都三県の高齢者が来ることを想定しているとのことですが、「高齢者にとっては、わざわざ都内に出ていくのはしんどい」「感染がこわいから電車には乗らないようにしている」といった声もあります。それぞれのお住まいの近くで早く接種ができるようにするのが望ましいわけですが、やはり難しいでしょうか…。

 なお、特に変異株は、若年層・壮年層にも感染し、重症化・死亡するケースも増えていますので、高齢者のワクチン接種さえ済めばもう大丈夫、ということではない、ということも、改めて申し上げたいと思います。

五輪参加者への医療資源の提供が優先?

 五輪組織委員会は、看護師500名、医師(スポーツドクター)200名の東京五輪へのボランティア参加を求めています。五輪の選手村には、24時間運営の総合診療所と検査所が設置され、都内約10か所・都外約20か所の指定病院を確保し、選手にコロナ陽性、熱中症などで入院が必要になった場合には、優先的に入院させることにするとのことですが、もし五輪開催中に、東京や近隣県の医療状況が逼迫していたら、どうするのでしょうか?そのとき、国内に多くの入院や治療待機者がいても、五輪参加者を優先させる“命の選別”を行えるとする、合理的理由は何でしょうか?

 もちろん、五輪を開催するのであれば、主催国として医療体制を整備することは必要でしょうし、緊急事態宣言が出されているとはいえ、日本は、世界の中では、相対的に感染者数は少ないといえば、それはそうでしょう。しかし、相対的に感染者数が少なく、そして、人口当たり病床数が世界一なのに、1年4か月経っても、大変残念なことに、十分な病床を確保することができず、入院待機中に亡くなる方が続出しているという現実があります。直接お話をうかがいますが、新型コロナ対応に当たる現場の医療従事者の方の疲弊と緊張は相当なものです。

 「現在休んでいる(=現場を離れている)たくさんの看護師さんがいるから可能だ」ということだそうですが、育児・介護、体調不良等、現場を離れているには、基本、それ相応の理由があります。こうした潜在看護師の活用問題は、以前から指摘されていますが、なかなか解決していないのが現状です。

 本当に、数百名の医療従事者を動員することが可能なのであれば、今現在、医療従事者が疲弊・不足し、入院待機中に亡くなる方が増えている地域に助けに行っていただく、あるいは、大幅に遅れているワクチン接種を進めていただく等、国民が、「やってほしいと切望していること」は、他にもたくさんあるように思います。

 こうした疑問に対する明確な説明が無いことが、国民の不信感をますます増大させてしまっているように思います。「実際に五輪が始まれば、国民は盛り上がるから大丈夫」という見込みもあるようですが、そんな甘いことでいいのだろうか、と思わざるを得ません。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。