オリンピック以上に感動した、という声が多かったのがパラリンピックです。人間の可能性を示してくれた、と言っても過言ではありません。そんな現場に歯科医芸人のパンヂー陳こと陳明裕さんはボランティアとして参加していました。例年だと夏休み期間は歯科医師としてニューヨーク州立大バッファロー校で講義をしているところ。どんな役回りを演じたのでしょうか。

――パラリンピックもメディカルでボランティアに行かれたんですか?

「パラリンピックはドーピングコントロールのボランティアでした」

――ドーピングですか。重要な任務じゃないですか。いろんなボランティアがあるんですね。ということはパラリンピック選手の競技じゃなく、オシッコを見てたんですね。

「僕も、初めての経験で、競技は見られなくて、選手のオシッコする所しか見られないと思い込んでいて、あまり気乗りがしなかったんですが、行ってみると…」

――意外と楽しかったんですか?

「そうなんです。オシッコを見張るのはプロというか、それだけのために、カナダやイギリスから世界ドーピング防止機構のスタッフの方がいらして、僕らボランティアはドーピングに当たった人に、その旨を告げて逃げたり、不正を働いたりしない様に見張る役目でした」

――当たるって当日決まるんでしたっけ?

「世界新記録を出した場合は必ず受けないといけません。それ以外は、あらかじめ指名されている場合もあるようですが、ほとんどは金メダリストとか、3位・4位決定戦で勝った方とか、直前にパソコン画面上の本部からの指示を見て決めているようです。検査対象者が決まったら、まず、われわれボランティアの担当者が、対象者の競技が終わるのを待って、本人にその旨を告げて、宣告時間を選手が見ている前で記入します。それからは、服を着替えるところにも付いて行って、表彰式や記者会見場もずっと、近くで不正を働かないよう見張りながら、ドーピング検査室まで連れて行くというのが仕事でした」

――そりゃ、大変。なんだか嫌われそうな役ですね。

「そうなんです。お一人、指示が来た時点で既に、ご自身の競技が終って観客席で他の出場者と談笑しながらくつろいでいる所に”ドーピング検査です”って言いに行った時なんか、先方の顔がすっごい曇るのがわかりました。何ら、やましい事がなくっても、これからオシッコ見られながら検査されると思うと嫌な顔をするのも無理はないです」

――必要とはいえ、嫌な仕事でしたね。

「いえ、内心は”ドッキリ”を仕掛けるみたいで意外と楽しく働けました」

――なんちゅう性格ですか!で、担当した競技は何だったんですか?

「僕は自転車のトラックレースとパワーリフティング、重量挙げでした。ラッキーなことに帰りのエレベーターで偶然、245キロを持ち上げて優勝したモンゴルの金メダリストと一緒になったんで、お願いして一緒に写真撮らせて頂きました」

――おー、それは凄い!案外、厚かましいとこあるんですね。他に何か印象に残ったことありました?

「会場の外の植木には、選手への励ましのメッセージがたくさんありました。残念ながら日本語で書かれていたので、海外の選手にダイレクトには伝わっていないかもですが、ボランティア通訳の方もたくさんいらっしゃいましたし、きっと気持ちは通じたはずです。あと、選手の通路には各国の言語で励ましの言葉が書いていたり、千羽鶴などの折り紙を自由に持ち帰れるよう置いていたり、小さな心遣いが随所に見受けられました」

――陳さん、目の付け所がセンシティブ。なんだか誇らしい気分になりますね。温かい話です。

「温かいを通り越して熱かったのが自衛隊のみなさんです。メダル授与の時に、各国の国旗の掲揚を担当していらっしゃったんですが、僕らは半そで、半ズボン姿でも暑かったのに、全員詰襟の制服姿で任務を果たされていました。国旗掲揚で他国の国歌が流れる間、客席から見えない控えに居るのに、ちゃんと全員整列して国歌が鳴り止むまで敬礼をしていらっしゃいました。見えない所でも他国に敬意を示す姿は好感が持てました。パラリンピックは全試合無観客でしたが、大会スタッフや関係者の「おもてなし」の心がボランティアの僕にさえ伝わっていたのですから海外から来られた方々にもきっと届いたと信じています」

――貴重な経験をされましたね。オチがありませんが、今回は許しましょう(笑)。この経験を歯科医と芸人の二刀流にいかしてください。いや、もうひとつの不動産業にも。

(まいどなニュース特約・山本 智行)