車で全国47都道府県を巡って家族写真を撮り、最終的に写真集を出し、その収益を熊本県に寄付する。大阪を拠点に活動している女性フォトグラファーの木下誉元(よもと)さんが、そんなプロジェクトを立ち上げ、実行中だ。4月に出発し、7カ月掛けて日本を1周する。対象はおじいさん、おばあさん。何が、彼女を突き動かしているのか。「みんなで協力して被災地を支えたい」と語る木下さんを取材した。

「チャリティ・イベンター」を目指す女性カメラマン

 2017年から「四方の森(よものもり)」という屋号で、大阪を拠点に家族写真を撮り続けている女性カメラマンの木下誉元さん。「四方の森には東西南北(四方)すべてに森のように幸せが集まるようにという意味が込められています」という。

 そんな木下さんが目指しているのは、自身が考案したチャリティ・イベンターというものになること。「日本は世界に比べてチャリティに関してまじめに考えすぎているのではないかと思うことがあります。もっとフランクに楽しく誰でも誰かの力になれるんだということを発信したい」と意気込む。

 その一環として車で全国47都道府県を訪れ、家族写真を撮影。最終的に写真集を出し、その収益を寄付するというプロジェクトを思いついた。撮影費用の一部はクラウドファンディングで集めたといい、写真集の売り上げは2016年の震災、2020年の水害からの復興を目指している熊本県に寄付することに決めた。

 なぜ、そんなことを思いつき、写真集を出そうとするのか。実は過去に実家が火事になり、燃えた家の中から生活用品を家族総出で回収している中、母が必死で探していたのが家族のアルバムだったそう。その場では生きていくのに必要のないものに固執していた母に腹が立ったが、やがて落ち着いたころに、アルバムをめくり、写真の持つ力と母への感謝の気持ちで涙があふれ出たという。

 育った環境も影響しているかもしれない。木下さんは妹と弟がいる5人家族。「父がおいしいものを買ってくると5人分をきれいに分けるのがわが家のルールでした。また父は厳しい人で”食べたくても食べられない人がいるんだから”と、決してお残しは許してもらえませんでした。子供心に平等に分けることを学び、世の中には食べたくても食べられない人もいるんだ、と悲しい気持ちになったことを覚えています」

 大人になってからも頭の中では「ひとりひとりが、いまできることをすれば絶対に世界は変わるはず」と考えつつも、社会に揉まれ、自分のことで精一杯に。しかし、フリーランスのカメラマンになって4年。仕事に少しずつ融通がきくようになり、当時の気持ちが大きくなって甦ってきたと木下さんは話す。

 「私がこだわりたいのは、持っている人が持っていない人に分け与える時、楽しい気持ちで分け与えられる形を作りたい、ということです。そうすればもっと、たくさんの人がいい気持ちで分け与えるようになるから、きっと世の中は少しずつ明るくなるはず。将来的には楽しいイベントを企画して、参加費の一部を毎回いろんなところに寄付する形を作りたいと考えています」

クラウドファンディングで日本1周の撮影旅行に出発

 ただし、いまはコロナで思うようなチャリティイベントはできない。そこで、思いついたのが今回のプロジェクトというわけ。今年4月上旬、クラウドファンディングをスタートさせると開始から1週間で目標金額の90%に到達。「第1号となる大阪のおじいさま、おばあさまの撮影も始まりました」という。

 もちろん、コロナ禍のため、様々な工夫をこらす。感染を防ぐため、被写体のみなさんには感染防止のため、自宅の窓から顔を出してもらい、木下さんはマスクやアルコール消毒をし、5㍍以上離れての撮影。さらに、2人の思い出の場所や、その場所での思い出のエピソードをヒアリングし、実際に思い出の場所へは木下さんが出向いて写真に収める。

 「最終的に窓からのお写真と、思い出の場所のお写真を合成します。そこに思い出のエピソードを添えるのでほっこりする、すてきな家族の写真集ができると確信しています」と木下さんは手応えを感じ取っていた。

 それにしても、車での一人旅。苦労が絶えないのではと聞いてみると「最初の方で、肝心の相棒である車が故障してしました」と苦笑い。それでも、4月から始まった撮影は現時点で関西地方を振り出しに九州地方(沖縄を除く)、中国・四国地方がすでに撮影済み。7月からは中部地方、8月からは関東地方、9月からは東北地方や北海道、さらに10月には沖縄の撮影を予定している。

 「モデルを探しながらの旅ですが、クラウドファンディングなどで応援していただいているみなさんが背中を押してくださっている。写真集を作るというネクストゴールに向けて邁進中です」

目的地、熊本の被災地にも足を運ぶ

 この5月には本来の目的地である熊本県を訪れた。実際に現地の被災地を案内され、自然災害を経験したことがない木下さんは「ある日突然、日常が失われるという衝撃を目の当たりにし、ショックを受けた」という。そして、ますますチャリティ・イベンターになる思いを強くした。

 いよいよ「日本1周家族写真の旅」も、これからは後半戦へ。撮影の進捗状況は木下さんのインスタグラムで確認できる。かつてない注目の写真集は「来年中に出したいです」とのことだった。

 成功を祈らずにはいられない。

(まいどなニュース特約・八木 純子)