本物のナンが、ナンと時計になりました。見ているだけで、時間感覚がここではないどこか別の世界へと溶けだしていくかのようなふしぎな時計…SNSで注目が寄せられています。

「ついに登場!NAAAAN time!通称『今、ナン時』…!!!予約受付中です」

「時計を見ると、ゆるりとしたフォルムのナンが時間を教えてくれます。あまり細かいことを言わず、だいたいの時間感覚で、ナンのゆるりとしたフォルムのようにゆる〜く、のんびりと生きていきたい。」

…という言葉とともに、本物のナンから作られた「ナン時」の画像が投稿されたのは2月15日。ツイートには「欲しい」「絶対に買う」という声のほか、「ナンだこれ…」「ナンだかダリっぽいですね、、」など「ナン」に触発されたコメントがいくつも集まりました。

 ツイートしたのは、森田優希子さんのアカウント、パンプシェード PAMPSHADE(@pampshade)。森田さんは以前から、本物のパンの中身を「美味しくいただいてから」防腐防カビ処理を施した後に、優しい光を放つインテリアライト「パンプシェード」を制作し、販売してきました。今回の時計は「サルバドール・ダリの代表作、『記憶の固執』、別名『柔らかい時計』からインスパイアされて生まれました」と同店HPに記されています。詳しい話を聞きました。

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――「パン」という素材のどこにそんなにも惹かれるのでしょうか?

 わたしは芸大を出て、アーティストとして活動を開始しました。以前、パン屋でアルバイトしていた時に、香り、かたち、味わい、その全てに惹かれたんです。美味しいパンは人を笑顔にする力がある。イーストが生地を発酵させて、それを人の手で成形し、かまの中で焼き上がるパン…という、その存在そのものが魅力的で面白い、自分のクリエイティブな感性を最もかき立てるもの。職人さんによってつくり出される有機的なパンという存在を使って、クリエイトしていきたいんです。

――創作の上で欠かせないものなんですね。「ナン時」はダリの絵にインスパアされたとのことHPで拝見しました。

 日ごろ、パンプシェードを作るために、さまざまなパンに囲まれて生活しています。だからいつも頭の中に多様な形状のパンのイメージの引き出しがあって、それが、外の世界で自分が目にする全てのものに結びついていきます。

 ある時、あらためてダリの絵を見る機会があり、「記憶の固執」が瞬時にナンとオーバーラップしました。そこが出発点です。ナンはびろーんとしたやわらかい、ゆるりとしたフォルム。「時間」というきっちりしたものが、「ナン」というルーズなかたちと融合することでゆったりとした時間を刻む、というコンセプトで制作しています。

――実際の制作過程を教えてください。

 兵庫県尼崎市にあるネパールカレー屋『Art and Nepal』からナンをご提供いただいています。ナンはそのまま防腐防カビ加工して、表面を塗料でコーティングして、パンプシェードの時と同じようにそのままの形をいかしつつ、時計のモジュールを中に組み込んでいます。

――ツイートに反響がありました、感想をお聞かせください。

 予想以上の反響です。確信的に面白い、と自分自身では思っていたからこそつくりましたが、こんなに多くのひとに共感してもらえるとすごく嬉しい。もう予約も数十件入っています。

――購入した人には、この時計をどんなふうに楽しんで欲しいですか?

 以前のわたしは、とても忙しく働いていました。しかし、このコロナ禍で良くも悪くも自分の時間を持てたことで自身の生活を振り返る機会になりました。また、そういう人が増えているように思います。

 ふだん気づかないだけで、生きていくなかで大事なことはいっぱいあります。この時計を持つことで、一見、むだに思える時間、ただ「楽しい」とそう思えるだけの時間をゆったりと感じてくれたら、そうすればきっと時計の持ち主の時間を、引いては人生を豊かにしていってくれるのでは、と思っています。

(まいどなニュース特約・山本 明)