牡蠣の養殖は広島県が有名だが、大阪府阪南市の西鳥取漁港では6年前から牡蠣の養殖に取り組んできた。「ぼうでの牡蠣」として知る人ぞ知る阪南の名物になっている。

■「海の神様に導かれるように」始まった牡蠣の養殖

阪南市にある西鳥取漁港(旧、波有手(ぼうで)地区)では、牡蠣の養殖を始める前はノリ養殖、シラス漁、底引き網漁などが中心に行われていた。しかし若者の流出、人口減少、高齢化という問題を抱えている。

なんとか地元を盛り立てて活性化させるため、何ができるだろうか。「阪南の海でできること」を探した結果、水産庁が「安定収入の確保」を目指して立ち上げた「浜の活力再生プラン」として二枚貝の養殖をやることになった。はじめに少量のアサリと牡蠣で試したところ、阪南の海は牡蠣に適した環境だと分かった。

だが、この地区では今まで牡蠣の養殖をやったことがない、未経験からのスタート。しかも漁業法には区画漁業権というものがあって、ここで牡蠣の養殖をやるには許可が必要だった。ところが以前に「牡蠣養殖」の許可を取得したまま半ば忘れられていたことがわかり、漁業権の問題は解決した。

養殖方法は、三重県や岡山県の養殖業者から学んだ。

養殖用のイカダも必要だ。たまたま別の用途のため四角に組んだパイプがあったので、これにフロートをつけて養殖用のイカダをつくった。夏場は水面から1メートルほど下げて吊るす。冬に水揚げする頃には、10センチほどに成長している。

「まるで海の神様に導かれるようにして始まった」と、地元の漁師さんはいう。

■養殖方法を教えてくれた鳥羽の養殖業者も絶賛

牡蠣養殖を始めた初年度、西鳥取漁港の漁師さんたちは地元で育てた牡蠣を携えて、養殖方法を学んだ三重県の鳥羽へ向かった。それを養殖業者に試食してもらったところ、「いい牡蠣ができましたね。こっち(鳥羽)の牡蠣より旨いじゃないか」と激賞されたという。

その言葉に自信を得て、本格的に西鳥取漁港総出で牡蠣養殖に取り組むことになり、養殖イカダを増やした。6年前、生産量6000枚から始まった牡蠣養殖は、2020年には約3万枚に増えている。

西鳥取漁港では毎冬1月半ば頃になると、海辺に鉄パイプとビニールシートで組んだ仮設の「牡蠣小屋」を設営して、牡蠣をはじめ阪南の海でとれた海産物をその場で食べられる場を提供してきた。

牡蠣養殖を始めてから3年ほど経った頃、いくつかのメディアが取り上げてからは認知度が上がり、訪れる人は年々増加。2020年には約4000人が牡蠣をはじめ阪南産の海の幸を堪能した。

実際に、どれくらい美味しいのか?

取材に訪れた日、数種類の牡蠣料理をいただいた。じつをいうと筆者は、牡蠣の食感と生臭さが苦手だった。少しばかり勇気が要ったけれど、まずは「牡蠣とムール貝のアヒージョ」を一口食べてみた。オリーブオイルと牡蠣の旨味が絶妙なバランスを保ち、生臭さを感じない。そのあと貝殻ごと焼いた「焼き牡蠣」「牡蠣とニンジンの葉を使ったかき揚げ」「牡蠣の握り寿司」と続いたが、どれも牡蠣の旨味が上手に引き出されている。そしていつの間にか、牡蠣嫌いを克服していたのである。

同行した友人は、もともと牡蠣は好物。それでも阪南の牡蠣は「濃厚な旨味がやみつきになる。阪南の海の恵みがぎゅーっと詰まっている感じ」「どの料理も牡蠣の旨み出汁がきいていて最高に美味しい」「今まで食べた牡蠣が水っぽかったのかなと感じるぐらい、濃厚な甘みがある。牡蠣への概念が変わりました」と絶賛していた。

■年間を通して旬の味を提供したい! 常設の牡蠣小屋を建てよう

西鳥取漁港では牡蠣のほかにも、定置網や底引き網、ワカメや海苔の養殖なども行っていて、海産物が豊富にとれる。今年は新型コロナの影響で従来通りの牡蠣小屋を開設できず、販売のみになってしまった。今後は牡蠣小屋を常設する計画があって、「ぼうでの牡蠣」にちなんで「ぼうでちゃん」というキャラクターもつくった。実現すれば、大阪湾でとれる旬の海産物を、年間を通して味わえる観光スポットになるだろう。そのための資金を今、クラウドファンディングで募っている。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)