自民党の世耕弘成前参院幹事長(和歌山選挙区)が、和歌山県内の有権者に渡した高級洋菓子店のクッキー缶が注目されている。値段の高さもさることながら、紹介者がいないと購入できないシステムや、手元に届くまで長期間を有するというプレミア感も相まって話題を集めた。店にとっては令和の「政治とカネ」問題に巻き込まれた形だが、実は昭和の政治とカネの代表格「ロッキード事件」にも登場していた。

世耕氏を巡っては、派閥パーティー収入の還流金を使い、この高級洋菓子店で「贈答品」を繰り返し購入していた。また同氏支援者が昨年11月、ブログで都内のホテルで同氏と会食した際、同氏からこの店舗のクッキー缶をもらったと記載。共産党機関紙「しんぶん赤旗」日曜版が、選挙区内の有権者への寄付を禁じた公選法に抵触する恐れがある報じた。同氏は政治倫理審査会で「個人的に用意したもので、私の資金管理団体の収支とは一切関係ない」とし、違法性はないとの認識を強調した。

クッキー缶を販売しているのは、都内に店舗を構える老舗。ホームページによると、創業1874年で日本において初めての日本人による洋菓子専門店としている。皇族や政府関係者、国会議員らにも愛されてきた。クッキー缶はサイズが複数あり、2022年8月の価格改定のお知らせでは、23年9月からは8000〜3万4500円としている。しかし予約は困難で、食べ物にも関わらずフリマやオークションサイトで転売される人気ぶりだ。

1981年にロッキード事件の法廷に登場、田中側の証言覆す

思わぬ場面で注目を浴びた老舗店だが、40年以上前の1981年にも政治とカネの舞台に登場している。ロッキード事件では、田中角栄元首相が5億円の賄賂を受け取った場所が争点となっていた。検察側は英国大使館裏の路上で受け取りがあったとしたが、81年10月の公判で田中側は否定。英国大使館のそばにその高級洋菓子店があったことなどから「菓子を取りに行っただけ。検察の調書に書いてあることは何らかの勘違いだった」などと主張した。そこで洋菓子店の当時の女性店主が検察側の証人として登場。店主は田中側が菓子を取りに行ったと主張する日、「店が休みだった」と証言。田中側の主張の信ぴょう性が揺らぐ結果となった。

田中元首相の金脈問題を雑誌で追及して退陣に追い込んだ評論家、立花隆氏の「軍師総帥田中角栄の反攻 ロッキード裁判傍聴記3」を見ると、田中側は「休みを知らずに来る客もあるのでは」「店に来てしまって玄関をたたく客がいるのでは」などと食い下がったが、店主は「電話の予約制だからふいに来る客はいない」「表戸を閉めてしまう」などと、ことごとく可能性を否定したという。立花氏は「この証人は実に気持(ち)のよい証人だった」と記す。裁判では元首相の権力を恐れ、嘘をついたり、逃げ口上を繰り返したりする証人が多かったが、店主は「権力に対するこびへつらいなど微塵(みじん)も感じさせず、どんな質問にも明快にきっぱりと答えていく。ロッキード裁判の全法廷を通じて、最も記憶に残る証人の一人である」と最大の賛辞を送っている。政倫審に出席したセンセイ方に見習ってもらいたいものだ。

(まいどなニュース/神戸新聞・堀内 達成)