「熱の花」と呼ばれる「口唇(=こうしん)ヘルペス」。例えば風邪を引いて熱が出た後、唇やその周りに小さな水ぶくれができる場合があります。目立つだけではなく、治る段階でかさぶたもできるため見た目がよくなく、痛みもあって辛いですね。患部に触れたり、ウイルスがついたタオルやコップなどを使ったりすると他人にもうつります。さらに再発もするため、本当に厄介な「花」です。

口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)によって引き起こされます。帯状疱疹を起こすウイルスとは似ていますが別物です。HSV−1に初めて感染しても症状が出ないことが多いですが、口内炎ができ、歯茎などが腫れ、強い痛みを伴うこともあります。感染後HSV-1は体内からなくなるわけではなく、こめかみの奥にある三叉神経節に潜伏感染(症状は出てないが感染している状態)しやすい特徴があります。

ストレスがたまったり、高熱が出たりするなどして免疫力が落ちると、三叉神経節に潜んでいたHSV-1の動きが活発になり、唇などに小さな水ぶくれを作ってピリピリと痛むことがあります。水ぶくれの中などにいるHSV-1に触れると感染してしまうため、気になっても患部を触らないようにしましょう。治まるまで歯科治療を暫く延期することもあります。放っておいても2週間前後で自然に治まりますが、軟膏で症状を抑えたり、抗ウイルス薬で三叉神経節内のHSV-1の量を減らしたりする治療が行われます。しかし、残念ながらウイルスを完全にゼロにすることはできません。

ところでHSV-1が潜む三叉神経節ですが、ここには三叉神経の細胞の核を含む細胞体が集合しています。三叉神経は脳を出て三叉神経節を経て目の方向、上顎の方向、下顎の方向と3つに分かれ、額、目や鼻の周囲、上下顎の歯や歯茎、唇、舌などに広く伸びていきます。体の抵抗力が落ちるとHSV-1が増え、神経を通じて口の端(口角「=こうかく」)や唇などに移動し、炎症を起こします。

厄介なのは、HSV-1が顔の筋肉を動かす顔面神経に何らかの影響を及ぼし、ベル麻痺(=まひ)と呼ばれる突発性顔面神経麻痺を起こす原因と考えられていることです。ベル麻痺になると顔の片側がゆがみ、水などを飲もうとしてもうまく飲めなかったり、片目を閉じることができなくなったりします。ひどい場合は麻痺が残ることもあります。口唇ヘルペスは自分自身ではにきびなどと考えてしまい、よくわからずそのまま放っておくケースも多いものと思われます。異常があれば自己判断せずに医療機関を受診し、症状を軽いうちに抑えるようにしたいものです。

◆中塚 美智子 大阪歯科大学医療保健学部教授。歯科医師、労働衛生コンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士。