新型コロナ第8波に突入かと言われます。

新型コロナについて、ずっと以前から気になっていることで、最近さすがに看過できないなあ、と思うことがあります。(言い始めると、いろいろあるのですが、今回は、そのうちの一つだけ。)

それは、人々の判断や行動に大きな影響を与える「調査研究の論文や各種データ」について、誤解を誘発する引用の仕方が、あまりに多く見られるということです。

おそらく、意図的にわざとそうしているということではなく、その研究の全容を正確に理解することなく、結果の数字の部分だけを取り出してしまっているために、起こっていることだろうと思います。そうは言っても、生命や健康に関する重要な情報に関し、人々に誤ったメッセージが伝えられてしまうことは、望ましいことではありません。

一般に、専門的な調査研究の結果を解釈するに当たっては、「どういう人たちを対象に、どういう調査を行った結果であるのか。」ということが、非常に重要です。(さらに言えば、「どういった統計手法を用いて、どのように分析した結果であるのか。」も大事ですが、今回は、そういったことには踏み込みません。)

例えば、年代や基礎疾患の有無などの点で、「広く一般の方に当てはまること」なのか、それとも、「リスクの高い特定のグループの方についての話」なのか、それによって、その結果に基づき、「どういう方が、なににどれくらい気をつけなければならないのか。」が、大きく変わってきます。

ひとつ具体的な例を挙げますと、第7波(2022年7月1日〜9月30日)における、東京都の新型コロナ死亡率と死亡者数は、総計で0.091%、1342人(※)ですが、年代ごとに大きな差があり、10代:0.0031%(10人)、20代:0.002%(6人)、30代:0.002%(6人)、40代:0.009%(22人)、50代:0.025%(46人)、60代:0.075%(64人)、70代:0.404%(231人)、80代:1.434%(530人)、90代以上:2.958%(427人)となっています。

(※)ただし、1342人のうち、新型コロナを直接の死因とする方は53.5%、新型コロナ以外は29.5%、不明が17.0%とされています。

すなわち、どういう属性の方のデータなのか、によって、数値は大きく変わってくるのであり、他の様々な調査研究についても、こうした点に留意をして、判断・解釈をする必要があるということになります。

「新型コロナとインフル同時感染によるリスク」のデータ

そうした観点から、最近メディアでよく引用され、それに基づいて医療現場などで使われているとされる「コロナとインフルに同時に感染したら、『人工呼吸器を装着するリスクが4.14倍、死亡するリスクが2.35倍』になる」という調査結果について、考えてみたいと思います。

この数字だけを見ると、「え!? 若い人・現役世代の人は、新型コロナに感染しても、死亡率がほぼゼロなのに、インフルと同時に感染した途端に、いきなり、重症化や死亡率が、爆上がりしちゃうの? そりゃ、大変だ!!」といった感じで受けとめられているようですが、いえ、これは、そういう話ではありません。

私は、この数字の扱われ方に違和感を覚え、論文と資料の原文(「ランセット」(英国の医学研究雑誌・英語版))を、熟読してみました。そして、以下のことが分かりました。

この研究データは、「『高齢の入院患者』のグループを比較して、新型コロナ単独の感染より、新型コロナとインフルに同時感染した場合に、人工呼吸器装着や死亡のリスクが高まる」という話でした。

つまり、「『高齢者が、新型コロナに感染し、症状が深刻で入院をしている」場合に、インフルエンザにも感染していたら、より一層リスクが高くなりますよ。」という話ですので、新型コロナにかかっても、通常、無症状か軽症ですむことの多い若い人や現役世代の人が、インフルに同時にかかったら、いきなり、重症になったり亡くなったりするリスクが、急激に高まる、という話ではありません。

もちろん、新型コロナもインフルも、感染しないに越したことはありませんし、(場合によりますが)単独の感染より、複数の感染症に同時に罹患したら、一定程度、症状が重くなることも想定されることです。どの属性の方でも、できるだけ、感染しないように気を付けることは、本人や社会を守るために意味があります。

しかし、だからといってそれは、「新型コロナに感染した若い方や、感染しても入院するほどの症状が出ていない高齢者の方が、インフルにもかかったら、『人工呼吸器を装着するリスクが4.14倍、死亡するリスクが2.35倍』になる」ということとは、全く話が違います。

こうした生命や健康に関するデータについては、人々を過剰に不安に陥らせたり、逆に過度に楽観的にさせたりすることのないよう、できるだけ丁寧に、正確なメッセージを発する必要があると、私は思います。

(※)本研究調査においては、「多変量ロジスティック回帰分析」という統計手法が用いられており、年齢、性別、合併症の数、パンデミック開始からの日数などの変数(交絡因子)による調整が行われています。

なお、「ひとつの研究データからは、ひとつの結論が出る」と思われがちですが、同じデータを用いても、交絡因子や仮定の設定の仕方によって、違う分析結果が出てくる(同じ事象について、分析者や方法によって、評価・結果が変わる)こともよくあります。それくらい、複雑で難しいものであるということは言えると思います。

調査内容を詳しく見てみると…

新型コロナとインフルの同時感染に関するこの調査は、以下のように行われました。

①「調査対象は、英国において、第1波、第2波の非常に死者数の多かった頃の入院患者」

調査対象となったのは、2020年の2月6日から2021年の12月8日までの間に、英国で新型コロナに罹患して入院した患者です。

この時期は、まさに欧米の第1波、第2波で、新型コロナウイルスの何たるかも分からず、治療法も分からず、ワクチンも治療薬も無い、特に欧米では、べらぼうに死者や重症者が多く、重症化率や死亡率が、今よりも、各段に高かった頃です。

また、論文でも述べられているとおり、「多くの患者が、ワクチンが入手可能となる前の入院患者なので、単発の感染と同時感染の結果におけるワクチンの効果については勘案できていない」ということになります。

②「調査対象の平均年齢は、68歳(同時感染したグループ)と64歳(新型コロナのみ感染したグループ)」

調査対象となったのは、新型コロナに感染し入院した6965人で、その中でインフルにも同時に感染していた227人の平均年齢は68歳で、新型コロナに単独で感染した6382人(全体の6965人から、インフル感染の227人、アデノウイルス感染の136人、RSウイルス感染の220人を引いた人数)の平均年齢は64歳でした。

なお、18歳以下は、そもそも調査から除外され、結果的に調査対象となったのは、50代以上の方だけでした。

③「対象は、病院に入院した患者(そもそも症状の重い患者)」

入院した患者というのは、基本的に深刻な症状があって入院しているのですから、入院した状態から、さらに、人工呼吸器装着や死亡という経過を辿ることになるリスクというのは、無症状や軽症の人がそうなるリスクに比べて、当然のことながら、ずっと高くなります。

つまり、スタート地点が「すでに入院した状態」で、そこで、新型コロナとインフルに同時感染していると、単独感染の場合よりも「人工呼吸器を装着するリスクが4.14倍、死亡するリスクが2.35倍になる」ということで、軽症・無症状の人がそうなる、という話ではないということです。

◇ ◇

…こうして見てくると、調査結果の数字だけを切り取って示すことによって、結果として「広く一般に、新型コロナとインフルに同時感染したら、重症化や死亡のリスクが急激に高まって、大変なことになる!」というような誤った印象を与えてしまうことは、統計学や公衆衛生学その他諸々の基本を無視しているというだけではなく、いたずらに、社会や国民を不安に陥れるおそれがあり、避けるべきことであると、私には思えるのです。(繰り返しになりますが、過度に楽観視させるようなことも、同様に避けるべきです。)

今回、ご説明のために研究事例をひとつ取り上げましたが、こうした問題は、本当にたくさん、広く見られるところです。

どういう方法が適切か?

上記を踏まえると、本来は、研究調査の結果を示す際には、「リスクが〇倍になる」という数値だけではなく、「どういう属性の、どういう人たちについて行った調査であるか」に関する、最低限の基礎情報を、同時に示すことが必要だと思います。(今回取り上げたような、特定の属性を持つグループに関しての調査研究である場合には、特に。)

こうした生命や疾病にかかわる調査研究というものは、人々を助けるためのものです。「その結果がどういうことを意味し、どういう方がどういうことに気を付ける必要があるのか」といったことを、できるだけ正確に理解していただけるようにすることが大切ですし、それが、人々の生命を救い、健康を守り、未知の感染症との戦いにおいて、冷静にそして前向きに、人類が着実な一歩を進めることに、つながっていくのだと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。