駅前に捨てられていた生後間もない子猫

実依ちゃん(10歳・オス)は、東京・八王子、京王線の北野駅前で「拾ってください」と書かれた段ボールに入れられていた。当初は小学6年生の女の子が拾い、家族と協力して、まだ乳飲み子の実依ちゃんを育てたという。

しかし、残念ながら家庭の事情で猫を飼うことができず、里親を探す掲示を出していた。ちょうどその時、都内に住む酒井さんは、偶然その前を通りかかった。酒井さんは、力になりたいと思った。親子とは初対面だったが、酒井さんが猫を飼い慣れていることを話し、お母さんに酒井家の猫の暮らしを見せて信頼してもらって譲り受けたという。

最初は先住猫たちに転がされていたが…

実依ちゃんは、透き通った水色の目をした、幼い猫だった。酒井さんに初めて会った時、まだ生後1カ月になっていないようだった。片手の手のひらに乗るくらいの大きさで、体重は500g程度。そろそろ離乳食を食べ始められる頃だった。

2010年7月25日、酒井家に実依ちゃんがやってきた。最初の頃は、実依ちゃんに興味を持った先住猫たちが、小さな子猫をロコロと転がしてあやしていた。

「幼く、小さく、軽かったからでしょうか。同じ猫だと思っていなかったのかもしれません。1週間もすると実依も慣れてきて、近寄ってきた先住猫の鼻に噛み付いたり、ニャッ!と突然叫んで驚かせたりするようになりました。幸いどの猫とも仲良くなれました」

最初に保護してくれた女の子が、「みいちゃん」と名付けてくれたので、酒井さんは同じ名前を使い続けることにしたが、酒井家の猫は皆漢字で表記する決まりを設けているので、当て字を考えたという。

猫たちと一緒に実依ちゃんを育てた

実依ちゃんは、生まれた頃から人間に囲まれて暮らしてきたからか、人間を怖がらない。人間は誰でも自分と遊んでくれるものと思っているようで、外から人が来たときも、大抵の猫は逃げ隠れてしまうのに、実依ちゃんだけがお出迎えをするという。

ある時、畳屋さんが酒井家で作業をすることになった。他の猫たちは隠れてしまったが、実依ちゃんだけが職人さんの横に座っていた。職人さんの髪の毛の毛繕い始めたので、酒井さんに連れ出されることになったという。しかし、猫社会では威厳があるようで、実依ちゃんが睨むだけで他の猫は萎縮してしまう。

「人間にしかできないことがあるように、猫にしかできないこともあります。先住猫たちが実依の世話をやいてくれたり、遊び相手になってくれたり、猫社会のルールを教えてくれたこともありました。皆で実依を育てているという一体感を、私は感ぜずにはいられませんでした」

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)