東京都内では現在、都民の命と安全を守る「119番通報」が非常につながりにくい状況が続いているという。
9月11日、東京消防庁はX(旧:Twitter)を通じて、「不要不急の電話については最後までお話を聞かずに切断する場合があります。他の緊急通報を優先するための措置ですので、ご理解をお願いします」という、異例の呼びかけを行った。
この呼びかけに対し、多くの医療関係者が注意喚起のメッセージをXに投稿。糖尿病内科医で運動療法の専門家でもある筋肉博士 Takafumi Osaka(@muscle_penguin_) さんもこんなつぶやきを投稿。1万6千以上のいいねがついた。
「『不要不急の電話については最後までお話を聞かずに切断する場合があります』って、どれだけロクでもない電話がかかってるんだ…。救急車が行きません、じゃなくて、『119』が『最後まで聞かずに電話を切る』って相当キレてますよ」
Osakaさんの投稿に対し、コメント欄には多くの声が寄せられた。
本当に「どうでも良い通報」ばっかり…
「タダで使えるタクシーのつもりで呼ぼうとする者もいる、と聞いたことがあります」
「知り合いの消防士から聞いた話ですが、エアコンが壊れた、部屋に虫が出た、買い物途中疲れたから迎えに来て、いつもより寝つきが悪い、家のドアが外れた、など本当にどうでも良い通報ばっかで対応したくないと言ってました」
「ただでさえ救急が来ても病院側が対応出来ない、入院出来ないからタライ回しにされるのに、余計な電話までかけてくるんじゃねぇ」
また、救命センターで働く方からは、「子供が泣き止まないっていう救急要請も時々ありますよ。診断名『夜泣き』でした」という経験談も寄せられた。
寄せられた多くの声に対し、「これは有料化だけでは解決しないところだと思っていて、“お金払うから救急車呼んでも良い”を増長させるだけにつながるんじゃないかと。『#7119』などがもっと広がって欲しいですね」と、投稿していた筋肉博士 Takafumi Osakaさん。ひっ迫する救急通報の現状とその解決策について、Osakaさんにお話を聞いた。
「最後まで話を聞かない」は通常あり得ない事態
ーー先生ご自身も、救急救命の現場に立ち会われることはよくあるのですか?
「大学病院やそれに準じた病院以外では、救急のほとんどは救急医以外が診ることが多いです。私も研修医の頃からずっと、当番や当直などの形で救急医療に携わってきました」
ーー「119が最後まで聞かずに電話を切る」というのは、実際のところ、どれぐらい非常事態なのでしょうか?
「119にかけるとまず消防指令センターに繋がります。そこで、火事か救急かをまず聞かれ、その後、今の状況について話すことになります。話をよく聞かないと救急車か消防車、どちらをどこに派遣したらよいのかわかりません。なので、指令センターの方は丁寧に話を聞いてくださいます。そのため、『最後まで話を聞かない』というのは通常あり得ません」
ーーそれだけ緊急性のない通報が多い、と…。
「東京消防庁のホームページによると、『今診察している病院を教えて欲しい』『電気が消えなくなった』など、明らかに緊急性がなく、消防に関係のないものが全体の約2割も含まれています。昨年、119番通報が100万件以上あったことを考えると、『助かる命を助ける』ためには、途中で通話を切ることは必要な対処なのかもしれません」
「これは救急車で来てほしかった…」という例も
ーー救急通報をするべきか、判断に迷う場合はどうすれば…?
「実は非常に難しい問題です。『呼吸をしていない』『意識がない』など、明らかに救急車を呼んだ方が良い場合と、『タクシー代がかかるのが嫌』『どこの病院に行ったらいいかわからない』など、明らかに救急車が不適切である事例はわかりやすいと思いますが、その中間の事例については、悩む例がたくさんあると思います。実際、救急を受ける側としては、これは救急車で来てほしかったという例と、これは救急車で来る必要はなかった、という例が複数あります。
特に前者については、傷病者の命にかかわるケースもあります。そういった事を防ぐためにも『#7119』の利用が勧められます。ただ現在、『#7119』ですらつながりにくいことが多く、東京消防庁が公開している『東京版救急受診ガイド』などを利用するのもよいかもしれません」
ーー救急通報をひっ迫させないために、私たちが心得ておくべきことはありますか?
「救急車の不適切利用の話が出てきますと、そういったことが気になってしまい、本来なら必要だった119番通報をしなかったがために手遅れになってしまう方が出てきます。特に救急車を呼ばないといけないような特殊な状況は、人生で何度もありませんし、かなり緊張していることと思います。あらかじめ、『東京版救急受診ガイド』などをブックマークしたり、総務省消防庁が公開している、『救急車を上手に使いましょう』というサイトに目を通しておくといいかもしれません。必ず救急車を呼んだ方がよい状況や、救急車を呼んだ時に用意しておいた方がよいものなどが書かれてますので、一度ご覧になってみてください」
※救急安心センター事業(#7119):急なケガや病気の際、救急車を呼んだが方がいいか、今すぐに病院に行った方がいいか、また、受診できる医療機関はどこかなど、医師・看護師・相談員などの専門家からアドバイスが受けられる電話相談窓口のこと。
「コロナで高熱」→救急車を呼ぶのは不適切?
先日、「コロナの高熱」で救急車を呼んだ漫画家に対して批判の声があがったが、「コロナ陽性の高熱については十分に救急車適正使用だろうと思います」と、Osakaさん。
「特にコロナの肺炎はhappy hypoxiaといって、体の中の酸素の量が減っていても呼吸苦がなく、急に意識がなくなり、不整脈などで突然死ということもあります。ワクチンを打っているとそのリスクは減りますが、自分では重症度がわかりにくい病気の一つです。ただ、『自力で病院には行けるけど、どこに行ったらいいかわからないから119』という場合は明らかに不適正です。ちなみに、『#7119』ではなく『東京版救急受診ガイド』のサイトで確認したところ、『高熱でハァハァしている』という症状を選択すると『救急車を呼べ』となっていました」(筋肉博士 Takafumi Osakaさん)
救急通報は命を救うための大切なホットライン。常識ある判断で適切な利用を心がけたい。
糖尿病専門医であるOsakaさんは、自身を含む6名の糖尿病内科医たちと共に、糖尿病と関わるすべての人のためのメディア「あおいろサークル」を運営。糖尿病をもっと楽しく知るためのさまざまな情報を発信している。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ かな)