久太郎くん(17歳くらい・オス)は、ある会社で番犬として飼われていた。飼うといっても駐車場の一角に繋ぎっぱなしにして、散歩はなし。残ったフードや水を片付けることなく上から継ぎ足しているような状態だったので、不衛生だったという。会社が休みの時は無人になるので、数日間ごはんをもらえないこともあった。

鹿児島県に住む隆二朗さんは、2019年1月に久太郎くんに出会った。

「隙間だらけの小屋は雨風も日差しも十分には遮ってくれず、そこから長さ2メートルほどの鎖が伸びる範囲だけが久太郎の世界でした。ネグレクト飼育されていて、最初は飼い主に断って動物病院に連れて行きました」

足の爪は伸び放題 散歩に行ったこともなかった久太郎くん

散歩に行ったことがない久太郎くんの爪は伸び放題。伸びた狼爪が肉球に刺さり、脚の甲の皮膚を突き破り、外に出た爪がもう一度肉球に刺さっていた。隆二朗さんは、今、その姿を思い出しても胸が痛むという。

車に乗せる時、素直に乗ってくれるか、噛まれるのではないかと心配したが、「病院に行くよ、怪我を治してもらおうね」、と声をかけると、久太郎くんは言葉が通じたかのように乗ってくれた。

「道中も『ここが痛いんだよ』と言うように、前脚を私の足に乗せてきました」

その後、隆二郎さんは飼い主の意識が変わることを願って、交流を持ちながら久太郎くんの世話を手伝った。しかし、飼い主が気持ちを改めることはなく、やがて久太郎くんは体調を崩してしまった。動物病院に連れて行くと、腎臓病を患っていたそうだ。

「飼い主に療法食を食べさせたり、薬や点滴などの治療を受けさせたりすることは無理だと思いました。私たち夫婦は猫を飼っていたので簡単には決められなかったのですが、二人で何度も話し合い、久太郎を引き取ることにしたんです」

「もっと犬らしく生きていいんだよ」

2019年8月、隆二朗さん夫妻は久太郎くんと暮らし始めた。

「久太郎に名前はなく、『犬』と呼ばれていました。(引き取った時は)長くて半年から1年の命だという診断だったので、病気をはねのけ、もっと長く生きて欲しいと思って久太郎と名付けました」

久太郎くんが人を信じてくれるか、家に馴染んで猫とも仲良く暮らすことができるか、夫妻は心配したが、とても穏やかでフレンドリーな性格だったという。ただ、排泄は外でしかしなくて、家の中でもできるようにトイレトレーニングをしたが、タイミングが合わないと家の中のどこにでもオシッコをしてしまうので困惑したそうだ。久太郎くんは2022年4月初旬に亡くなったが、晩年は、老化に伴うことや夜鳴きという悩みもあったという。

「困ったなあと思うことも多かったのですが、それ以上に愛しく、毎日久太郎のおかげで、笑顔で暮らすことができました」

久太郎くんがとても穏やかな性格なので、「ずっと感情を押し殺して生きてきたんだから、もう少し犬らしくはしゃいだり、わがままを言っていいんだよ」と夫婦は話しかけていたという。しかし当の久太郎くんは、「何言ってるの?」と、キョトンとしていたという。

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)