現在、中古車市場で値段が上がり続けている「空冷ポルシェ」。そんな貴重でクラシックなポルシェに実際に乗れる機会がありました。

 ポルシェというと、まさにスポーツカーの代名詞のようなクルマですが、たとえばフェラーリやランボルギーニといったイタリア製のスーパーカーがよく「情熱的」と評されるのと比べると、ポルシェにはなんとなくクールなイメージがあります。実際、一部の過激なモデルを別にすると、スポーツカーでありながら普通に乗用車として乗れるような実用性、耐久性もある、という感じでしょうか。

 「フェラーリやランボルギーニみたいに突然燃えたりしない安心感」とでもいいますか、さすがドイツ車ですよね。ドアを閉めたときの音も「かちゃっ」と揺るぎのない感じで、屋根に人が乗っても大丈夫なくらいのボディの頑丈さと相俟って、よく金庫に例えられたりもします。

 そんなポルシェの代表的な車種に911と呼ばれるシリーズがあります。1964年にタイプ901と呼ばれるモデルがデビューして以来、930、964と進化しながら、いまも「911」として生産が続いています。

 911の特徴の一つは「水平対向6気筒の空冷エンジン」だったのですが、1997年に発売された996型以降、これが水冷エンジンになりました。もちろん水冷になって性能はアップしたのですが、空冷と水冷では音や特性が違うので、旧型の空冷を愛するファンが根強く、生産終了から時間が経つごとにこの空冷時代(1997年以前)のポルシェは値段が上がり続けていて、特にここ数年は急騰しています。

 そんないまではなかなか触れることのできない、貴重な空冷時代のポルシェに試乗することができるイベントが大阪でありましたので、ちょっと出かけてきました。

もうすぐ車齢60年…いまも現役ばりばり

 今回のイベント「わくわくポルシェ塾」を開かれたのは、大阪市天王寺区のヤナギオートサービスさん。1960年、911の前の356の時代からポルシェを販売されてきた老舗です。きれいなショールームに最新型のポルシェが並べられた、いわゆるお金持ちの人以外ちょっと入りづらい雰囲気のポルシェディーラーと違って、ここはどどーんと整備スペースが中心にある、なんとなく親しみやすい空気が漂うお店です。

 わくわくポルシェ塾は今年で10回目。予約制で、比較的新しい930以降の空冷ポルシェを自分自身で運転できる「Driving PORSCHE」と、356等のもっと旧いポルシェにお店の人の運転で乗れる「わくわくポルシェドライブ体験」があります。実は筆者は去年、このイベントで930を運転させていただいたので、今回はお店の人の運転で1964年式の356Cに乗せていただきました。

 このクルマは先代の社長が新車から乗られているもので、現社長が生まれるときにお母さんを乗せて病院へ行った、というエピソードを話しておられました。もちろん素晴らしく整備が行き届いていて、600回転辺りのものすごく低い回転数で安定してアイドリングしています。シートに座って二点式のシートベルトを締め、ドアを閉めると、かちゃっ、という軽やかな中にも断固とした音がします。もうすぐ車齢60年になろうかというクルマとは思えません。

 1トンを切る車重に90馬力(カムシャフトを交換されているそうです)のエンジン。いまでこそものすごいハイパワーではありませんが、それでも充分に軽快でパワフルです。これはもちろんお店の方の運転がものすごく上手だからというのもあると思いますが、とにかく乗り心地も軽やかで気分がいいです。

 この日はまるで鈴木英人さん(80年代、FMステーションの表紙や山下達郎さんのレコードジャケットなどを描かれていた)の絵のような秋晴れで、こんな日にこういう車でふらっと出かけられたらもう最高だろうなあと思いました。そういえば鈴木英人さんはものすごいポルシェ好きで、この356も複数台持たれていると聞いたことがあります。

 フロントウインドウ越しの見慣れた谷町筋の道路に、今日はなんとなくカリフォルニアの風が吹いているような気がしました。

「これまでに生産されたポルシェのうち、7割が道路を走っている」

 お店に戻ると、社長さんのポルシェトークが始まっていました。その中で「これまでに生産されたポルシェのうち、まだ7割が現役で道路を走っている」(つまり部品も供給される)ということと、あと「いままでお店のお客さんで、事故をされた方は居るけどそれで亡くなった方が一人も居ない」というお話が印象的でした。

 ポルシェというクルマの耐久性と、素晴らしいブレーキや車体の頑丈さに支えられた安全性。たとえば普通のクルマが10年もしないうちに新車に乗り換えられる、それが当たり前の世の中で、きちんとメンテナンスをすれば「一生ものとして乗っていける」というところもまた、ポルシェの魅力なのだろうなあと感じました。

(まいどなニュース特約・小嶋 あきら)