ペットは法律上「物」として扱われていますので、ペットが第三者から加害を受けて死亡した場合、飼い主は、加害者に対して、ペットの時価相当額の賠償請求をすることができます。ところが、ペットの市場価格は、幼少期がもっとも高く、年齢を重ねるごとに低下していくことが一般です。今回は、裁判上、ペットの時価額が問題となった事例をご紹介します。

▽1 名古屋地方裁判所・平成18年3月15日判決

ミニチュアダックスフンドが、雑種犬に噛み殺されたという事案です。ダックスを幼犬の時から飼育してきた飼い主家族は、ペットは成犬であっても幼犬時代の流通価格以上の価値を持つとして、購入価格である15万円余りの賠償を請求しました。

裁判所は、ダックス購入から約5年半が経過していることから、ダックス死亡時の時価額は購入金額の3分の1程度であるとして、時価相当額として5万円の賠償を認めました。

そして、原告らが主張するような「幼犬の時から飼育してきた犬には流通価格以上の価値がある」との主張は慰謝料の斟酌事由とすべきだとして、時価相当額とは別に、家族3人合計して50万円の慰謝料を認定しました。

そもそも、愛するペットを喪った飼い主からすれば、そのペットの「市場価格」を加害者に賠償させるという法律の発想自体に嫌悪感を抱くことでしょう。まして、その「市場価格」が年齢を重ねたという理由によって低減させられることに、納得がいく方は少ないでしょう。

この点で、長年連れ添ったという事実を価値の問題ではなく慰謝料の問題であるとして扱った裁判所の判断は正しいと考えますし、長く飼えば飼うほど愛着も深まり、したがって喪ったときの精神的苦痛もまた大きくなる、という考え方も常識的なものと言えるでしょう。

▽2 大阪地方裁判所平成21年2月12日判決

これは、18歳の猫「ハナ」が紀州犬に噛み殺され、猫の飼い主が紀州犬の飼い主に慰謝料の支払いを求めて訴えたという事案です。

紀州犬の飼い主側は、「ハナ」はもともと無償で譲り受けた雑種の猫であり相当な高齢でもあったから財産的価値がなく、よって「ハナ」の飼い主には財産的損害が発生していないから不法行為責任も認められないとして争いました。

裁判所は、確かに上記のような事情からは「ハナ」の財産的価値は皆無に近いと考えられるとしました。

しかしその一方で、「愛玩動物を無惨な形で死亡させた場合の飼い主の精神的苦痛は、むしろ、その飼育期間に比例して増大するものと考えるべきであるから、被控訴人の主張は当を得ていないものといわなければならない。」と示して、被告である紀州犬の飼い主の反論を退けました。

ここでもやはり、飼い主の精神的苦痛の程度は飼育期間に比例して増大すると判断されています。

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ペットが法律上「物」として取り扱われており、実際にペットショップやブリーダーから購入することができる存在である以上、ペットに関する賠償事件では、ペットの財産的価値が賠償額の限度として意識されざるを得ません。

「飼い主の精神的苦痛は、むしろ、その飼育期間に比例して増大する」という裁判所の慰謝料判断は、この点に風穴を開けるものです。命があり、成長するペットの賠償については、経年劣化や減価償却処理がされるような単なる物品とは別の扱いがなされるべきであり、また飼い主の愛情を十分検討・考慮した上で、その「財産的価値」以上の慰謝料を認めていくべきであると考えます。

◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。