上杉鷹山という米沢藩主がいた。「為せば成る為さねばならぬ何事も為らぬは人の為さぬ成りけり」で有名だ。ご存知の方も多いかもしれないが、ケネディ元大統領が、「尊敬する日本の政治家は?」と質問され「ウエスギ ヨウザン」と答えたとされる。が、この逸話の真偽は定かではない。ただ、内村鑑三の「代表的日本人」という英語で書かれた著書をケネディ元大統領が読んでおられてもなんら不思議ではない。ということは、あながち出鱈目な都市伝説の類とも言い切れないのだ。

「代表的日本人」は明治時代に内村鑑三が海外に向けて日本人の優れたところを知って貰うために英語で書かれた著書で、日本を代表する人物として西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮上人の五人の日本人について書いたものを一冊に纏めたものだ。現在は、日本語訳されたものが数多く出版されているので、英語が苦手な私でも容易に読むことができる。

内村鑑三は「代表的日本人」の上杉鷹山の章で封建制度について触れている。封建制度は旧政治体制で独裁者が行う専制政治を許すものだが、立憲政治下の代議制という進歩的な政治制度であっても投票箱のなかに専制政治は忍び込む隙があるという。そして、逆に封建制度下にあっても主君と家臣との間に本物の忠誠心があり、武士道の精神があれば家族のような絆で結びついた理想的な政治形態を作ることも可能であるとする。

財政が破綻し、倒れかけの藩であった米沢藩の家督を十代で継いだ上杉鷹山はその立て直しに成功したが、それは質素倹約を主とした政策のよしあしだけではなく、家臣とのあいだに家族間のような関係性を築いたからこそ叶った。そういうリーダーが封建制度の江戸時代の日本に存在していたのだということを海外に紹介したかったようだ。

また、「上杉鷹山言行録」には、師範である細井平洲が「春秋左氏伝」の「視民如傷」のところに触れ、「政治家が傷をいたわるように国民を見る国は必ず栄える。逆に、政治家が国民をゴミのように無視する国は必ず滅ぶ。」と講じたところ、上杉鷹山の目からはらりと一筋の涙がこぼれ落ちたと記述されている。政治家にとってもっとも大切なことは、「当事者意識」ではないか。いつの時代でも、もちろん現代の政治家にとっても必要な素養に違いない。当事者意識をもつことによって、国民の信頼を得ることのできる施策を打ち出すことができると考える。

ケネディ元大統領の有名な言葉に「国があなたのために何をしてくれるかを問うのではなく、あなたが国のために何を成すことができるかを問うて欲しい」というセリフがあるが、この考え方には上杉鷹山の政治姿勢が影響しているとも言われている。が、これも真偽のほどは定かではない。

◆北御門 孝 税理士。平成7年阪神大震災の年に税理士試験に合格し、平成8年2月税理士登録、平成10年11月独立開業。経営革新等認定支援機関として中小企業の経営支援。遺言・相続・家族信託をテーマにセミナー講師を務める。