高齢になればなるほど、羞恥心はなくなるのではと勘違いしていました。また、羞恥心から虚偽の申請を行うこともあります。紹介するのは、思わぬ結果を招いてしまった一人の患者さんの話です。

 85歳の男性です。昨年10月に貧血を主訴に胃カメラ、大腸カメラを施行しました。問診では、おしりからの出血はなく、痔などの自覚症状もないとか。高齢男性の貧血原因の多くは、消化管からの出血です。内視鏡検査で明らかな出血源を認めませんでしたので、貧血を改善する鉄剤を投与しました。

 貧血も改善し、ご本人も調子がいいと言われましたので、経過観察をしていました。ところが、少し時期を置いて再検査をすると以前のように貧血を認めます。その方は、85歳ながらしっかりしておられ、娘さんとは離れて一人で暮らされています。今回の外来は娘さんが、たまたま付き添いで来られました。

 娘さんによると、便器に比較的多くの血液が付着しているのを見たとか。1年前に消化管の検査をしているので新鮮血が付着しているのなら、痔で間違いないだろうと思い、「本当はおしりから出血していませんでしたか?」と伺いましたところ「時々していた」と話しをされます。

 痔の診察の準備をして診察台で患者さんの患部を診たときに愕然(がくぜん)としました。陰嚢の裏に約5センチの大きな潰瘍があります。肉眼でも悪性に間違いないと思えました。以前から病変はありましたが、虚偽の申請をしてでも、他人に見せることが嫌で仕方がなかったようです。

 理由を聞くと「だって恥ずかしいやろ」と。数年前から自覚症状があったようですが、陰部を他人に見せることができなかったようです。時には命にもかかわる診察とはいえ、外陰部を人に見せることは何歳になっても難しいものだと痛感しました。

◆谷光 利昭 兵庫県伊丹市・たにみつ内科院長。外科医時代を経て、06年に同医院開院。診察は内科、外科、胃腸科、肛門科など。